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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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8/50

閑話 詠唱を止めろ

※私が書いてた『白金皇装』原作の展開・能力に触れる回です。

 募集文を書きかけた奈緒が、別の画面を開いた。


「五人で戦うところ、これが好きで」


 世界大会の試合映像だった。再生位置は終盤。城壁に囲まれた街を上から映す画面に、残存四チームと出ている。


 哲史は椅子を寄せた。


「白金皇装か」


「知ってる?」


「名前は。使ってるやつとは、まだ当たってない」


 画面の中央に、白い髪の青年がいた。


 テオドリック・シルシュ・ホルスヴェルグ。その姿を借りた選手が、剣を下げて石橋の入口に立っている。


 選手紹介には、世界ランキング一位の表示があった。


 その背後を四人が走る。武器を構えた二人と、荷物を抱えた二人。逃げる速度の違う五人が、橋の手前でひとまとまりになった。


『あと一回、収縮をしのげばいい。ただし、ここからが厳しいですよ』


 解説者の声に合わせ、奈緒が表示を指した。


「残り三チームで最終収縮まで行くと、特殊勝利を狙えるの。でも、臣民を倒されると、対応する護衛まで退場になる」


「二人まとめて落ちるのか」


「うん。だから、この編成はあまり見ない」


 哲史は映像へ目を戻した。


 橋の向こうには門があり、その奥から銃声がした。


 テオが剣を立てる。弾かれた弾丸が、橋の欄干に白い傷をつけた。臣民の一人が頭を下げ、壊れた荷車の陰へ滑り込む。


 その臣民へ、右の屋根から別の弾が来た。


 護衛が割って入る。肩に小さな表示が浮かんだ。倒れず、臣民を荷車の奥へ押し込む。


「門と屋根、別チームだな」


 哲史が言うと、観戦画面が切り替わった。


 屋根の射手は、門の射手へ照準を向けていなかった。


『白金を先に落とす。橋へ出すな』


 敵側のチーム音声だった。


 門の内側でも、剣を持った選手が身を低くする。銃撃に合わせて飛び出すつもりらしい。


 テオはまだ橋へ入らない。


 荷車の陰から臣民が手を伸ばした。橋の入口へ、小さな煙幕を転がす。


 白い煙が欄干を覆った瞬間、五人が動いた。


 先頭の護衛が盾を上げる。その背へ臣民が続き、もう一人の臣民をテオと残る護衛が挟む。


 門から剣士が出た。


 テオが前へ出る。相手の剣を押さえ、肩をぶつけて門柱へ追い込んだ。


 そこで、屋根の射手が走った。


 煙の上を回り込み、橋を横から見下ろせる位置へ移る。


「あ、そっち――」


 奈緒の指が止まった。


 テオも顔を上げていた。押さえつけていた剣士を離し、橋へ戻る。


 間にいた護衛が盾を返す。


 最初の二発は防いだ。三発目に合わせ、門の銃口が火を噴いた。


 盾の裏側で、臣民の胸に青い格子が走った。


 その身体が消える。同時に、盾を持った護衛にも格子が広がった。


 テオが伸ばした手は、消えていく盾の縁をすり抜けた。


 直後、背中へ剣が入った。


 奈緒が息をのむ。


 テオの負傷表示が増えた。彼は振り返りながら斬り返し、追撃を止める。そのまま後ろへ下がり、残る二人を門柱の陰へ入れた。


『ケルベールも退場! 残る護衛はニーナ、臣民は一人です!』


 画面の端で、別のチームの表示が消えた。


 残存三チーム。


 テオたちの三人と、門の二人、屋根から迫る二人が残っていた。


 奈緒の膝の上で、両手が重なる。


 世界一の選手でも、身体は一つだった。


 門の二人を押し返せば、屋根側から弾が来る。屋根へ向き直れば、門の剣士が臣民へ踏み込む。


 ニーナが剣を振って、その足を止めた。


 テオは門の射手を狙った。門柱から身を出し、銃口が動くより先に間合いへ入る。


 射手が銃を捨てた。


 腰の短剣を抜き、刃を受ける。一撃で膝をついたが、倒れきらず、門の内側へ転がった。


「仕留めないんだ」


「戻らないと、後ろが死ぬ」


 哲史が答えるより早く、テオは戻っていた。


