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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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045_九撃破の二位

「弓、中央へ移った」


 律は追って柱を離れた。


 案内板が邪魔で、敵の弓の先しか見えない。もう少し右へ寄れば、哲史へ通る射線を切れる。


 そのとき、敵の小盾が千景から離れた。


 小盾の男は東へ逃げるように二歩下がり、柱の北を回った。奈緒を追うのをやめ、西へ走る。


「盾が律さんへ!」


 千景が声を飛ばした。


 律はすぐに戻った。矢を番えたまま、南の柱を目指す。


 中央へ移った射手が、その柱の西側を狙っていた。


 矢が律の腿へ当たる。


 膝が曲がり、戻る速さが落ちた。


 小盾の男が追いつく。律は近い距離で矢を放った。男の小盾が上がり、その下に出た脚へ矢が刺さる。


 男も足を止めた。


 律は弓を引き戻し、柱へ身体を寄せる。


 哲史が駆けた。


 案内板の横から槌が出た。


 男は哲史を打ち倒そうとはせず、長い柄を低く横へ払った。飛び越えれば、その着地へ中央の弓が来る。


 哲史は柄を盾で叩き落とし、穂先を槌の男の腹へ送った。


 男は身を引いた。腰に表示が開き、背中が案内板へ当たる。


 その間に、律の前で剣が動いた。


 律は柱へ弓を当て、剣を外へ押した。男は押し返さずに刃を引き、腿の傷を庇う律の足へ盾を当てた。


 身体が横へ倒れる。


 次の剣が入った。


 律の格子が開くのと、哲史が槌の横を抜けるのは、ほとんど同時だった。


 小盾の男は振り返り、律へ追撃する姿勢のまま剣を上げた。


 哲史はその剣を槍で叩き、男を柱へ押した。穂先が肩へ入る。男が盾を返すより早く、柄が顔の前を横切った。


 男はしゃがみ、背中を柱へ擦りつけた。


 中央から矢が来た。


 哲史は盾で受けたが、その間に男が柱の裏へ逃げた。追えば背後を射られる。


 哲史はその場で足を返した。


「奈緒、中央へ寄るな。東のまま」


 千景はもう、奈緒を次の柱へ移していた。


 槌の男が二人へ向かっている。


 哲史に追いつけなかった男が、先に奈緒たちの道へ入ったのだ。


 千景が鉤剣を伸ばす。槌の柄へ掛け、振り上げる腕を止める。


 男は前腕の傷に顔を歪めながら、槌を持ち上げるのをやめた。そのまま柄の端で千景の腹を押す。


 千景の背中が柱へ当たった。


 小盾が間へ入り、鉤剣が柄を引く。男の膝が崩れた。


 奈緒には、千景が押し返したように見えた。


 中央から放たれた矢が、千景の肩へ刺さった。


 鉤を引く腕が落ちる。


 槌の男は立ち上がらず、膝をついたまま横へ振った。小盾が衝撃を受ける。千景は奈緒のいる側へ倒れないように、足を外へ踏ん張った。


「走ってください」


 奈緒は柱の裏へ走った。


 もう一度、鈍い音。


 千景の表示が消えた。


 奈緒は振り返らず、次の柱を目指した。哲史が中央から近づいてくる。合流できれば、まだ戦える。


 柱の隙間に、弓が見えた。


 奈緒は足を止めずに外へ折れた。一射目が袖を掠める。柱へ手をつき、その陰へ身体を入れようとした。


 脚に矢が入った。


 奈緒は倒れながら、中央を指した。


「弓、案内板の北」


 哲史がそちらを見た。


 奈緒の視界に三射目が迫り、景色が青く区切られた。


     ◇


 哲史は、奈緒のいた柱へ向かう足を止めなかった。


 槌の男がそこにいる。


