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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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043_先に待つ

 搬入口の鉄扉へ、矢が一本突き立った。


 千景が奈緒の肩へ手を添え、扉の内側へ寄せる。外では哲史が盾を出し、長い柄の先に刃をつけた武器を受け流していた。


 第二試合が始まって、まだ最初の交戦だった。


 今度の四人は、駅の西側から入っている。ホームへ続く広い道には先客がいたため、奈緒は荷捌き場へ抜ける搬入口を選んだ。その向こうから、同じ通路を使おうとした相手が来た。


 扉の右に弓。正面には大きな盾と剣、その後ろに長柄の刃。


 哲史が槍を引くと、敵の大盾も前へ出る。追い出すつもりだ。外へ下がれば、右の弓が奈緒たちまで狙える。


「律、北へ通れるか見て」


 奈緒は、扉の陰で弓を構える律へ言った。


「右の弓を見てた。そこ、離れる」


「右はこちらで見ます」


 千景が半歩ずれた。奈緒を扉で隠したまま、右側の射手が見える位置へ小盾を出す。


 律はその返事を聞いてから、搬入口の西へ走った。


 壁に沿って、細い庇が続いている。屋根の下は北へ抜けていた。律の姿が角を曲がって消える。


「弓、一つ前の柱へ来ます」


 千景の声に、哲史の盾がわずかに右を向いた。


 矢が縁を叩く。


 大盾の男は、その音に合わせて剣を突き出した。哲史は槍の柄で剣を外し、大盾の上から顔へ穂先を落とす。


 男の顎が上がった。


 盾で顔を守れば、腹と足が開く。


 哲史の右足が前へ出た。


「北に台がある。裏まで通れる」


 律の報告が届いた。


「台の先、北と東に道。東の奥はまだ見てない」


 奈緒は、哲史の槍の向こうを見た。盾の男の後ろで、長柄の刃が横へ開く。男を追い詰めれば、その刃と弓が哲史の左右を挟む。


「北へ行く。哲史、そこで切って」


「了解」


 前へ出た足が、床を蹴った。


 哲史は突かずに下がる。男の盾が顔の前から降りたときには、既に間合いの外だった。


 千景が奈緒を先に庇の下へ通した。哲史は扉を離れる直前に槍をもう一度伸ばし、追おうとした男の足を止めた。


 四人の姿が消えた搬入口で、敵が声を交わす。


「西を抜けた。北へ回る」


「弓はここ。出てきたところを狙って」


 奈緒は壁に沿って走った。


 角を越えると、律が腰の高さの台の上で待っていた。庇はそこで広がり、柱の下に積み下ろし用の木台が並んでいる。西からは緩い坂で上がれ、東は車がつけられる一段低い舗装路だった。


