↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/52

002_二人だけの五人チーム

 残りの三人は、本当にいなかった。


 数日後。FICTA登録施設の接続区画で、哲史は改めて五つの枠を見た。


 埋まっているのは二つだけだ。


 今泉哲史――ハウ・ズリア・シルヴェルト。


 藤代奈緒――マリ・クルーシェ・クエレブレ。


「原作者ご本人が、選手――DANCERになるのは珍しいですね」


 登録担当者の言葉に、奈緒は曖昧に笑った。


「ほかに、やってくれる人がいなかったので」

「そこまで正直に言わなくていいだろ」


 哲史が言うと、白い床に細い光が走った。


 視界が一度、暗くなる。


 次に目を開けたとき、鏡の中には奈緒の原稿で見た英雄王が立っていた。


 左腕には盾。右手には槍。背中の保持具には、番号を刻まれた抜き身のショートソードが六本。腰には、それより長い両手剣まで下がっている。


 腕にかかる重さも、武器を支える筋力も、さっきまでの哲史のものではない。


 だが、どの武器を先に使えばいいのかまでは、頭の中へ入ってこなかった。与えられたのは英雄王の身体であって、答えではないらしい。


 向かいにいる奈緒も、もう私服姿ではない。


 そこにいるのは、ハウの隣で戦場を見つめていた龍姫マリだった。


 原稿の中で、ハウの動きを見続けていた人物だ。いまは白い床の同じ線に、奈緒自身の足で立っている。


「重くないの?」

「重い」


 哲史は槍を一度だけ持ち替え、盾を半歩前へ出した。腰をひねらず、石突が背中の剣へ触れない角度で穂先を返す。


 次に、視界の端へ並んだ装備表示を見た。


 一番から六番まで、魔法装填なし。


「何も入ってない剣を、六本も持ってるのか」

「使い捨てるから。原作でも、投げたり、足場に刺したりしてたでしょ」

「まともに読んだのは昨日が初めてだ」

「そうだった」


 哲史は背中へ手を回さず、声だけを出した。


「三番、パージ」


 乾いた音が一つした。


 三番の剣だけ、保持具の固定が外れる。飛び出してはこない。哲史が柄をつかむと、初めて抜けた。


 短剣を逆手に持ち替え、盾の内側へ隠す。槍を脇に挟み、今度は腰の剣へ右手を移す。


 過剰に見えた武器が、動きを確認するたびに一つずつ役割を持ち始める。


「初めてなんですよね?」


 登録担当者が聞いた。


「はい」

「嘘つかなくていいですよ」

「じゃあ、二回目です」

「いつ」

「いまので」


 奈緒が小さく息を吐いた。


「そういうやつなんです」


 登録を終えた二人は、そのまま訓練用亜空間へ移された。


 正面を、円形の標的が速度を変えながら左右へ往復している。隣の区画では別の参加者が火球を放ち、標的ごと壁を赤く染めた。大きければ、多少狙いがずれても当たる。


 哲史の視界には、五つの基礎能力が並んでいた。


 火、水、風、土、雷。


 その下に、位置、範囲、発動までの時間を指定する表示が浮かぶ。


 火を生む力はハウのものだ。


 どこに、どれだけ、いつ生むかは哲史が決める。


「火球を標的へ当ててください」


 哲史は、標的を狙わなかった。


 左右へ二度振れた軌道を見る。次に中央を通過する時刻を取り、何もない空間へ、親指ほどの火を置いた。


 一秒後、標的の方から火へ入った。


 表面が焦げ、細い煙が上がる。炎が消えたあとも熱は残り、金属の軸を伝って反対側の接合部まで温度表示が上がっていった。


 映像だけの燃焼ではない。


 哲史は、標的より先に次の座標を見た。


「風も使っていいですか」

「いまは火の試験です」

「なら、これも試験項目にしてください」


 風の表示を開く。


 残った煙を押せば、相手の視界を塞げる。床を土で一段持ち上げれば、回避方向も選ばせられる。そこへ水を薄く広げ、雷を落とす位置を固定することもできる。


「待って。組み合わせる前に約束」


 奈緒が割り込んだ。


「派手な火球は禁止。技名も、長い溜めも、意味のない光もなし」

「使えるのに?」

「ハウは、必要のないことをしない。勝つのに要らない火を、見栄えのためだけに大きくしたりしない」

「原作者権限か」

「作品のルール」


 奈緒は譲る気がなかった。


 哲史は五つの表示をもう一度見た。何でもできる身体で、目立つ使い方だけを禁じられる。


 簡単な勝ち方を先に潰された、とも言える。


「その方が面白い」


 奈緒が目を瞬いた。


