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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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27/51

025_上位の名前

 表示の向こうで、落ちた戦鎚も消える。


 奈緒が選んだ鉤剣の一動作は、もう終わっていた。


「一人!」


 千景が鉤剣を大盾から外した。


 大盾の向こうまで出た哲史と、横に残った千景。奈緒はコンテナの右角にいた。


 敵は四人になった。


 だが、誰も戦鎚のいた場所を見ていなかった。


「盾、中央。槍、内側!」


 大盾役が哲史へ向き直った。


 長槍役は空いた戦鎚の位置へ入らず、防護柵の内側を押さえる。鎖鎌役は千景の外へ回り、弩役はコンテナの角へ照準を下ろした。


 四人が、別々の相手を見ている。


 奈緒はコンテナの陰へ肩を引いた。


 中央の哲史が、大盾の向こうへ隠れる。


 ここから一歩進まなければ、次に盾が開く瞬間を見られない。


「千景、コンテナ側へ戻って。弩を防いで」


 奈緒は角へ足を出した。


 弩役の照準が止まる。


「《ドリフト・カット》!」


 千景が奈緒へ向いた。


 コンテナ沿いの道は、まだ開いていた。そこを二歩、帰還加速で詰める。


「小盾の左上で、矢を外へ流して」


 奈緒が新しく選んだのは、その小盾の角度だった。


 千景の左腕が上がる。


 矢が盾へ当たった。


 傾けた面を滑り、奈緒の外側へ飛ぶ。


 次の音は、横から来た。


「《テンション・チェイン》!」


 鎖の重りが、小盾の縁へぶつかった。


 奈緒の補正は、矢を流す一動作で終わっていた。矢を逸らした盾の向きが、そのまま鎖鎌役へ開いている。


 鎖鎌役は、その角度を待っていた。


 重りが盾縁を越えたところで、腕を引く。


 鎖が外縁へ掛かり、千景の左腕を横へ引いた。


 千景は鉤剣を鎖へ向ける。


「《アース・ステーク》!」


 防護柵の内側で、長槍役の後ろ足が止まった。


 穂先が、盾を引かれた千景の胴へ向く。


 千景は足を引いた。


 その後ろに奈緒がいる。


 右へ逃げる幅は、長槍役の身体と槍で塞がれていた。帰還加速で速く動けても、その身体を抜けて奈緒の反対側へ出ることはできない。


 鉤剣の向きを戻すより、突きが先に届いた。


 青い格子が千景を包む。


 小盾が、奈緒の目の前から消えた。


「千景!」


 奈緒はコンテナの角へ足を引こうとした。


 弩役はもう、次の矢をつがえていた。


 矢を防いだ小盾が鎖へ引かれる間も、高所の一人は奈緒への射線を取り続けていたのだ。


 哲史が奈緒へ向きを変える。


 大盾役が踏み込んだ。


 硬い盾面が哲史の盾へぶつかる。押し返すより先に、大盾役の身体がコンテナ側への進路へ入った。


 哲史の槍が、大盾の横を叩く。


 盾が開きかける。


 弦の音の方が早かった。


 矢は障害物を曲がらず、奈緒が角へ引き戻そうとした肩の先へ直進した。


 青い格子が視界を分けた。


 奈緒の声が途切れる。


 哲史の後ろから、二人分の足音がなくなった。


     ◇


 大盾役は、哲史から離れなかった。


 哲史が右へ足を出せば、盾も右へ動く。


 盾の向こうから長槍が出た。


 哲史は自分の槍の柄で穂先を外す。横へ逃がした長槍の下へ踏み込み、大盾役の足元を狙った。


 高所で弦が鳴った。


 矢が、哲史の後ろの舗装へ刺さる。


 弩役は正面の大盾ごと射抜こうとしていない。哲史が後ろへ離れ、残る四人を一人ずつ相手にできる距離へ戻るのを待っていた。


 いまは四人だった。


 それでも、正面の盾と横の槍を切り離すだけの場所がない。


 哲史は大盾へ肩を入れた。


 盾の下端が浮く。


 哲史は持ち上がった大盾を押し続けず、右へ足を送った。


 自分の盾の外へ、鎖が回る。


「《テンション・チェイン》!」


 重りを回収する腕が引かれる。


 鎖が盾の縁へ掛かった。


 鎖鎌役が体重を後ろへ乗せる。


