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FICTA/REWRITE ―打ち切り漫画の英雄王は技名を叫ばない―  作者: Pemo


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020_もう一本の帰り道

「千景、搬入口」


 奈緒が選んだ。


 千景は片手斧の前から離れた。


 敵へ背を向ける前に、小盾で斧の手首を外へ押す。


 追撃の線をずらしてから、搬入口側へ走った。


 青い扉を越える。


 閉じた店舗を右へ回る。


 敵も壁も通過していない。


 奈緒へ通じる実在経路へ入ったところで、千景の身体が加速した。


 搬入口の角を曲がる一歩だけ、遅れが消える。


 奈緒が補正したのは、その一動作だった。


 千景は柱脇へ戻る。


 帰還後の停止は、自分の右脚で行った。


 弓が放った矢を小盾で外へ流し、そのまま鉤剣を弓の肩へ掛ける。


 矢は風の補助を受けていたが、矢筋そのものが小盾を通り抜けるわけではない。


 弓は引かれまいと、広場側へ踏ん張った。


「千景、その弓を先に倒して」


 奈緒が次の対象を選ぶ。


 千景は鉤剣を弓の肩へ掛けたまま、右へ踏み込んだ。


 弓が踏ん張っていた方向を外される。


 上体が鉤剣へ引かれ、弓役の胸が千景へ向いた。


 千景は小盾の縁を、その胸へ当てた。


 一つ目の青い格子が開いた。


 前方では、哲史が大剣と片手斧を広場の右へ寄せていた。


 二人とも、千景が戻った搬入口側に背を向けている。


 大剣役は、もう一度刀身の重さを増やした。


 哲史は振り下ろされる刃へ盾を合わせるふりをして、相手が両手を高く上げるまで待った。


 刃が落ち始める直前、哲史は左へ踏み出す。


 重くなった大剣は途中で止まらず、舗装へ深く食い込んだ。


 哲史は大剣を抜かせないよう、盾の下端で刀身の平を押さえた。


 空いた胸へ、槍の石突を打ち込む。


 大剣役を包んで、二つ目の青い格子が開いた。


 片手斧役が哲史へ向き直る。


 その背後へ戻った千景が、赤熱していない柄の根元へ鉤剣を掛けた。


 片手斧役が振りほどこうと腕を引く。


 千景は同じ方向へ一歩進み、相手が自分で開けた脇へ小盾の縁を入れた。


 盾の縁が胸へ当たり、三つ目の青い格子が開く。


 アーケード側を塞いでいた双剣と槍も戻ってきたが、遅い。


 戻れば、塞いでいた道が開く。


 残れば、前方の三人を失う。


 戻った双剣と槍へ、哲史と千景が二人で向き直る。


 奈緒も柱の裏から二人を見た。


「千景は双剣。哲史は槍。先に双剣を倒して」


 双剣役が千景へ入る。


 風をまとった右の刃が、小盾の外から首を狙った。


 千景は小盾を刃の横腹へ当てて、首から外へ流す。


 続く左の刃には、鉤剣を鍔元へ掛けた。


 二本とも外へ開かせ、武器の間へ身体を入れる。


 小盾の縁が胸へ届き、四つ目の青い格子が開いた。


 槍役は後ろ足を止め、もう一度、土色の固定魔法を床へ伸ばした。


 哲史は踏ん張る足へ視線を落とし、すぐに盾を相手の手元へ寄せた。


 胸へ当たると思った槍役が、穂先を引く。


 哲史はその引き戻しに盾を沿わせ、手元に近い柄へ縁を当てた。


「押す方じゃないのかよ……!」


 槍役が前足を横へ送ろうとする。固定した後ろ足が残り、腰が回り切らない。


 奈緒には、哲史の石突が胸へ届く直前に、相手の肘へ引っかかる角度だけが見えた。


 槍を返す手首のずれを、一つ消す。


 固定魔法が止めているのは足だけだった。


 盾で柄を横へ押され、槍役の両手が身体の外へ開く。


 哲史の槍の石突が、空いた胸へ入った。


 五つ目の青い格子が開く。


 五人のチーム表示が消えた。


 五人は間違えたのではない。


 二本を同時に残した三人が、相手へ二つを同時に選ばせた。


 哲史たちは五人を退け、そのまま北の安全圏へ入った。


 『最終戦線』は、相手に合わせて武器も補助魔法も替える。次に会ったとき、同じ五本を持っているとは限らない。


 残存表示が更新される。


『残存 四チーム』


 奈緒が表示を見上げた。


「公式戦で、四位以上」


「まだ三チームいる」


「分かってる」


「緊張してる?」


「してない!」


 今度は声が大きかった。


     ◇


 最後の安全圏は、北側の高架下へ寄っていた。


