誰が一番強いのか
「渚沙。一番強いSランク冒険者はもちろん〈絶剱〉のラヴィスさんだ。」
「渚沙ちゃん。一番強いのは〈絶癒〉の美玲ちゃんに決まってるよ。」
「渚沙ちゃ〜ん。一番強いのは〜〈絶魔〉のルミさんに決まってるんだよ。」
三人全員はそれぞれ違う人物を挙げ、口論が始まった。
「翠、水樹。一番強いのはラヴィスさんに決まってるだろ?確かに、美玲さんもルミさんも強いがラヴィスさんに比べればどうとでもない。
おまえらは、ラヴィスさんの戦いを見たことあるか?俺はある。」
そうして、雷華はラヴィスについての話を早口で話していった。
「確かに美玲さんも強い。どんな傷でも生きてさえいれば復活できる。
それに加え、何度も治癒をしていることで人間の身体の構造というものを理解している。相手の攻撃の軌道を考えて死なないように工夫しいくらでも復活することができる。
だが、それにも限度がある。魔力が尽きれば回復はできないし、相手との実力差が離れていれば徐々に傷を負う速度が速まり魔力の尽きも早くなってしまう。
そして、美玲さんは回復には特化しているわけだが、攻撃に特化しているわけではない。だからこそ、ラヴィスさんじゃなくても、攻撃特化の相手と戦えば負けてしまうだろう?」
雷華が思う意見をスラスラと述べた。
「うぅぅ〜。」
そう雷華が説明をすると、翠はうなだれてしぶしぶ雷華の意見を認めた。
「雷華くん討論強っ。」
そう思うのもつかの間、次は水樹への返しが始まった。
「次は水樹の思うルミさんだな。ルミさん。あの人は正直言えばラヴィスさんよりも強い可能性もあるだろう。それは俺も認めている。」
「でしょ?やっぱりルミさんが一番強いんだよ〜。」
「だが」
そう切り替えして反論が始まった。
「ラヴィスさんには五分まで言っても勝つことは出来ないだろう。」
「なんで〜?」
「まず、ルミさんは魔法特化の人だ。まあ、そこはあまり関係ない。
ルミさんは、魔法を駆使して近距離も遠距離も回復だって一人で行うことができるオールラウンダーだ。大抵の相手では勝つことは出来ないだろう。まあ、それはまともな相手ならだ。
まず、大前提としてルミさんが強くないわけではない。いや、むしろ強い方だ。しかし、ラヴィスさんを舐めてはいけない。水樹。お前がルミさんが一番強いと思う理由はなんだ?」
「そうだね〜。近距離特化のラヴィスさんじゃオールラウンダーのルミさんには勝てないでしょ?」
「まあ、そう思うだろ?お前たちは勘違いしてるかもしれないが、ラヴィスさんは完全な近距離特化というわけじゃないんだぞ?