 ニーナの剣を抜けてきた敵の腕を斬る。空いた左手で臣民の襟をつかみ、門柱の裏へ引いた。


 屋根の射手は、もう撃っていた。


 テオが臣民を突き飛ばす。


 一発が脇腹へ入った。それでも剣を上げ、次の弾を弾く。


 屋根から降りていた敵のもう一人が、門柱の反対側へ回り込んだ。


 臣民が顔を上げる。


 手にしていた短い刃を突き出した。敵の腹へ届く。その腕をつかまれ、引き寄せられた。


 ニーナが駆け寄る。


 テオも踏み出した。


 敵は臣民の身体を盾にして、刃を振り抜いた。


 青い格子が、二人を奪った。


 ニーナの切っ先が、敵へ届く寸前で消えた。


 奈緒が口元を押さえた。


 門前に残ったテオは、左脇をかばっていた。


 背中にも傷がある。剣を握る右手だけは下がらない。


『単独になりました。皇装の条件には入っています』


 解説者の声が少し低くなった。


『ただ、あの負傷で扱えるか』


「……一人でも、まだあるんだ」


 哲史がつぶやいた。


 奈緒がうなずく。


「最後まで守ろうとして、一人になったときだけ。最初から臣民を見捨てたら、出ない」


 テオの視点が映った。


 発動の選択。その直後、目の前に文字が開く。


 兄弟皇装。


 画面の隅に、解説用の表示が重なった。


 兄弟皇装、九十八パーセント。全出力二倍。三分後、強制退場。


 創世皇装、二パーセント。全出力五倍。六分後、強制退場。


 奈緒は数字より先に、その下へ現れた詠唱を見ていた。


「これ、原作だと、お兄さんたちが言うところ」


 テオが顔を上げた。


「二剣を門に」


 門の剣士の表情が変わった。


『詠唱を止めろ!』


 叫び終える前に踏み込んでいる。


 喉へ突き出された剣を、テオは外へ流した。身体を半分だけ開き、敵の肩を門柱へぶつける。


「我らが血を鍵に」


 銃声。


 テオが膝を折った。顔のあった場所を弾が抜ける。


 下げた剣を返し、追ってきた刃を受ける。傷のある脇腹が縮み、口の端がわずかに引きつった。


 声は止まらなかった。


「皇統よ、白金の証をここに――」


 屋根側の二人も走ってきた。


 前に剣。横に銃口。


 テオは門柱を蹴った。


 前へ出ていた剣士の背後へ回る。射手が引き金にかけた指を止めた。その一瞬、剣士が首をひねる。


「――|《皇装》」


 石畳へ、二本の剣が突き立った。


 細身の剣と、大剣。


 その柄を握る二人が、白金の光の中に立っていた。


 ペルセドリック。メレアドリック。


 テオの足元から白金がせり上がる。


 脛を覆い、胸を閉じ、剣を握る指へ届く。大剣から散った金色の火花が鎧を走り、細身の剣を伝っていた青白い雷がテオの刃へ移った。


 二人の兄の姿が、光へ溶けた。


 敵の剣士が、門から飛び退いた。


 テオの剣が振られた。


 受けた剣ごと、敵の身体が門柱へ叩きつけられる。


 青い格子がはじけた。


 残り二分五十九秒。


 奈緒は息を吐くのを忘れていた。


 哲史の肘が、膝から離れた。


「今の足、もう一回見たい」


「え、今?」


「あとでいい。続けて」


 奈緒が再生画面へ伸ばしかけた手を戻す。


 門の射手は逃げていた。短剣を収め、石の階段を駆け上がる。


 もう一組も左右へ散った。


『三分だ! 距離を取れ!』


 敵側の音声が、息で乱れていた。


 テオが追う。


 橋から門へ、一歩で距離が縮んだ。着地した足の下で石畳が割れる。


 次の一歩が出る前に、身体が横へぶれた。


 傷のある左側へ体重が落ちたのだ。


 射手が振り返って撃つ。


 テオは剣で弾をそらしたが、追いつけなかった。階段の上へ敵が消える。


『負傷は消えていません。出力が上がったぶん、踏み込みの負担も大きい』


 解説者が続ける。


『三分もつとは限りませんよ。操作を誤れば、その前に安全停止です』


「普通の人だと、動いただけで退場することもあるって」


 奈緒が言った。


 哲史は、テオの足を見ていた。


 次に走り出したとき、歩幅が変わった。


 右足で強く蹴り、左足は浅く置く。階段の角を曲がるところでは、壁へ手をついた。手甲が石を削り、その抵抗で身体の向きを変える。