 奈緒も後方の柱を捨て、三人で北へ移動する。


 高架の太い脚が左右に並ぶ。


 内側には一本の通路。


 外側には閉じた店舗があり、その裏へ細い道が回っている。


 赤い収縮予告線が、三人の背後まで来ていた。


 二本を入口まで歩いて確かめる時間はない。


 三人は、その場から見える二本を確認した。


「高架の内側」


 奈緒が左を指す。


「店舗の裏」


 右には、倒れかけた金属棚があった。


 哲史と千景は前へ出た。


 だが、前方へ進むにつれて高架の脚が重なった。


 哲史から見える内側の入口と、後方の奈緒から見える入口が一つずれる。


 千景は側方へ回り、店舗裏の南口を見ている。


 奈緒が指したのは北口だった。


 三人は、二本という数だけを共有していた。


 同じ曲がり角までは、共有できていない。


 正面から、最初に搬入口を奪った迷路の隊章が来た。


 『ダンジョンマスターのススメ』の五人だった。


 五人は三人を追い回そうとはしない。高架の内側と店舗裏へ先に人を置き、三人が戻ろうとした瞬間に入口を閉じる。


 一人が哲史へ向かう。


 二人が千景へ向かう。


 残る二人は、奈緒へ走らなかった。


 弓が高架の内側へ入り、通路の先から奈緒への射線を取る。


 短槍役が店舗裏へ走り、金属棚の左脚へ土色の光を伸ばした。


 地形魔法が持ち上げたのは、棚が立つ床の片側だけだった。


 重心を崩した棚へ、短槍役が肩を当てた。


 棚が倒れる。


 北口の半分が塞がった。


 その前へ敵が立つ。


「千景、店舗の裏!」


 奈緒が言った。


 千景は南口へ走る。


 角を曲がった先に、奈緒はいなかった。


 見えたのは、倒れた棚の背面だった。


 奈緒が指した店舗裏は、北口から入る経路だった。


 千景が見ていた店舗裏は、南口から入る別の経路だった。


「奈緒、北口か」


 哲史が聞く。


「北。棚の前に一人いる」


 対象が定まったときには、高架内側の弓が奈緒へ届く位置にいた。


 千景は北口へ回る。


 だが、倒れた棚と敵を通過できない。


 奈緒は自分の踏み出す時刻を補正しようとした。


 次の柱までの間に、別のチームがいた。


 移動先も塞がれている。


 矢が届いた。


 青い格子が、奈緒の身体を包む。


 マリの姿が光へ崩れた。


 千景の帰還先が消える。


「前へ抜けるぞ」


 哲史が千景へ告げた。


 五人を倒すためではない。


 安全圏へ入るために、正面の一人だけを崩す。


 千景が鉤剣で敵の盾を下げる。


 哲史は開いた肩口へ槍の石突を入れた。


 青い格子が開く。


 二人は高架の内側を抜けた。


 だが、残る二チームも安全圏へ入ってくる。


 右から三人。


 北から四人。


 哲史と千景は、高架脚の間で挟まれた。


「千景、右の長剣を止めろ。俺が北の四人を止める」


 哲史が、千景に止めてほしい相手と自分が受け持つ方向を伝えた。


 北の先頭が槍を突いた。


 哲史は盾で穂先を外へ送り、返した石突を隣の一人の手へ当てた。二人の武器が交差する。


 後ろから入ろうとした三人目には、盾を持つ肩を向けた。


 踏み込めば、前の二人を押す。


 三人目の足が止まった。


「正面から行くな!」


 北の短槍役が、高架脚の裏へ回る。


 哲史はそちらへ穂先を送った。短槍役は身を引き、柱の陰へ戻る。


 その間に、正面の二人が千景の背へ向き直った。


 哲史は槍を引き戻し、二本の柄をまとめて横へ押す。


「千景、柱の裏から短槍が来る!」


 右の三人から、長剣役が千景へ踏み込む。


 千景は小盾で一撃目を外へ流し、鉤剣を長剣役の手首へ掛けた。


 引けば、長剣役の胸が開く。


 だが、北から来た四人の短槍役が、高架脚の反対側から千景の脇へ入った。


 警告を聞いていた千景は、小盾を長剣役から外し、短槍の穂先を受ける。


 短槍は止まった。


 その代わり、手首を引かれていた長剣役が一歩近づき、空いた肩へ柄頭を当てた。


 青い格子が千景を包む。


 アンハナの姿が光へ崩れた。


 哲史は高架脚を背にして、北の四人が一度に回り込めない位置へ入った。


 右から大盾役が突っ込んでくる。


 哲史は盾を重ね、受け止める直前に膝を緩めた。


 大盾が前へ傾く。


 その上端へ自分の盾を被せ、槍の石突を足元へ入れた。大盾役の膝が舗装へ落ちる。


 哲史は盾を押さえたまま、槍を短く返す。