 台の北には細い出口。その先にも倉庫の壁が続いていた。


「ここまで見た。東の車路は、南からも入れる」


 律が言った。


 奈緒は柱の内側へ入る。


「千景はここ。律、東を見て。哲史は南」


 哲史が台へ上がった。


 柱の横から、さっきの大盾が見えた。もう一人の長柄もその後ろにいる。弓は搬入口の向こうへ残り、こちらが台の縁へ出るのを待っていた。


 今度は、哲史が先に槍を置いていた。


     ◇


 大盾の男は、台へ飛び乗らなかった。


 右手の剣を盾へ沿わせ、左足を縁に掛ける。背後の長柄が、哲史の槍を叩ける高さへ上がった。


 男の足元には、台から張り出した木板があった。哲史が踏み込む先にも、割れて浮いた板の端がある。


「哲史、左足の着く位置、少し内側へ合わせる」


 奈緒が対象を絞る。


 踏み込みの一歩。板の縁へ半分掛かりそうな靴底を、内側へ収める。


 哲史は頷かなかった。視線を男の足から外さず、槍先だけを低くした。


 男が盾を下げる。


 哲史はその縁を突いた。小さな衝撃で盾が傾く。男は押し上げられると思い、下へ力を込めた。


 穂先が引かれた。


 哲史の左足が板へ着き、盾が男の顔の高さへ出る。


 男は剣を上げた。哲史の盾に当たり、外へ滑る。


 槍はもう、大盾の横を通っていた。


 脇腹に損傷表示。男は台へ掛けた足を戻そうとしたが、踏み込んだ哲史が槍を引きながら身体を寄せた。後ろ足へ重心を移す場所がなくなる。


 大盾が哲史を押した。


 哲史は押されたぶんだけ腰を引き、短く持った槍を突き直した。


 青い格子が男の身体を包む。


 直後、長柄の刃が台の縁を払った。


 哲史は柱の裏へ戻っていた。頭を狙った矢も、柱に刺さった。


「台に乗るな!」


 長柄の男が声を上げた。


 自分は低い側に留まり、刃の長さで台の上を押さえる。射手も左へ動いて、柱の反対側を狙った。


 哲史は柱を回る。


 長柄の男がついてきた。刃を振らず、柄で哲史の槍先を押す。踏み込ませず、射手が狙うまで待つつもりだった。


 哲史は槍を押されたままにした。


 男の前の手が伸びる。


 その手へ、盾が落ちた。


 台の上から踏み下りた哲史の体重が、盾を通して柄へ乗った。男は握りを外した。そうしなければ指を潰されていた。


 長柄が片手になる。


 男はすぐに後ろの手を前へ送った。刃を捨てずに距離を戻す。その判断より、哲史の次の足が速かった。


 槍先が肘の内側を通る。


 男は身体を捻り、胸を外した。肩に深い表示が開く。それでも柄を抱え、哲史を押し返そうとした。


 哲史は押し合わなかった。


 男の横へ足を置き、盾を背中へ当てる。前へつんのめった男の姿が、射手の狙いを塞いだ。


 石突が膝の裏を打った。


 片膝をついた男へ、穂先が返る。


 二人目の格子が走ったとき、射手は弓を下ろしていた。


 射てなかった。


 哲史が台へ戻る。前へ出ていた別の敵が、片足を引いた。


「正面、やめる。東から姫を狙え」


 射手の声が聞こえた。


 奈緒はその声で顔を上げ、東の柱へ背を寄せた。


「来る」


 律はもう、車路を見ていた。


     ◇


 東から来たのは、細身の剣を持つ女だった。


 柱の間から奈緒を確かめ、台の端へ手をつく。千景が近づけば下へ落ち、戻れば上がれる位置を選んでいる。


 千景は追わなかった。


「奈緒さん、柱の内へ」


 小盾を前に置く。


 女は台へ上がり、剣の先で小盾の縁を叩いた。千景が盾を返す前に、反対側へ切っ先を送る。


 千景の腕に浅い損傷表示が出た。


 女が踏み込む。奈緒へ通じる柱の左側へ、身体を滑らせる。


 千景の鉤剣が伸びた。


 女は剣を引いた。最初の鉤は外れる。女の口元が動き、空いた側へ膝が入った。


 小盾が、その膝を受けた。


 千景は後ろへ押される。背中が柱に触れたところで止まった。


 女が剣を返す。


 今度の鉤は、引き戻す剣の根元へ掛かった。


 千景は遠くへ引かなかった。柱と自分の肩の間へ、相手の右腕を落とす。


 女は武器を放そうとした。


 小盾の縁が胸を押し、踵が台の端を踏む。半歩下がるはずの足が空を蹴った。


 千景は鉤を外し、体勢を崩した相手へ刃を返した。


 一撃で終わらず、女は台へ肘をついた。残った手で千景の盾を押す。


 千景は盾を引き、押す腕を空振りさせた。


 二度目の刃で、女の身体に格子が走った。


 奈緒の前には、まだ千景がいた。


 息を吐いた千景の横で、律の弦が鳴った。


 射手が東の車路へ出ていた。奈緒を狙う女へ援護を通すため、南側の射点を捨てたのだ。


 律の矢で、射手が車輪止めの陰へ戻る。


 次には、違う端から顔を出した。


 律はそちらを見ていた。


 最初に射たあと、弓を持つ手の向きを見ていた。右端から射直すには、車輪止めの裏で弓を持ち替えなければならない。左端なら、そのまま弦を引ける。


 左から出た肩へ、矢が刺さった。


 射手が膝を折る。台の上の律を狙っていた弓が、路面へ下がった。


 律は番え直す。


 射手は這って車輪止めへ戻ろうとしたが、負傷した肩が一度つかえた。その間に律が横へ二歩動き、遮蔽物の端から見える胴を射た。


 格子が開いた。


 律の撃破欄に、一が入る。


 弓を握る左手に力が入った。


「律、北は?」


 奈緒の声に顔を上げる。


「短い槍の人が、台の外を北へ走ってる」


 五人目だった。最初の前衛二人の後ろで退路を見ていた男が、射手の退場を見て走り出していた。


 男と北の出口の間には、台が張り出している。外側を回れば、角を二つ曲がる。


「哲史、台の上から出口へ。私たちも続く」


 哲史は南の縁から駆けた。


 台の上を真っ直ぐ横切り、北の出口へ降りる。


 外を回ってきた男は、角を曲がって足を止めた。


 哲史が前にいた。


 男は即座に短槍を突いた。哲史の盾が穂先を右へ外す。男は引いて逆へ回ろうとしたが、哲史が盾を離し、槍を持つ手へ自分の柄を当てた。


 短槍が身体を横切る。


 男は握りを変えようとして、右手を一瞬開いた。


 哲史の穂先が胸へ入り、引き抜かれる。男が壁へ背を当てたときには、二撃目が来ていた。


 五つ目の退場表示。


 追いついた奈緒は、そこで一度だけ足を止めた。


 哲史の三。千景の一。律の一。


 さっきまで五人に塞がれていた北の出口が空いている。


「行ける」


 奈緒が言うと、律が先へ顔を出した。


「次の壁まで見える。そこから右は、まだ」


 声が、いつもより少し弾んでいた。


 千景が鉤剣を握り直す。奈緒と目が合い、小さく頷いた。


 四人は台を離れた。


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