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凱人と虚の意図せぬ邂逅

凱人は毎日の日課である刀の鍛錬を終え、今一度薫の制作したナナシと比べると、どうしても1段階、2段階劣っているように感じてしまい落ち込んでいた。


「どうしたらあんな刀を…。それに、薫さんの作った刀で残っているのはナナシ一本だから他の刀と比べることもできないし…。」


そんな陰鬱な気分になっているとき、1つのメッセージが届いた。


『先輩!見てくださいよこれ!雷華くんに買ってもらいました!初ダンジョン制覇お祝いですって!』


そのメッセージとともに送られてきたのは、見事な装飾の施された短刀だった。渚沙はちょくちょくメッセージを送ってきており、その中で自分は魔術師の職業を選んだと報告していた。


「見事な装飾ですね。それに刀身を見る限り、切れ味もちゃんとしてそうですね。護身用といったところでしょうか。それでもいい短刀ですね。」


よかったですね。と渚沙にメッセージを送信し、ふと思った。


(あれ?私も街で他の刀を探してみればよいのでは?)


灯台下暗しとはこのことだろう。せっかくのことだから、この異世界の他の武器なども見てみようと薫が残してくれたであろう多少のお金と護身用の刀を持って家を出た。


凱人が出発した同時刻。はからずも、もう一人も街へと繰り出していた。





虚は凱人の観察を終え、いわゆる下界を見るためのモニターのようなものを閉じふと考え込んでいた。


凱人を見つけ興奮のあまり変わってしまった口調を整えて思い出していた。


「ふむ。あやつの名前は最近聞いてなかったが、人の子に加護を与え違う世界に送り込むとは…。なかなかやりおるの。あやつの作る刀は見事じゃったからな。」


あやつとは、凱人に刀の上達速度が上昇するように加護を授けた神のことである。


「あやつの刀も好きであったが、やはり人間の作るものも良いな。ときに神の想像すら超えてしまう。凱人の使っておったナナシもそうじゃ。あれほどの刀そうそう目にかかれまい。あのようなイレギュラーがあるからこそ地上は面白い。


そうじゃ、お忍びで地上に降りようかの。ま、余のことを知ってるものなんぞ三神しかおらんからな。バレることはないじゃろ。」


虚のことを認知しているのは、確かに三神に限られる。しかし、虚のことを知らないといっても圧倒的な魔力の圧や存在感は並大抵の種族が浴びればひとたまりもない。


そして虚には決定した体は存在しない。概念の集合体のようなものだ。だからこそ、自由自在に体を変化させ魔力の質や量などもいじることができる。


凱人を観察していた際には、数百年前に創った体を使っていたそれでも、ある程度の種族が出会ってしまえば、よくて目覚めるまで1週間。悪ければ、目覚めることはないということもありえてしまう。


そして、虚が創ったものは三神が攻撃しようとよほどのことがない限り壊れることはない。だからこそ、体の強度は考える必要がなく、魔力の質や量にだけ注力すればよいのだ。


そうして、年頃の若い女の体を創り別次元である虚界から地上へと体の座標を変えた。





凱人が街についた頃にはすでに満身創痍だった。周りを見渡せば、人、人、人。さすがの凱人でも火強いになってしまう。


「やっぱりこの場所は人が多いですね。早いところ刀を見つけて帰りましょう。」


人混みを分けながらこの街にある鍛冶屋や武器屋を回っていった。


しかし、刀は使うものが限られ、制作も難しいことからほとんどの店で取り扱っているところはなかった。この街の殆どの店を回り最後の一件。というところでなにやら女の子と武器やの店長が話しているところを見かけた。


「なんでじゃ!んん゙。なんで刀がないの?武器やでしょ!刀ぐらい扱ってなさいよ!」


「いやぁそう言われてもな嬢ちゃん。この街じゃあ刀を扱う冒険者がいないし、刀を作ることのできる鍛冶職人もいねぇからこの街じゃあほとんど扱ってないんだよ。すまねぇな。」