 顔を上げ、傷のある腕で武器を持ち上げようとしていた。


 哲史は男の膝へ槍を伸ばした。


 男が腰を引く。


 哲史は突き切らず、盾で槌の頭を押した。持ち上がりかけた武器が下へ戻り、男の前を塞ぐ。


 その横を抜けた。


 狙いは男ではなかった。


 案内板の北に、弓がある。


 律の矢を肩に受けた射手が、矢筒へ手を伸ばしていた。


 哲史は走った。


「こっちへ来る!」


 射手が叫び、北へ下がる。


 小盾の男が西から回ったが、脚には律の矢でついた損傷がある。哲史より先に案内板の北へ届かない。


 射手は背中を向けて逃げなかった。


 弓を引き、走る哲史の胸へ一射。


 哲史の盾が矢を受ける。


 上腕に重なる衝撃を、そのまま前へ運んだ。


 射手が腰の刃を抜く。


 哲史は槍を長く持ったまま、刃の届かない距離から手首を突いた。


 短い刃が落ちる。


 射手は傷のある肩を柱へ当て、横へ回った。哲史の槍も柱を回る。顔を出す前に、穂先が来ている。


 射手は逆へ切り返した。


 哲史は柱の横で待っていた。


 盾の縁が胸を押す。


 槍が腹へ入り、射手の身体が折れた。


 それでも、射手の左手には弓が残っていた。


 右手で矢を一本引き抜く。矢筒から直接弦へ添え、十分には引かずに放つ。


 哲史の膝の上で、損傷表示が開いた。


 そのときにはもう、槍の二撃目が射手へ届いていた。


 青い格子。


 九。


 哲史の右脚が、一瞬だけ支えを失った。


 小盾の男が、その横へ走り込んだ。


 負傷した肩を引き、盾だけを前へ出す。剣は哲史の槍を狙っていた。身体へ突けば、刺し返されると分かっている。


 哲史は槍を引き、盾で相手の小盾を下から持ち上げた。


 男の腕が浮く。


 脇へ槍を伸ばす。


 横から槌が、柄を叩いた。


 穂先が地面へ落ちる。


 哲史は右手を開いた。


 槍を取り返すために屈まず、腰の短剣を抜く。小盾の男が後ろへ退こうとしたときには、もう胸へ盾を当てていた。


 男の剣が哲史の脇を切る。


 哲史の短剣は、男の腹へ入った。


 どちらの身体にも表示が開いた。


 男は剣を引き戻そうとして、息を詰まらせた。哲史が刃を押し込みながら、背中の柱へ身体を寄せている。


 逃げるための一歩がない。


「離せ!」


 槌の男が叫んだ。


 小盾の男は盾を捨てた。


 自由になった手で哲史の肩を掴み、外へ押す。だが哲史は掴まれた肩を下げ、男の腕の下へ頭を入れた。


 男の足が浮きかける。


 槌は振り下ろせなかった。哲史の背中を狙えば、柱との間にいる味方にも当たる。


 槌の男は武器を短く持ち直した。


 傷のある腕で柄を支え、低く構える。


 哲史の右膝を、横から打った。


 矢の損傷が残る脚が折れた。


 小盾を捨てた男の身体も、哲史と一緒に沈む。


 男は肩を掴んだまま、剣を下へ向けた。哲史の短剣が腹の中で動く。次に引かれたら、もう一度は耐えられない。


 哲史は左足を踏み直した。


 立ち上がろうとしたのではない。


 男を柱から剥がし、槌の方へ倒すためだった。


 男の踵が、路面を離れた。


 剣を振る余地はなかった。男は柄を胸へ引きつけ、全身で押し込んだ。


 哲史の肩から青い格子が広がった。


 短剣の刃が、男の腹を離れる直前で止まる。


 次いで、哲史の身体がほどけた。


 支えを失った男は、柱に背中をぶつけて座り込んだ。


 槌の男が武器を上げたまま、足を踏み替える。


「残り、どこだ」


 返事はなかった。


 勝利の表示が、二人の間に出ていた。


 槌の男がそれを見て、ゆっくり腕を下ろす。