 長剣が、その穂先を横から弾いた。


「立て! 一人で受けるな!」


 大盾役が顔を上げるより先に、哲史は長剣の内側へ入った。槍の柄で肘を打ち、戻ってくる刃を高架脚へ擦らせる。


 火花が飛ぶ。


 長剣役の目が、柱へ当たった自分の刃を追った。


「なんで、こっちに――」


 哲史は長剣役の肩を柱へ押しつけ、その身体で北側からの突きを遮った。


 北の槍役が攻撃を止めた。


 味方ではない。それでも、先に長剣役を倒せば、哲史へ通すはずの一撃を使うことになる。


 哲史はその止まった穂先へ盾をぶつけた。


 二人の武器を外へ追いやり、高架脚の縁を回る。


「そっちへ出るぞ!」


 千景を狙った短槍役が、反対側から来た。


 哲史は振り返らず、後ろへ引いた石突で短槍の柄を打ち上げた。脇を抜けた穂先が鎧を削る。


 腰の横に、損傷表示が開いた。


 哲史は足を止めない。石突を返して短槍役の指を打ち、手から離れた武器を柱の裏へ蹴った。


 短槍役が後ろへ転がる。


 空いた手を地面へつき、もう一度下がった。柱の裏へ蹴られた武器へ、手を伸ばそうともしなかった。


 哲史の前が開いた。


 その先を、赤い収縮線が横切っていた。


 残る安全圏は、高架脚の内側だけだった。


 哲史は柱の縁へ盾を当て、身体を内側へ戻した。


 待っていた大盾が来る。


 今度は哲史を押し倒そうとせず、低く構えて足元へ寄った。長剣役は盾の後ろまで下がり、北の槍役も距離を取る。


 誰も、一人では間合いへ入らなくなっていた。


「次は同時だ。盾に触ってから」


 大盾役の声は低かった。盾の裏で、握りが一度滑る。指を掛け直すまで、前へ出なかった。


 哲史は大盾の縁を槍で持ち上げた。


 長剣が柄へ落ちる。


 哲史は槍を引き、大盾へ左肩をぶつけた。持ち上がった盾が長剣を受け、二人の前が重なる。


 その横へ出ようとした足が、赤い光へ触れた。


 哲史は踏み込む方向を内へ変えた。


 北の槍役が、短く持った石突を差し込んでくる。


 哲史は盾の縁で手元を打った。石突は胸を外れたが、腰を捻ったところへ大盾の角が当たる。


 傷めた脇が潰れ、左肩が下がった。


 哲史は槍を返した。


 長剣役が自分の刃を両手で押し当て、穂先を喉の横へ逃がす。


 哲史が押し込んだ一歩と、北の槍役が石突を送り直す一歩が重なった。


 下がれる場所は、もう柱と赤い光で埋まっていた。


 石突が、盾の届かない左脇へ入る。


 青い格子が哲史の視界を埋める。


 最後に見えたのは、「四位」で止まった順位表示だった。


     ◇


『地区公式戦 最終順位 四位』


 接続が切れた作業部屋で、奈緒は結果を二度見た。


「四位」


「見れば分かる」


「公式戦の四位」


「それも書いてある」


 千景は二人の横で、終盤の映像を戻した。


 奈緒が「店舗の裏」と言った場面で止める。


「私は、南口を見ていました」


「私は北口」


「俺は高架の脚で、北口が見えてなかった」


 三人とも二本を覚えていた。


 ただし、同じ二本ではなかった。


 奈緒が戦場図を開く。


 高架の脚、南口、北口、倒れた棚。三人の位置から見える順に、説明を書き始めた。


「長くなるぞ」


 哲史が言った。


 奈緒の指が止まる。


「じゃあ、どうするの」


「三人が同じ場所を指せればいい」


「座標を毎回読むんですか?」


 千景が聞いた。


 その声は、四位を悔しがるより先に、次の方法を確かめていた。


 公式戦経験のある千景にとって、四位は勝利ではない。


 だが、三人で公式の上位へ入った結果まで失敗として捨ててもいなかった。


「私が前へ出る前に、奈緒さんへ戻る道を二本決めておく。その作戦自体は、さっきの戦闘で成功しました。最後に失敗したのは、三人がそれぞれ違う入口を見ていたからです。同じ道を指すための目印が足りませんでした」


 奈緒が書きかけた説明を見た。


「説明を書き足しても、戦いながら読み返す時間はありません」


「試合中は戦場図も確認できない。選んだ二つの道の入口に、三人が同じ場所だと分かる目印を置く」


 哲史は机に置かれた原稿へ目を落とした。


 ハウの腰には、六本のショートソードが並んでいる。


 一本ずつ、番号が刻まれていた。


 哲史の指が、三番の刻印で止まった。


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