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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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024_剣を置かない場所

 中央から、盾を打つ音が続いていた。


 哲史はまだ、大盾役と戦鎚役の前にいる。


 霧の端が薄くなり始めた。高所の弩役は弩を引き寄せ、次の矢を装填している。鎖鎌役は重りを回収し、高架脚の外側へ向きを変えた。


 千景を戻せただけでは、三人ともここへ留められる。


 奈緒は次の安全圏を示す線を見た。


 入口には長槍役がいる。


 哲史がこちらへ下がれば、前の二人もついてくる。そのまま長槍へ押しつけられれば、今度は帰る場所がなくなる。


 左を見る。


 積み込み坂が空いていた。


 荷台へ上がり、その上を抜ければ安全圏側へ出られる。鎖鎌役は千景を追って、高架脚の外へ出たところだ。坂を塞ぐには、また角を回らなければならない。


「|《龍環》。前」


 奈緒は千景の肩へ手を添え、すぐ離した。


「私が動く。千景、右に付いて。左の坂を一緒に上がる」


「鎖鎌役を、私の側へ置きます」


「うん。私と相手の間に盾を入れて」


 奈緒は哲史へ呼びかけた。


「哲史、大盾と戦鎚を中央に残して。私たちが坂を上がるまで」


「坂の上に出たら?」


「二人を離して、荷台の後ろから合流して。倒し切らなくていい」


「分かった。行け」


 奈緒は自分の足で走り出した。


 高架脚の陰を出る。


 背中が広い空間へさらされた。千景が右へ並び、小盾を斜め後ろへ向ける。


 鎖鎌役が二人を見た。


「坂へ行かせるな!」


 重りが低く飛ぶ。


 奈緒の腰へ向かうその線に、千景の小盾が入った。


 金属が鳴る。


 千景は重りを坂の手すりへ流した。鎖が手すりを擦り、追手の腕が横へ振られる。


 奈緒は振り返らず、坂へ右足を着いた。


 ふくらはぎが張る。


 一歩ごとに身体を上げる。千景も坂の右側を上がりながら、小盾を下へ向けていた。


 中央では戦鎚が振り下ろされた。


「《インパクト・ウェイト》!」


 哲史は盾面を傾け、重くなった鎚頭を舗装へ逃がした。落ちた柄を跨ぐように踏み、大盾役の盾の横へ槍を差す。


 大盾役が押し込んでくる。


 哲史はその力を受けながら、槍の柄で相手の上体を戦鎚側へ寄せた。戦鎚役は柄を引き上げようとしている。そこへ味方の肩が近づき、肘を開けなくなった。


 奈緒が坂の上へ出た。


 千景も続く。


「上がった!」


 哲史は二人の前衛の間へ、自分の盾の縁を入れた。


 盾を向けた相手は大盾役。槍の柄を当てた相手は戦鎚役。


 別々の方向へ押し分け、その間から足を抜いた。


 追撃はしない。


 槍を引き、荷台の後ろへ走る。


 高所の弩役が狙い直したとき、哲史は荷台の床の陰へ入っていた。


 長槍役が正面入口から動いた。


 坂上の出口へ先回りし、槍を横に振る。


「《アース・ステーク》! 入口を押さえる!」


 後ろ足へ土色の光が走った。


 奈緒は止まった。穂先を避けて右へ出れば、安全圏から遠ざかる。


「千景、長槍の柄を右へ引いて。左を開けて」


 千景が奈緒の前へ出る。


 鉤剣を槍の柄へ掛けた。


 長槍役は両腕で引き戻そうとする。固定した後ろ足で踏ん張り、千景へ穂先を向け直す。


 その反対側から、哲史の盾が当たった。


 荷台の後ろを抜けた哲史が、槍の柄を千景の引く方へ押す。


 長槍役の腕が右へ流れた。


 後ろ足を固定したままでは、槍に合わせて横へ踏み直せない。穂先を戻すには、まず足の固定を解かなければならなかった。


 奈緒の左が開く。


「奈緒、先に入れ」


 奈緒は一人分の隙間へ身体を入れた。


 千景が鉤剣を外し、奈緒を追う。


 最後に哲史が盾を押し当てたまま横へ移り、安全圏へ入ったところで長槍から離れた。


 三人が、荷台の向こうへ抜けた。


 長槍役は追わなかった。


 足元の光を解き、大盾役へ手を振る。


「正面じゃない。反対の入口へ回る!」