「嫌じゃないの?」

「使えないより、使えるのに使わない方が考えることが増える」


 哲史は槍を構え直した。


「次は、お前の方を試せ」


 奈緒がマリの右手を上げる。


 登録担当者が端末を操作し、標的が三つに増えた。


 哲史は一つ目を槍で払い、返した石突で二つ目を打つ。最後の一つへ盾を当てようとする。


 その途中で、身体から細かなずれが消えた。


 踏み込む足の角度。槍を握る指の圧。盾の縁の高さ。息を吐く時刻。


 力が増えたわけではない。


 哲史が選んだ動きから、細かな誤差だけが削られていく。


 だが三つ目へ盾を当てる瞬間だけ、わずかに遅れた。標的は盾の縁をかすめ、背後へ抜けた。


「いま、どこを直した」

「右足と、左肩と、槍の握り。それから盾の角度と呼吸」

「最後に盾が遅れたのは?」

「見えてた。でも、足も肩も、その前からずれてたから」

「足と肩がずれたままでも、一つ目と二つ目には当てられた。三つ目を逃がしたのは、盾の遅れだけだ」


 奈緒の眉が寄る。


「ほかのずれは、直さなくていいの?」

「全部直そうとするな」


 奈緒は反論しなかった。


 納得した顔でもなかった。


 昨日めくった原稿と同じだった。


 石突も、盾も、踏み込みも。奈緒には全部のずれが見えている。だから、その一撃を決めるものと、残してもいいものを分けられない。


 大会ロビーへ入ると、巨大な参加者一覧が頭上に開いた。


 二十チーム。定員百人。


 実参加者、九十七人。


 欠けた三人は、すべて哲史たちの枠だ。敵は最大九十五人。味方は奈緒一人しかいない。


「本当に二人で来たんだ」


 声をかけてきたのは、女騎士姿のDANCERだった。


 頭上には《フレアクラウン》のチーム名。周囲にいた選手も、『英雄王と囚われの龍姫』という作品名を見てざわつく。


「それ、打ち切りになった漫画だよね」

「だから何」


 奈緒がすぐに返した。


「描かれた能力まで消えるわけじゃない」

「能力が残っても、三人分の目と手は戻らないでしょ」


 笑いが広がった。


 正しい指摘だったので、哲史は黙っていた。


「蓮、見て。二人チーム」


 呼ばれて振り向いた男だけは、笑わなかった。


 選手表示には《フレアクラウン》、IGNIS。その下に本名の高城蓮と、担当キャラクターであるカイル・アーデンの名が出ている。


 カイルは、人気漫画『火を点けるだけのハズレ職|《火種師》だと勇者パーティを追放された俺、実はあらゆる炎を支配できたので辺境で最強ギルドを作る』――通称『火種師』の主人公だ。


 競技に興味のない哲史でも、IGNISの選手名は知っていた。彼が前へ出ただけで、周囲の選手が自然に会話を止める。


「馬鹿にしてるわけじゃない」


 IGNISは二人の空いた枠を見た。


「二人では、索敵も交代も足りない。撃破を取れても、生存順位を伸ばすのは難しい。降下地点くらいは競合を避けた方がいい」


 脅しではなく、忠告だった。


「教えてくれるのか」

「試合が始まるまでは敵じゃない」


 そう言って、IGNISは仲間のもとへ戻った。


 笑っていた選手たちも、その一言で口を閉じる。五人が離れていくとき、誰も隊列を乱さなかった。


「感じ悪い」


 奈緒が言った。


「最後のやつはまともだった」

「その前」

「あれも計算は合ってる」

「どっちの味方なの」

「二人しかいない方」


 転送開始の音が鳴った。


 床が消え、眼下に初戦のマップが広がる。


 左に森林。中央に市街地。右に畑と植栽帯。


 安全地帯を示す三つの円は、収縮するたび右へ寄っていた。


「森林」


 奈緒がすぐ左を示した。


「隠れられるし、最初は安全そう」

「市街地に降りる」

「なんで。二人なら、戦闘は避けた方がいいって言われたばかりでしょ」


 哲史は森林の広さと、そこから市街地へ抜ける道の数を見た。


 隠れやすい。燃料も水もある。最初の収縮までは安全に見える。


 だからこそ、選ぶチームは多い。


「森は、これから混む」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 設定が特に良いと思いました。他で、同じようなものは無いと思います。打ち切りになった漫画をゲームの形で主人公が救うという形が良いですね。 主人公の活躍が、奈緒の喜びにダイレクト…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。