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凱人の実力と名無し

今日の刀の制作が終わり、一息つこうと小屋の近くに作ったベンチに凱人が腰を下ろすと、壁に立てかけてあった刀と、洞窟で体験した未知の人?との接触を思い出していた。


「あの時私は、刀を極めると言いましたけどよく考えたら、あの時から刀の鍛錬をすることをすっかり忘れていましたね。」


そう思い、ベンチから腰を上げた凱人は近くにあったナナシを手に取り、小屋の近くの木の前まで来た。


「刀を扱うのは久しぶりですから、なまっているかもしれませんね。」


そう言い、刀を左腰に構え居合をする状態へとなり、目の前の木へと相対した。


ふー。と息を吐き、勢いよく刀を抜いた。


サッ


と風を切る音だけが森に響き木には何の変哲もなかった。この木を素人が見れば失敗と思ってしまうだろう。しかし、凱人が視線を下ろし刀を左腰に戻し、視線を木へと戻した瞬間、木は突然勢いよく後ろへと倒れた。


「う~ん。少し実力が上がっていますかね?いやそんなことはないですね。体が若返っているから勘違いしたんでしょうね。」


それにこの刀はすごいな…。自分の実力をもっと向上させねば。そうブツブツと一人で反省をする凱人だが、気づいていなかった。


それもそのはず。凱人は今切った木が材質が日本のものだと思っており、祖父はこの程度の木など原理はわからないが、4本ほど同時に切ることができるのだ。そのせいか自分が実力不足だと思っているのだ。


しかし、ここは異世界。


そのうえこの家は魔の森にあり、そのうえこの場所は入口よりも更に深い場所にある。当然凱人のいた世界とは木の材質は違うどころか森の入口にある木の何倍もの硬度を持つ。


今凱人が切った木は、緋緋色木というSS級ダンジョンからでしか発見されないような特殊な木である。


この木はSS級ダンジョンの深層などで緋緋色金という特殊金属の成分を取り入れることで異質な硬度を誇るようになる。


そしてこの家は、もとの家主であった薫しか知らないことだが刀鍛冶として使用している部屋にある機械槌や壁には緋緋色金が含まれている。そのため、魔力や緋緋色金の成分が家周辺の木に変化を与えているのである。


だからこそ、家の周辺にあった木を切ったことは十分おかしいことだが、もう一つ着目すべきことがある。それは、凱人の使用したナナシとそれを扱う常軌を逸した技術である。


通常、成人男性が刀を自分の手足のように扱うことができるようになるまで、もとの世界では少なくとも5年以上はかかる。


この世界では、もとの世界よりも武器を扱うことが日常になっているため上達速度も比にならないがそれでも、最低3年はかかる。


もともと刀を嗜んでいたものもそうだ。しかし、凱人は違った。それは、凱人の扱っていた流派による。


〈水篠流刀術〉


それが、凱人の扱っていた流派だ。


これは、凱人の祖父である水篠雅人の編み出した流派であり、この世界で雅人いわく最強に位置する流派だと自負していた。


実際この流派は、どの流派が相手であっても制圧することが可能な技をいくつも持ち、どのような達人であっても再起不能にし、実力があれば殺すことすら可能になる。


そんな流派を凱人は唯一祖父から教わっている者であり、正式な継承者である。


凱人が侍というスキルを取得したとき、剣道の大会で県2位までしか行ったことがないということは事実だ。しかしそれは、実践でなければということだが。


凱人が祖父から流派を悪ではない人間に使用することは固く禁じられており、剣道の試合ではそれを発揮することができずにいた。


凱人は試合の最中、祖父から教えられた刀術を放とうとしてしまうことが多々あり、その度隙が生まれてしまい試合に負けてしまうことがよくあった。


見たことはないだろうか。プロと素人が対戦し、プロが素人へ寸止するといった光景を。それと同じことが剣道の試合で起こっていた。


そのためか凱人は、自分は刀を扱うことがうまくないと思ってしまっている。


それに加え、凱人は祖父に刀術を教えられ祖父が亡くなるまで、鍛錬で一度も勝ったことがなかった。それどころか、刀で一度も触れることさえ叶わなかった。


だが、凱人は祖父が死んだあとも少しづつ鍛錬を続けており、20代になる頃には祖父をも超える実力を有していた。しかし、その実力を振るうことは現代社会では叶わず埋もれていった。


