↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/51

031_盾がなくなったあと

 哲史は赤布の棍棒へ、盾を当てた。


 強く押す。


 相手が倒木の太い部分へ寄った。


 そこから奈緒へ向かうには、幹の端を回らなければならない。


 哲史はその一歩を見て、槍を左へ戻した。


 腰の金具の選手が棍棒を出す。


 先ほど突かれた右腕を庇い、左手も柄へ添えていた。


 穂先へ正面から当てず、柄を横へ押してくる。


 哲史は一度、押させた。


 穂先が外へ向く。


 相手の棍棒も、その槍を追う。


 奈緒は哲史の右手を見た。


 肘が戻る。


 相手は同じ返しを待っている。棍棒を大きく振らず、槍の戻る場所へ残していた。


 哲史の盾が、その棍棒へ下から入った。


 両手ごと押し上げる。


 相手の胸が空く。


 だが、そのまま突けば、持ち直した棍棒が間に合う。


「今、返して」


 奈緒が選んだ一瞬に、哲史の右手が槍を返した。


 穂先が盾の下を通る。


 相手の棍棒は、まだ上にあった。


 胸元へ届く直前、青い格子が二人の間へ入った。


 相手の身体を包み、消える。


 撃破の通知が開いた。


「一人!」


 奈緒が声を上げた。


 哲史は、消えた相手の立っていた場所へ足を入れた。


 倒木の端から、向こう側へ。


「来い」


 奈緒が手を幹から離す。


 千景の盾へ、人影の腕が当たった。


 千景は受けたまま半歩動き、奈緒の背中についてくる。


 正面では、赤布の選手が倒木を回り終えた。


 哲史の槍が、その肩へ向く。


 奈緒は哲史の左側へ進もうとした。


 そこへ、黒い袖が出た。


 白い紐。


 鏡の中にいた腕だった。


「左から!」


 千景の鉤剣が、振り下ろされる棍棒の柄を捕らえた。


 刃を引き、奈緒から外へ逸らす。


 相手の靴が、土を踏み直した。


 今度は映像ではない。


 千景の右腕へ、重さがかかっていた。


     ◇


「止まらないで。哲史さんの方へ」


 千景が言った。


 右の鉤剣で棍棒を外し、左の小盾で人影を受ける。


 奈緒は千景の肩越しに、人影を見た。


 腕が止まる。


「後ろ、止めた!」


 千景が小盾を引いた。


 その下から、別の棍棒が来た。


 建物の前にいた選手だった。


 斜面を上がり、小盾の下へ身体を入れている。


 千景は盾を下げた。


 棍棒が縁へ当たり、横へ滑る。


 防げた。


 その音で、哲史が振り返った。


 奈緒が、まだ倒木の手前にいる。


 白紐の選手が進路へ立ち、千景の鉤剣と棍棒を押し合っていた。


 哲史は正面の赤布を盾で押し、戻ろうとした。


 赤布の選手は、押されながら足を外へ置いた。


 哲史の進む側へ棍棒を振る。


 哲史は槍の柄で受けた。


 その一歩が、出ない。


「千景、右を外せ!」


 哲史が言う。


 白紐の選手が棍棒を捻った。


 鉤剣の内側から柄を抜き、短く引く。


 千景は追わず、右肘を戻そうとした。


 奈緒には、その戻りがわずかに遅れるのが見えた。


 肘が戻れば、次の打撃を刃で外せる。


 奈緒は人影から視線を切った。


「鉤剣を戻すところ」


 千景の一動作へ、補正を移す。


 刃が間に合った。


 白紐の棍棒を外へ弾く。


 同時に、人影の手が小盾を押した。


 千景は左腕を後ろへ向け直した。


 人影と奈緒の間に盾を残す。


 建物側から来た選手が、その左肘へ棍棒を入れた。


 鈍い衝撃が走った。


 千景の視界に、左前腕の損傷を知らせる表示が開く。


 指は動く。


 盾も落としていない。


 だが、押し返すと肘が沈んだ。


「左、負傷。まだ持てます」


 千景は自分の声を聞いた。


 奈緒へ戻る必要はなかった。


 すぐ横にいる。


 戻れば守れる距離に、もう立っていた。


 千景は右足を奈緒側へ引き、身体で空いた幅を狭めた。


 白紐の選手が、そこへ棍棒を突き出す。


 鉤剣で払う。


 建物側の選手が、傷めた左腕へもう一度打った。


 小盾の縁が下がる。


 奈緒が人影を見た。


「止めた、左を――」


 千景は小盾を前へ返した。


 盾は動いた。


 しかし、さっきと同じ速さでは戻らなかった。


 開いた側へ、白紐の棍棒が横から入った。


 青い格子が、その先を遮った。


 小盾を上げかけた千景の身体が、光の中へ消える。