「取った。槍、入れ!」


 哲史は逆らわなかった。


 盾の握りを放し、引かれる側へ左腕を抜いた。


 鎖に吊られた盾だけが、鎖鎌役へ飛ぶ。


「うおっ!」


 相手が両腕を上げる。


 そのときには、哲史の左手は槍を握っていた。


 盾の消えた場所へ、長槍が入る。


 哲史は両手の槍で柄を上へ跳ね上げ、その下を進んだ。後ろ足を固定した長槍役は、突いた身体を引けない。


「待っ――」


 長槍役の肩だけが後ろへ逃げた。


 哲史の石突が、前の膝を打った。


 膝が曲がる。


 胸へ返る穂先の前に、大盾が割り込んだ。


「固定を解け! 下がれ!」


 長槍役の足元から光が消える。


 哲史は大盾を突かなかった。穂先を引き、柄を盾の内側へ滑り込ませる。


 大盾役は味方をかばうため、盾を横へ伸ばしていた。


 その手首へ、哲史の槍が下から当たる。


 硬い盾面は割れない。


 持っている腕が、跳ねた。


 哲史は大盾の内側へ入り、肩で相手の胸を押した。踏み直す足へ自分の足を掛け、上体を横へ崩す。


 大盾役がコンテナへぶつかった。


 槍を握る哲史の右手が、柄の後ろへ滑る。


「鎖、来い!」


 鎖鎌役が盾を振り落とし、鎌を手に駆け込んできた。


 哲史は大盾役へ返しかけた穂先を止めず、その腕だけを外へ開いた。


 鎌が柄へ噛む。


 哲史は槍を引かず、相手の握る手へ押し込んだ。鎌を握った拳が胸へ戻され、鎖鎌役の息が詰まる。


 その足首へ、返した石突が届いた。


 鎖鎌役が片膝をつく。


 大盾役も、まだコンテナから肩を離せていなかった。


 高所で、弩役が立った。


 弩の先が、大盾役と鎖鎌役の間を往復する。哲史へ照準を戻すたび、味方の身体がそこへ押し込まれていた。


「射線を空けろ!」


 哲史は膝をついた相手を越えず、コンテナへ寄った。


 頭上で弦が鳴る。


 矢が鎧の腿を貫き、脚の損傷表示が開いた。


 頭と胸は、コンテナの陰へ入っていた。


 哲史は傷めた右足を後ろへ置き、左足で身体を支えた。


 長槍役が迫る。


 今度は足を固定していない。突いてから下がり、哲史が届く前に間合いを取り直す。


 哲史は一度目を槍で流した。


 二度目には、同じ角度へ槍を置かない。


 相手が引く柄へ穂先を沿わせ、握り直す指を切った。


 長槍役の片手が離れる。


「まだ来る! 盾!」


 戻ってきた大盾が、二人の間へ入った。


 哲史は横へ出ようとした。


 右脚へ体重が移り、膝が落ちる。


 その高さへ、鎖鎌の重りが走った。


 哲史は柄で受けず、穂先を低く置いて鎖を舗装へ押しつけた。張った鎖の上へ左足を乗せる。


 鎖鎌役が引いた。


 動かない。


 哲史は大盾の下端へ石突を差した。


 持ち上がった盾の内側へ、左肩を入れる。


 大盾役の顔が見えた。


 相手は口を開いたが、声より先に息が漏れた。


 哲史は槍を短く持ち替えた。


 その一撃を、大盾役は盾で受けられなかった。


 盾を傾けたまま、身体を前へ投げ出す。


 槍の穂先が肩へ入り、損傷表示が開いた。それでも相手は下がらず、哲史の右脚へ膝を押し当てた。


 鎖鎌役が、張っていた鎖を緩める。


 哲史の左足の下で鎖が弛んだ。相手を押し返すために足を置き直せば、傷めた右脚で二人の重さを支えることになる。


 哲史は大盾役の肩から槍を抜いた。


 長槍役が、傾いた大盾の上縁を越えて穂先を通してくる。


 哲史は槍の柄で外した。


 大盾役がさらに身体を寄せる。長槍役は切られた手を柄へ押しつけ、外された穂先を引いた。


 哲史の石突が、大盾役の顎へ向いた。


 その寸前、二度目の突きが脇から入った。


 青い格子が、槍と胸の間を埋めた。


 哲史の視界で、四人が遠ざかった。


 大盾役は、コンテナへ手をついたまま膝を折った。


「……落ちたか」


 長槍役が頷いた。切られた手を柄から離し、胸へ抱える。


 高所の弩は、まだ哲史のいた場所へ向いていた。


 結果の表示が出てから、弩役がようやく指を引き金から外す。


 息を吐く音が、下の三人にも聞こえた。


 鎖鎌役は返事をせず、足元に落ちた哲史の盾を見ていた。