まず、ラヴィスさんは刀から両手剣まで幅広い剣をあつかうことができる。それに加え、ラヴィスさんの一番の強みは身体強化魔法と局所的な回復魔法の精度と質だ。」
「そうなの?」
翠と水樹は知らなかったのか疑問符を頭に浮かべていた。それを見た雷華は詳しく説明をしてくれた。
「ああ。通常の魔法使いや前衛職の身体強化魔法の最大倍率は、せいぜい5倍が限界だ。それ以上に倍率を上げてしまうと体の筋繊維が徐々にダメージを受けてしまう。
通常、身体強化魔法というのは局所的に使うのではなく継続的に使うことがほとんどだ。そのため、5倍以上の身体強化魔法を継続して使うと、筋繊維へのダメージより戦闘中に隙が出来てしまう。だからこそ、ほとんどの冒険者はせいぜい3倍でとどめている。」
雷華が言っているのは正解だ。冒険者の身体強化魔法倍率は、3倍程度で留めることが今は常識となっている。昔それ以上の倍率で使用し、筋繊維が回復できないほどまでに損傷してしまうことが起きたことで冒険者学校で教えるようになっている。
「しかし、ラヴィスさんは違う。あの人は、他の人よりも魔力の量が極端に少ない代わりに、魔力の質が段違いに違う。ありたいていに言えば、泥と宝石ぐらい違う。
その御蔭で、極小の魔力の量でフルで身体強化をすることができ、それに加え、質が段違いなお陰で通常より何倍もの出力を出すことができる。大体、MAXで30倍ほどまで上げることができる。
普通そのような出力を出してしまえば、一瞬で筋繊維がちぎれてしまう。しかし、それを覆すことができるのが、局所的な回復魔法の精度と質だ。
ラヴィスさんは身体強化魔法によって損傷した筋繊維を、ダメージを受けた瞬間に回復させることのできるほどの感知能力がある。その感知能力と通常とは違う回復魔法の質により、常時何十倍もの身体強化魔法を使うことができる。
その身体強化魔法を使えば、空中でも水中でもどのような敵が相手でも圧倒することができる。」
雷華の説明を聞くと、どれほどラヴィスが強いのかがこれまでかと言うように理解することが出来た。そして、最後に特大の爆弾を落とした。
「俺は昔、ラヴィスさんとルミさんの戦いを見たことがある。あれは世紀末のような戦いだった。剣と魔法の戦いと言っていいものではなかった。あれは怪物同士の戦いだった。
鍛錬のために潜った迷宮の最深部ですさまじい轟音が聞こえ見に行ってみればその二人が戦っていた。」
◇
1年ほど前、剣の鍛錬をしに、無窮の迷宮である〈翠碧〉のモンスタースポットへと足を運んでいた。
そこで1時間ほどモンスターを倒し続けていたら最深部の方から剣と剣がぶつかるような金属音と、魔法による爆発音が聞こえてきた。
「なんだ?この迷宮の最深部のボスってちょっと前に倒されてたはずだよな。まだ、リスポーン周期には達してないよな。何が起こってるんだ?」
そう思い、少しの正義感と高揚感で最深部へと向かった。
5分ほど階段を下っていると、先程まで聞こえてきていた金属音や爆発音が聞こえなくなってきていた。戦闘音が聞こえなくなり、最深部まであと少しというところで小さく詠唱のようなものが聞こえてきた。
「詠唱…か?」
最深部の入口で中を覗くと、剣を構えているラヴィスと魔法の詠唱をしているルミが相対していた。
「あれは、ラヴィスさんとルミさんか?それに、ルミさんの詠唱してる魔術。あれ、最上級魔法じゃないか?やばいだろ。」
ラヴィスの構えている剣は何の変哲もない鉄の剣。それに対して、ルミが詠唱してるのは禁術指定されかけたほどの魔法である最上級原子魔法だ。
最上級原子魔法は、詠唱時間が長い代わりに触れた場所を強制的に分解するという性能を持つ。そんな性能の魔法を鉄の剣で受けきれるはずがない。そう思った俺は急いで入口へと身を隠した。
「最上級原子魔法。疑似創星爆発」
そうルミは詠唱を終えた。ルミの杖から小さくも通常ではありえない量の爆発が凝縮され、杖から出した瞬間の日の赤い色が一瞬で黒く染まりラヴィスへと向かっていった。
終わりだと思い、目をつぶろうとした瞬間、ルミの放った魔法を鉄の剣で爆発までをも真っ二つに斬った。
「「は?」」
俺とルミの声が重なり、ルミは自分の魔法が斬られたことを認識し、すぐさま両手を上げ降参を宣言した。
「ラヴィスくん。だめだ。私じゃ勝てないや。やっぱり君強いや。」
◇
「っていう光景を目にしたんだ。本人も言っていたが、ルミさんは降参をした。それに加え、ルミさんの使用した魔法は最上級原子魔法。しかし、ラヴィスさんの使っていた剣は鉄の剣。もうどちらが強いのかはわかるだろう?」
雷華の目にした光景を信じるほかしかなかったことで、水樹も雷華の意見を認めざるをへなかった。
そのような会話をしていると、冒険者学校の学長室につながる階段を一人の男が降りてきた。




