037_四人で動く
二段階認証をやっと突破できました、、、失礼しました。
登録画面に、四つの名前が並んでいた。
今泉哲史。
藤代奈緒。
久瀬千景。
瀬尾律。
五つ目の枠だけが、灰色のまま残っている。
「これでいい?」
奈緒が確認を押す前に、律へ画面を向けた。
律は自分の名前を見たあと、その下にある使用キャラクターへ目を移す。
斥候ザナ。
短弓を背負った女が、薄い霧の中に立っていた。
「うん」
奈緒が指を置く。
《ウィークエンド・オープン》第一試合。四名での登録が確定した。
画面の上に、参加チームの数が表示される。
二十。
そのうち五人で埋まっているチームが十三。四人が五。三人は二つだった。
四人になっても、人数差は残る。
律が一人増えたからといって、正面から五人と武器を重ねれば有利になるわけではない。
増えたのは、まだ見えていない場所へ向けられる目だった。
奈緒は自分たちの横にある空欄へ一度だけ目を向け、画面を閉じた。
「四人でも、降りる場所は同じ?」
律が聞いた。
「同じ。今回は旧駅の南側を取るつもり」
奈緒は地図を広げる。
「北へ行く道が三本ある。どこが通れるかは、降りてみないと分からない」
「分からないまま、三人は進む?」
「進む」
哲史が答えた。
「おまえが西を見てる間も、俺は正面を止める。奈緒と千景も、見えた場所までは動く」
律は地図の西端へ指を置いた。
「私が戻るまで待たない?」
「待たない。ただし、合流する場所は声に出す」
「分かった」
律は指を離した。
昨日の試験では、三人は律の言葉を待った。律も、伝え終わるまで三人が同じ場所にいると思っていた。
今日は違う。
四人とも動いている途中で、次の場所を決める。
「最後に、昨日のやつだけ確認しよう」
奈緒は、広げた地図の三地点を順に指した。
「場所。見えたもの。まだ見てないところ」
「分かってる」
律は鞄からメモを出さなかった。代わりに、地図の端へ三つの点を打つ。
「全部見てから戻る必要はない」
哲史が言った。
「俺たちが動けるところまで分かればいい」
律は三つ目の点に置いていた指を止めた。
「途中でも言う」
「頼む」
千景は奈緒の隣で、接続時刻を確認している。
「初戦だから様子を見る、ではないんですよね」
「うん。勝ちに行く」
奈緒が答えると、接続の案内が点灯した。
四人は同時に立ち上がった。
◇
雨は上がっていた。
改札前の広場には、割れた案内板と濡れた柱が残っている。正面の大階段は線路をまたぐ高架通路へ続き、その向こうに古いホームの屋根が見えた。
次の安全圏は、北のホーム跡を含む円で表示されている。
階段の中央に、大盾を持つ男が立っていた。
二段上には長槍。東の店舗跡には、柱から半身を出した射撃役がいる。
三人とも、こちらを待っていた。
遠くのホームでは、別の二チームがすでにぶつかっている。撃破表示が一つ開き、すぐに消えた。
旧駅にいる敵は、目の前の五人だけではない。
ここで時間を使えば、北側を別のチームに取られる。
階段の盾役が、背後の長槍へ左手を上げた。
指を二本立て、東へ倒す。
長槍役は頷き、穂先を哲史へ残したまま半歩だけ右へ寄った。射撃役も柱の陰で弓を引く。
五人のうち、見えている三人だけで通路を分けている。
残る二人は姿を見せていない。
待ち伏せているのか、先へ行ったのかも分からなかった。
「哲史、階段。千景は私と柱まで。律、西の通路を見て」
奈緒が言う。
哲史は正面へ走った。
千景は小盾を上げ、奈緒の前へ出る。
律だけが、改札の左にある低い柵を越えた。
四人は同じ場所を見なかった。
階段から長槍が伸びる。
哲史は盾で外へ流し、そのまま二段上がった。盾役は下りてこない。大盾を斜めに置き、長槍が引かれるための幅を残している。
穂先が戻る。
哲史は追わずに足を止めた。
東の柱から矢が飛んだ。
千景の小盾に当たり、濡れた床へ落ちる。
「次、二本来ます」
射撃役の肩口に、もう一本の光矢が浮いていた。細い照準光が、奈緒と千景の足元を順に捉える。
奈緒は補正を選ばない。
まだ、千景は受けられる。
二本目が柱へ刺さった。千景は奈緒を隠したまま、改札前の北西の柱へ進む。
哲史の槍が大盾の下へ入った。
盾役は足だけを引く。長槍が肩越しから哲史の胸へ伸びる。
哲史は槍を引き、盾を立てた。
金属音が大階段へ響く。
二人は間隔を崩さない。
哲史を倒すより、ここで止めるつもりだった。
「盾、詰めるな。そいつは近い方が強い」
長槍役が言った。
盾役の足が止まる。
哲史の槍が届く外側を保ち、押せるときだけ一段下りる。前の試合を見たのか、最初の二合だけで距離を変えたのかは分からない。
少なくとも、哲史をただの盾役とは見ていなかった。
盾役が一段だけ下りる。
哲史は槍を突かず、盾の角度を変えた。
相手の長槍が右肩を狙う。
盾で受ければ、左側が空く。そこへ大盾を押し込まれれば、階段の壁際まで運ばれる。
哲史は半歩下がった。
穂先が胸の前を通る。
追ってきた柄へ、自分の槍を下から当てた。長槍が上へ浮く。
その間に大盾が迫った。
哲史は盾同士をぶつけず、階段の下へ退く。
敵の二人は追い切らなかった。大盾は元の段へ戻り、長槍も肩越しの位置を取り直す。
崩れない代わりに、こちらも抜かせない。
哲史はもう一度、同じ距離へ入った。
倒すためではない。
二人の目を、自分へ残すためだった。
◇
西の保守通路には、雨水が細く流れていた。
線路脇の排水溝へ集まり、錆びた格子の下へ落ちていく。
律は片手を向けた。
白い霧が格子から浮かぶ。
通路の幅だけを覆い、最初の角へ伸びた。区画全体を隠すほどの量はない。律の足元から角まで、細い帯が一本できる。
何も触れない。
「西通路、最初の角まで人影なし。高架下はまだ」
「聞こえた」
奈緒の返事がすぐに来た。
律は角まで進む。
頭上では、高架の縁から雨粒が落ちていた。
一滴が霧へ入る。
その少し先で、白さが細く揺れた。
律は弓を上げた。
揺れは続かない。
人が横切ったなら、もう一度どこかで霧を押すはずだった。落ちた水かもしれない。高架の上は、下からでは見えない。
見えないものを、敵だとは言えない。
敵ではないとも言えなかった。
「高架下、一度だけ霧が動いた。何かは見えてない」
律は壁へ身体を寄せた。
保守用の階段が、高架通路の西端へ続いている。手すりの隙間から、大階段の裏側が見えた。
大盾の男の背中。
その二段上に長槍。
東の柱列は、高架の壁に隠れている。
「西の保守階段。上まで空いてる。大階段の裏へ出られる。東は見えてない」
「分かった。そっちへ行く」
奈緒は聞き返さなかった。