店長にそう言われなにやらブツブツと独り言を放ちながら店を離れていった。


「この街で刀は扱ってないんですか。骨折り損ですね。しかし、あの少女。もしかして刀を使うんでしょうか。ある程度の実力は持っているようですし…。


それであれば、刀は大量に余っていますしお裾分けでもしましょうかね。あ、でもお節介というものですかね。しかし、なにか必要な用があるとしたら。うぅ~ん…。」


一人でそんなことを考えていると少女は店から離れていってしまった。そうして渡すことを決めた凱人は、少し露店により店を離れた女の子を追いかけに行った。



「わざわざ地上に降りてきたのに…。」


刀を求め地上に降りてきた虚であったが、ちょうど降り立った街には刀がないと知りがっかりとしていた。


他の街へと移動することは人が息をすることよりも簡単だが、この街に刀がなければ他の街でも扱っているところを見つけるのは難しいだろう。そう考えた虚は虚界へと戻ろうとしたとき、誰がどう見ても怪しい狐面の男が話しかけてきた。


「君、刀が欲しいのかい?」


「なんだ貴様。いかにも怪しいです。といった風貌をしよって。なんだ?襲いにでもきたか?散れ、散れ。私、いや余は今機嫌が悪い。はよう痛い目をあわぬうちに散れ。」


そう問い詰めると、男は焦ったように狐面を外し弁明をした。


「あれ?怪しかったかな?ごめんね。知らない男が話しかけるよりも狐面のほうが親しみやすいかなって思ったんだけど。」


「もっと怪しくなるに決まっておるだろう。たわけが。さっさと要件を話せ。」


そう急かすと男は焦ったように空間から刀を取り出し、手渡してきた。


「さっき、武器屋で刀が欲しいって言ってたから余ってる刀をお裾分けでもしようかなと思って。はい。」


そうして手渡されたのは、少し慣れていないようであるがしっかりと鍛錬されている立派な刀だった。


「これは、お主が作ったのか?」


「いやまあそうなんだけどね。まだまだお粗末だから渡すのはなって思ってたけど…。あっ大丈夫。それは、その中でも一番出来の良いものだから。」


「そんなこと気にしていない。善意であるのならばありがたくいただこう。」


「それは良かった。」


「そうだ、お主。名はなんという。せっかくの縁だ。名前くらい聞いておこうと思ってな。」


普段なら、人の子の名前など聞くことはないがこの男は完全な善意から話しかけてきた。下心などまるで一切と言っていいほど存在しない。そして、そんな人間はめったにいない。だからこそ、少し興味が湧いたのだ。


「それもそうだね。私の名前は水篠凱人。ここだけの縁かもしれないけどよろしくね。」


「そうか、お主が…。」


名前を聞き、何やら考えているようで不思議に思った凱人は虚へと話しかけた。


「どうしたの?なにかあったかい?」


「いいや、こっちの話じゃ。お主に名乗らせたのだから余も、いや私も名乗ろうか。そうだな、私のことは朧とでも呼んでくれ。」


「それじゃあ朧くん。私は刀を渡せたし、そろそろ行かせてもらうよ。それじゃあね。」


「待て凱人よ。最後に1つ助言をしよう。」


「助言?」


「まあ、戯言と捉えても良い。お主、不思議なスキルを持っているだろう。何だったかな、無窮の太刀かの?」


「ええ、それに似た無窮の一刀なら。」


「そうか一刀だったか。まあ、そんなことはどうでもいい。そのスキルは、10本ほどの刀を贄に捧げればスキルが発動するであろう。しかし、それではもったいない。


そうだな…。お主であれば少なくとも50本は捧げることじゃな。さすれば、神をも斬れる刀をその手にするだろう。それだけじゃ。」


そう凱人に言葉を残し、話を聞きいていた凱人が瞬きをした頃には、そこに朧の姿はなかった。


朧の立っていたところには、少しの霧だけが立ち込んでいた。それはまるで人一人が神隠しにでもあったようだった。


凱人は朧からの助言を噛み締めながら帰路をたどり、凱人と虚の意図せぬ邂逅は幕を閉じた。

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