     ◇


 ポッドの蓋が開いた。


 奈緒は端末の前に立っていた。


 千景は隣の椅子へ腰を下ろし、左手を開いたり閉じたりしている。鎖に引かれた外傷は残っていない。それでも、盾を握り続けた腕は重そうだった。


 哲史が起き上がると、結果が表示された。


 一位。


 『最終戦線〜現代に魔物が現れたけど、強すぎない?〜』。


 その下の二位に、三人の登録欄が並んでいる。


 奈緒は画面を見てから、手元の再生位置を戻した。


 高架下へ映像が戻る。


 鎖鎌役が五番を抜いていた。


 右足を添え、柄を揺らし、手で運んでいる。


 奈緒はその場面を止めた。


「剣を置く作戦、失敗だった?」


「違う」


 哲史は椅子を引いた。


「三人が同じ入口を見るところまでは使えた。置いたあとも、同じ場所にあると思ってたのが間違いだ」


「道が塞がれてないかは、そのたびに見るつもりだった」


「剣の場所は見てなかった」


 奈緒は映像の先へ指を滑らせた。


 千景が壁の前で止まる。


 自分が、五番は使わないと言っていた。


「戻してから、もう一度やろうとしてたら間に合わなかったね」


「はい。壁の前で、鎖鎌役を待つことになっていました」


 千景が左手を膝へ置く。


「次に番号を使うなら、呼ぶ前に、剣が置いた場所にあるか確かめます。私から見えなければ、今回みたいに地形で言ってください」


「長くなったけど」


「曲がる場所は分かりました」


 千景は画面の黄色い柵を指した。


「五番だけでは、この柵へ戻れませんでした」


 奈緒は指を止めた。


 短くするために付けた番号だった。


 その番号が違う場所を指したとき、自分は言葉を増やした。千景へ戻る道を伝え、哲史へ水を出す位置を伝えた。


 二人へ同じことを叫んだのではない。


 してほしいことを、二人に分けて渡した。


 映像を進めると、千景が奈緒の前へ戻ってきた。


 そこで奈緒は、もう一度止めた。


「ここまでは、直せた」


「ああ」


 哲史が答える。


 次に開いた最終戦の映像では、戦鎚役が消えた。


 奈緒の指が止まる。


 大盾は哲史へ向き直り、鎖鎌は千景の外へ回り、長槍は内側に残り、弩は奈緒を見ている。


「一人倒したら、もっと崩れると思った」


「戦鎚が消えても、俺を止める盾は残った」


 哲史が四人の位置を順に指す。


「千景に矢を防がせて、鎖で盾を開いて、槍を入れた。倒した一人がいなくても、それはできた」


「矢を外したあとに、盾を戻せませんでした」


 千景が言う。


「矢は防げた。相手は、防いだあとの盾を使ったんだ」


 奈緒は、傾いた小盾を見た。


 自分が選んだ角度だった。


 その一動作は間違っていない。矢は逸れた。


 だが、矢を外した先にも敵がいた。


 奈緒は再生を止めたまま、椅子へ座った。


「二位、か」


 前の公式戦は四位だった。


 今回は最後の二チームまで、三人とも残った。五番を動かされても、そこで試合を終わらせずに済んだ。


 結果画面を見直す。


 二位の文字は変わらない。


「悔しい?」


 奈緒が哲史を見る。


「最後の槍は、見えてた」


「うん」


「見えてても、身体を通す場所がなかった」


 哲史は椅子の下で右足を引き、左足へ重心を移した。


 いまは、どちらにも体重をかけられる。


 奈緒は少しだけ口元を緩めた。


 すぐに続きを見なくなる顔ではなかった。


     ◇


 大会結果の下へ、次の公式戦の案内が出た。


 参加予定作品の一覧。


 奈緒は結果の映像を閉じた。


「次、見ていい?」


 哲史が端末へ椅子を寄せる。


 千景も立ち上がり、奈緒の隣へ来た。


 奈緒は一覧を開いた。


 原作の表紙と作品名が、画面の下へ並んでいる。まだ対戦したことのない名前が、いくつも続いていた。


 二位の表示を閉じたあとにも、先は残っている。


 奈緒が画面を送る指を止めた。


 その参加一覧に、『午前零時の異常対策課』の名があった。


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