 奈緒の目の前から、盾がなくなった。


     ◇


 奈緒は息を吸った。


 人影は止まっている。


 それを見たまま、倒木へ手を伸ばした。


 指に樹皮が触れる。


 左へ行けば、哲史がいる。


 白紐の選手が、その間へ足を置いた。


 棍棒を振り上げず、胸の前へ短く構える。


 奈緒は足を引いた。


 踵が斜面の縁に触れた。


「奈緒、しゃがめ!」


 哲史の声で膝を曲げた。


 建物側の選手の棍棒が、肩の上を抜ける。


 避けた先で、白紐が動いた。


 奈緒はその足を見た。


 人影の指が、背中へ近づく。


 もう一度顔を戻せば止められる。


 だが、目の前の棍棒は止まらない。


 奈緒は幹へ手をつき、哲史の方へ身体を押し出した。


 盾の縁が見えた。


 届く前に、白紐の棍棒が進路へ入った。


 青い線が、視界いっぱいに広がった。


     ◇


 奈緒が消えた。


 その後ろの人影も、腕を伸ばした姿のまま消えた。


 哲史の盾が、何もいない場所へ入った。


 右から白紐。


 左後ろには、建物から追ってきた選手。


 倒木の向こうを赤布が塞いでいる。


 斜面の上り口には、黒い両袖の一人が着いた。


 四人が、哲史へ向き直った。


「あと一人だ。逃がすな」


 哲史は盾を引かなかった。


 白紐の棍棒へ押し当て、その腕ごと前へ送る。


 背中へ打撃が来た。


 肩を捻って頭を外す。


 右肩に衝撃が落ち、損傷表示が開いた。


 哲史の槍は、まだ前を向いていた。


 建物側の選手が、二撃目のために棍棒を引く。


 哲史はその足元へ、槍の石突を突き込んだ。


 踝を打たれた足が浮く。


 相手が倒れるより早く、哲史は白紐の腕から盾を滑らせ、背後へ身体を返した。


 槍を握る右手が、柄の後ろへ滑る。


 穂先が半円を描いた。


 体勢を直そうとした相手の喉元で、青い格子が開く。


 一人、消えた。


 白紐の棍棒が、すぐに哲史の右腕へ来た。


 哲史は槍を手放した。


 棍棒が、空いた手の先を打ち抜く。


「なっ――」


「一番、パージ」


 短剣の保持が外れた。


 左の盾を白紐へぶつける。


 相手が受け止め、足を踏ん張った。


 哲史は押し合わず、その盾を持った腕を下げた。


 相手の視界に、哲史の右肩が現れる。


 白紐が棍棒を引く。


 その戻りより内側を、背から抜いた短剣が通った。


 傷めた右腕を振り上げず、肘を脇へつけたまま、哲史が踏み込む。


 刃は身体ごと押し出された。


 胸元に青い格子。


 二人目が消える。


 落とした槍が、ようやく地面へ倒れた。


     ◇


 赤布の選手は、倒木の端で足を止めた。


 味方が一人崩されたところまでは見えていた。


 その背中を白紐が打つはずだった。


 棍棒は空を切り、盾が当たり、短い刃が出た。


 いま、立っているのは自分と、斜面側の一人だけだ。


「おい、二人とも……!」


「離れろ。挟んだまま――」


 言い終わる前に、哲史がこちらへ来た。


 赤布は倒木の向こうへ退いた。


 槍は地面に残っている。右手にあるのは短剣だ。


 追って幹の端を回れば、棍棒の方が先に届く。


 赤布は両手を離さずに構えた。


 哲史の左手から、盾が離れた。


 遠くへ投げたのではなかった。


 幹の端を抜ける直前、身体の前から押し出した。


 赤布は棍棒を横にして受けた。


 盾の縁が柄へぶつかる。


 その下から、哲史の左手が棍棒を掴んだ。


 引かれる。


 赤布は踏み止まった。


 哲史の右手の短剣が、柄を握る指へ迫った。


 赤布は片手を離し、刃を避けた。


 残った手だけでは、棍棒を支え切れない。


 哲史が柄を下へ引く。


 赤布の身体が、倒木へ折れた。


「こっちだ! 早く!」


 短剣を返す哲史の右肩が、わずかに止まった。


 その背後から、黒い両袖の選手が追いついた。


「離れろ!」


 味方ごと打たないよう、低く棍棒を振る。


 哲史の右膝の外へ入った。


 脚の損傷表示が開く。


 哲史は膝を引かなかった。


 倒木へ左腰を当て、落ちかけた身体を支える。


 そのまま、右手を押し込んだ。


 赤布の首元を、青い格子が包んだ。


 三人目。


 棍棒を掴んでいた左手から、重みが抜けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。