 座り込んだ男は、自分の腹を押さえていた。実際に血が出ているわけではない。それでも、そこから手を離せなかった。


「おい。立てるか」


 槌の男に言われ、頷く。


 すぐには立たなかった。


「最後の矢、当たってなかったら」


 声が途中で途切れた。


 倒れた射手の一射が、あの膝を止めた。


 そこを槌で打っても、男はまだ自分を持ち上げようとしていた。


 握っている剣の先が、小さく揺れている。


 槌の男が手を差し出した。傷のある前腕に力が入らず、一度持ち直す。


 二人で、ようやく立った。


     ◇


 二位。


 十二撃破。


 奈緒は結果画面を開いたまま、哲史を見た。


 哲史は椅子に浅く腰を掛け、右膝を両手で包んでいた。表示はもうない。膝を曲げても、動きは遅れなかった。


「……あと二人だった」


 哲史が言った。


 律が自分の撃破欄から顔を上げる。


「二人とも、かなり当ててた」


「うん。弓の最後の矢。あれ、盾を下げれば受けられた」


 哲史はそこまで言って、首を振った。


「下げてたら、小盾に間に合わないか」


 最後の動きを、もう一度考えている。


 奈緒は結果画面を四人の間へ寄せた。


 哲史の欄には九とある。


 千景に一。律に二。


「十二人、倒したんだよ」


 言ってから、奈緒自身も数字を見直した。


 最初の五人。倉庫の前で四人。最後に三人。


 それぞれの場所が思い出せる。


「荷捌き場で、先に台の上へ移れたのがよかったです」


 千景が言った。


「柱があったので、押されても奈緒さんの前へ戻れました。あの剣の人、下で受けていたら追いつけなかったと思います」


 自分の一を見て、小さく息を吐く。


 律は二と表示された欄へ指を添えた。


「弓を狙ってる間、こっちへ来なかった。みんな、哲史の方を見てた」


「律が上の弓を止めてくれなかったら、荷車まで回れなかった」


 哲史が返した。


 奈緒は、搬入口で足を止めた哲史を思い出した。


 あのとき追撃を頼んでいれば、最初の一人は倒せたかもしれない。だが、四人で台の上に並ぶことはできなかった。


 先に場所を取ったら、哲史は三人を倒した。


 次の出口を教えたら、また三人を倒した。


 奈緒が原稿の上で何度も動かしてきた英雄王より、目の前で哲史が動かすハウの方が、ずっと速く次の相手へ届いていた。


 それを見ているだけでは、最後の一人を倒すところまで一緒に行けない。


「最後、弓が真ん中へ移ったとき」


 奈緒は記録を開いた。


「律を追わせたあと、私たちの方も撃ってた。あの柱からなら、両方見えたんだ」


 千景が画面へ近づく。


 律が自分の動きを指した。


「私、南へ戻った。東へ寄れば、千景の近くに出られた」


「そこに盾がいたから、すぐには通れないよ」


 奈緒は少し巻き戻した。


「でも、盾が律を追い始めたときなら。私と千景も西へ寄れた」


 奈緒は画面を止め、小盾が向きを変えた場所を指した。そこから自分たちが西へ動けば、律の戻る先も、哲史が援護に走る距離も変わる。


 哲史が膝から手を離し、椅子を寄せた。


「そこへ三人が来るなら、俺は槌を北へ押す。射手のいる方へ」


「押せる?」


「腕はもう当ててた。槌を振る前なら」


 奈緒は画面の哲史と槌の間を見た。


 確かめたいことが、ひとつできた。


 第三試合の案内が表示される。


 奈緒は記録を閉じる前に、二位の表示を見た。


 哲史もそこを見ていた。


「次、取りたいな」


 奈緒は頷いた。


「うん。一位まで行こう」


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