「あれ、壁で止めてる」


 奈緒が画面へ顔を寄せた。


「脚だけじゃ曲がりきれないから?」


「うん。さっき一回ずれただけで、もう直した」


 階段の先で射手が待っていた。


 テオが上がってくる高さへ、銃口を据えている。


 白金の兜が見えた。


 発砲。


 直前、テオの姿が下へ沈んだ。


 階段を一段だけ下り、頭を隠したのだ。


 弾が石の縁を砕く。その破片と一緒に、テオが飛び込んだ。


 射手が銃を立てた。間に合わない。


 青い格子が広がった。


 残存二チーム。三対一だった敵が、二対一になった。


 残り一分四十一秒。


 奈緒が小さく声を上げた。


 哲史は身を乗り出したまま、画面の端を見た。


 残る二人は、門の内側の広場へ逃げていた。噴水を挟み、互いに違う方向を向いている。


 どちらかを追えば、もう一人が背中を撃てる。


 テオは階段を下りなかった。


 城壁の上へ向きを変え、そのまま走る。


『上! 回ってくる!』


 射手が銃口を上げた。


 白金が胸壁の陰へ消える。


 敵の前衛が、広場の出口を振り返った。


 収縮の境界が来ていた。街路の奥から、進入できる範囲が狭まってくる。


 二人は噴水のそばへ寄った。


 テオは飛び下りない。


 残り一分。


 奈緒が時計を見た。


「待ってていいの?」


「下りたら、また二方向から来る」


 哲史の指が、噴水の裏を示す。


「あそこが狭くなるまで待つんだと思う」


 残り四十秒。


 射手が後退した。収縮に押され、噴水の縁へ背中が触れる。


 その横へ、味方の前衛が入った。


 城壁の白金が動いた。


『来るぞ、撃て!』


 銃声が続く。


 テオは真下へ落ちた。胸壁が、落下の途中まで身体を隠す。


 射手が狙いを下げる間に、剣が届いた。


 前衛が受ける。


 刃がぶつかり、両足が石畳を滑った。それでも踏みとどまる。射手へ届く軌道から、白金の剣を押し出した。


 テオの左膝が沈む。


 前衛の目が、その膝へ落ちた。


『脚だ!』


 射手が横へ回る。


 テオは膝を伸ばさず、右足で前へ出た。


 敵と触れるほど近い。


 柄頭が前衛の顎を打った。上を向いた顔の下へ、返した刃が入る。


 青い格子。


 射手は構え直さなかった。味方が消える場所へ、すでに銃口を向けていた。


 哲史の指が椅子の端をつかんだ。


 テオの左手が伸びる。


 銃身を押し上げた。


 発砲音が響く。弾は兜の横を抜けた。手甲の指がひしゃげ、負傷表示が浮かぶ。


 射手が銃を放し、短い刃を抜いた。


 テオの脇腹へ向ける。


 白金の剣が、その腕ごと走った。


 最後の青い格子が消えた。


 残り十八秒。


 勝利の表示が、画面を覆った。


 奈緒がようやく背もたれへ身体を預けた。


「……知ってても、息止まる」


 哲史は何も言わなかった。


 映像の中で、テオが剣を下ろしていた。左腕は上がらず、立っているだけで身体が傾く。


 それでも、三分を使い切る前に全員倒していた。


「二倍になれば勝てるって感じじゃなかったな」


「うん」


「最後、銃をつかみに行くのか」


 哲史は自分の左手を開いた。指を曲げ、さっき見た位置へ差し出してみる。


 奈緒がその手を見て、少し笑った。


「やってみたくなった?」


「あの距離で銃口を上げられるかは、試したい」


「そこなんだ」


 奈緒は再生位置を戻した。


 門前で、一人になったテオが映る。


「私はここ。原作では、お兄さんたちが一緒に言ってくれるのに。このときは、一人で全部言うんだよね」


 哲史は画面を見た。


 横から銃口が向く。正面の剣士が、息を吸った口を狙って踏み込む。


 その中で、テオは唱え始める。


「……よく言い切ったな」


 奈緒がうなずき、映像を止めた。


「最初の足、ここでいい?」


「もう少し前。皇装が出る直前から」


 募集文の画面は、後ろに開いたままだった。


 奈緒は再生速度を落とし、哲史はもう一度、椅子を近づけた。


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