 大盾役が向きを変えた。戦鎚役が後ろへ付き、鎖鎌役も重りを回収する。弩役は高所から階段を下りた。


 五人が別の入口へ進んでいく。


 境界が閉じる前に、最後の弩役も内側へ入った。


 高架下の三番と五番は、遠ざかる外側へ残った。


     ◇


 次の収縮まで、三人は白いコンテナの陰をつないだ。


 正面から撃破を取りに行けば、奈緒が次の遮蔽物へ移る時間を失う。哲史は角から出てきた敵の剣を盾で外しても、背中を追わなかった。


 千景が奈緒を先へ通す。


 哲史が最後に角を曲がる。


 その向こうで、戦鎚の音がした。


 『最終戦線』の大盾が車路を塞いでいた。そこへ別のチームが駆け込んでくる。盾を迂回しようとした一人の前へ長槍が出て、反対側には鎖が走った。


 後ろから境界が近づく。


 追い込まれた選手が大盾へ剣を振った。その剣を硬い盾面が受け、盾の横から戦鎚が落ちる。


 青い格子が、一人を包んだ。


 奈緒は足を止めなかった。


 千景の背中を追い、コンテナの次の角へ進む。


 安全圏が、荷捌き場一つぶんまで狭くなった。


 表示が変わる。


『残存二チーム』


 哲史はコンテナの端から中央を見た。


 大盾役がいる。


 その後ろに戦鎚。内側に長槍。側面に鎖鎌。積み込み口の上で弩役が膝をついている。


 五人とも残っていた。


「最後、あの五人です」


 千景が言った。


 奈緒は二チームの表示を見て、すぐ中央へ視線を戻した。


「一人、先に落としたい」


「戦鎚だ」


 哲史が答える。


 背中の四本には手を伸ばさなかった。


 白いコンテナと低い防護柵の間は、互いの足元まで見える距離しかない。剣を置き、千景に走って確かめてもらう間にも、安全圏は狭くなる。


「奈緒はコンテナの右。千景、そこへ戻る道は?」


「コンテナ沿いと、防護柵の内側。二本です。どちらも奈緒さんが見えます」


「私は、二人が前へ出たらコンテナの右角まで進む」


 奈緒は自分が立つ角を指した。


 積み込み口の弩役からは、コンテナが身体を隠す。そこから先へ出れば射線が通る。


 千景が道を見比べ、頷く。


 哲史は大盾の後ろを見た。


 戦鎚役の両手が、柄を握り直していた。


     ◇


「《フォートレス・スタンス》! 中央を止める!」


 大盾が上がった。


 哲史が前へ出る。


 千景はその右へ並び、鉤剣を低く持った。


「千景、大盾の上を掛けて。哲史が下から押した瞬間だけ、右へ引いて」


 奈緒の声に、千景が鉤剣を上げた。


「哲史は下端。盾を持ち上げて、後ろの戦鎚へ入って」


「盾の方は追わない」


 哲史の盾が、大盾の中央へ当たる。


 相手は動かなかった。硬くした足場で腰を落とし、正面の力を受けている。


 千景の鉤剣が上端へ掛かった。


 大盾役は盾を手前へ引いた。引く力に千景を乗せれば、鉤剣を外せる。


 千景はすぐ引き返さず、一歩を足して付いていった。


 哲史の盾が低くなる。


 大盾の下端へ、自分の盾の上縁を差した。


 戦鎚役が後ろから腕を上げる。


「《インパクト・ウェイト》!」


 奈緒は千景の引く時刻だけを選んだ。


 哲史の膝が伸びる。


 同じ瞬間、千景の鉤剣が右へ引かれた。


 下から持ち上がる力と、上を右へ引く力。


 大盾役の足場は崩れなかった。硬い盾も割れない。


 盾の向きが、変わった。


 戦鎚役はもう振り始めていた。


 重くなった鎚頭の落下先へ、大盾の縁が入る。戦鎚役が腕を引こうとしたが、鎚は止まらない。


 金属が激しく鳴った。


 盾の縁をかすめた鎚頭が、哲史のいた場所から外れて舗装を割る。


 哲史は開いた一歩へ入った。


 大盾役は追わない。


 右手の槍を短く返し、石突で戦鎚役の手首を打つ。


 指が緩む。


 重い鎚頭を引き上げかけていた柄が、片手から落ちた。


 戦鎚役の上体が下がる。


 哲史は踏み込みを止めず、返した槍の柄を胸元へ叩き込んだ。


 青い格子が攻撃と身体の間へ割り込む。


 戦鎚役の姿が、その内側でほどけた。


『撃破』


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