その鍛錬が身にしみていたおかげかすんなりと刀を扱うことができていたのである。


だが、それだけでは緋緋色木をきることはできない。そして、もう一つの緋緋色木を切ることができた要因は凱人の使用した”ナナシ”である。


この刀は薫の最高傑作であり、この世界に存在している武器の中で最上級の刀である。通常刀は、自分と同等以上の高度を持つものは切ることができない。せいぜい、鉄兜に傷をつけることが限界だろう。


しかし、ナナシは違った。この刀は薫が生涯をかけて追い求めた刀の完成形であり、様々な金属や魔力でさえもを限界まで注ぎ込んだ。


この刀にはオリハルコンや緋緋色金、魔力など多種多様なものを限界まで使用し作られている。そのためか、扱うものが使えばどのような物質でさえも豆腐のように一刀両断することができる。


ゆうなれば絶対防御不可能の刀というところだろう。


そんな刀と水篠流刀術があわされば、誰がなんと言おうと最強だろう。


そのことに気づかない凱人は自分の力不足としてまた鍛錬を始めた。





そして、その様子を違う次元から眺めているモノがいた。


「いやはや、あれほどまでのものをこの世界に呼んだとは。あの三神には拍手を上げたいですね。」


そう上から目線で話すのは、以前世界の構造などを説明してくれた”名無し”だった。



この世界に存在するすべての生物は三神が最も強く、優れていると思っているだろう。しかし、それは間違いだ。まあ、そのことを知っているのは三神だけだが。


三神にもそれぞれ得意としているものがある。


ゼニスは魔法や妖術など物理法則では成し得ないような術を扱うことに長けている。


アフェリアは、回復魔法や支援魔法など味方をサポートすることに。


ベルガルドは様々な武器を最高水準であつかうことができる。


その三神は集まれば、どのような存在にも負けることはないだろう。


しかし、三神が集まっても五分の存在と確実に負けてしまうほどの実力を持つ存在の2つがいる。


一つは、この世界で密かに信仰されている宗教のシンボルである〈邪教アビス〉である。


この宗教により、歴史から抹消されていた邪神アビスがこの世界に少しづつ存在を確立している。


邪神アビスとは、世界が一度滅びた際に生まれた人間の嫉妬や恨み、欲望、歪な悪が集合して形作られた神である。


世界が一度滅び三神が新しい世界を創った直後、邪神アビスが介入し再び世界を滅ぼそうとした。その際、三神によって歴史から抹消され、神界の奥深くに封印させられた。


封印したときは、生まれたてということもあり難なく封印することができたが、邪神アビスとは、歪な悪の塊のようなものであり成長すれば三神でさえも手に余る可能性がある。


しかし、そんな存在でさえも足元にも及ばず、三神と邪神アビスが仮に手を組んだとしても倒すことのできない圧倒的な存在がいる。


それが名無し。またの名を”(うつろ)”と呼ばれている。虚とは正体、実力何もかもが不明な存在であり、唯一わかっていることは、どんな存在であっても足元にも及ばないということだけである。


三神の誰もその正体を知ることが叶わず、以前に現れたのは3000年ほど前のことだが三神にはトラウマとして記憶にこびりついている。



そんな存在である虚が、刀の鍛錬をする凱人を別次元から見守っていた。いや、見守っているというのは語弊があるかもしれない。虚の顔はまるで、初めて見つけた好敵手を見るような顔だった。


「彼ならもしかすれば、三神に。いや、余にさえ…。まあそれはないかな。ん?彼、加護と異能を持ってるじゃないか。どれどれ?


ふふっ。なるほど、彼が使ってる流派は加護を与えた神(あの子)」の流派だったね。それに、彼の異能は彼の流派と相性がいいね。極めさえすれば…。それと、彼の鍛冶の上達速度はあの子の加護の特性だね。あとは、彼がこの領域に踏み入れることを祈るばかりだね。」


そう笑みをこぼしながら、うっとりと凱人のことを見つめていた。

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