渚沙のポテンシャル
4日後
「よぉ〜し。ダンジョンに潜るぞぉ〜。出発進行〜。」
「ちょ、待て待て。渚沙お前どこにダンジョンあるか知らねぇだろ。案内してやるからついてこい。」
ダンジョンへ潜る準備が終わり、翠たちがダンジョンへ潜る手続きが終了したことを知らされ意気揚々とダンジョンへ向かった。
「着いたぞ。ここがダンジョンだ。ダンジョンに潜るやつのためのショップとか宿泊場とか諸々があるから場所覚えとけよ。」
「こ、ここが。ダンジョン!!人の夢、ロマンッ!すべてが詰まった未知の場所。最高かよ。」
興奮する渚沙をなだめながらパーティー登録をしてダンジョンへと潜っていった。
◇
「ダンジョンすげ~。周りは石?かな。なんかすっごいキラキラ光ってるし、全然知らない生物がいっぱいいる!うわ~。先輩にも見せてあげたいなぁ。」
「おいおい、あんま勝手に動くなよ。曲がり角から急に魔物が出てくることもあるからな。っと、そんなこと言ってると、出てきたぞ。」
そう雷華が言うと、角からゴブリン数体とスライムが現れた。
「ちょうどいい。渚沙、あの魔物倒してみろ。」
初の実践。命のやり取り。渚沙の心に少し罪悪感が浮かんだが、ダンジョンに潜る前に水樹に言われたことを思い出していた。
「渚沙ちゃ〜ん。1つダンジョンに潜る前に教えておくね。初めての実践で大体の人は、魔物を殺すことに躊躇する人が少なくないんだ〜。」
「で、でも魔物だって生きてるじゃん。それが少し…。」
「渚沙ちゃんは優しいからね〜。だからこそ躊躇しちゃだめなんだ。心根が優しければ優しいほど少しづつ罪悪感が蓄積していく。だからといって、魔物を道具や素材として考えるのも良くない。」
「じゃあどうすれば?」
「少し、小さくてもいいから命に感謝することを忘れない。それだけでいいんだ。魔物だって生きているが、人を傷つける。人にトラウマを植え付けることだって多々ある。だが、魔物がいるお陰で俺達冒険者が生きていられる。だからこその感謝だ。小さくてもできればそれでいい。」
「それだけでいいの?」
「そうだよ〜。それだけでいいんだ。」
「ふふっ。なんかいつもふざけてるけど、たまに真面目だよね水樹くん。」
「そうそう。俺は真面目なんだよ〜。」
◇
「よしっ。躊躇しない。あとできれば感謝。よし、頑張るぞ〜。」
ダンジョンに潜る前、魔術を使用する渚沙に合わせた翠の用意した簡略化した杖である宝石の埋まった指輪をゴブリンに向けて自分の今できる最大の魔術の詠唱を始めた。
「揺れ、燃え、翳る空を穿つ。あらゆるを灰燼と帰す無窮の炎。陽焔…」
「ちょ、待て。何使おうとしてんねん渚沙!」
水樹にそう頭を叩かれ、詠唱を止めてしまった。
「なにするのさ。詠唱止めちゃったじゃん。」
「いや、止めて正解だわ。それ、見たことないけど最大詠唱魔術でしょ?そんなもんこのダンジョンで打ったら、文字通りこのダンジョンすべてが灰燼に帰すわ。このダンジョンのモンスターは初級魔術で事足りるよ。」
いや〜危ない、危ない。そう渚沙に説教した水樹の言う通りにし、今度は初級魔術で相対した。
「火球」
そう唱えると、目の前のスライムは炎に飲まれ、素材を落として消えた。
「ほんとだ!初級魔術で良かったんだ。いや〜耐えられたらだめだな〜って思って。なら思いっきしをって思ったんだけど。使わなくて良かったぁ。」
じゃんじゃん行こ〜。そう言いながら進む渚沙と雷華たちだが、水樹だけがその場に留まっていた。
水樹が経っていたのは、渚沙が最大詠唱魔術を発動させようと立っていた場所だ。
そこには、周囲の魔鉱石が溶け、渚沙の立っていたであろう場所の地面は高温で熱した石のような状態になっていた。
初心者がどんな魔術を使おうと、魔術の余波でこんなことになることは普通ない。せいぜい、服が焦げるか、魔力の余波で周囲が歪んで見えるくらいだろう。
しかし、渚沙と同じ芸当、それ以上の芸当をすることのできる人物もいる。つい最近作られた新たなランクである天災級。そのランクに誰よりも早く登録された魔術師だけだろう。
そう考えて、渚沙が成長すればどうなるのかを想像し、恐ろしくもあるが誰よりも頼りになることを渚沙に感じた。
そうして、渚沙の魔術の余波によって灰になった魔鉱石を少し回収し、あたかも置いていかれたように水樹は渚沙たちを追いかけていった。




