石板
薫さんの言っていたであろう、洞窟に行くと、知らない人が見れば洞窟とは思えないものだった。
人一人がギリギリ入ることのできるほどの隙間と、それを覆うように自生している青々しい蔦。ここに洞窟があると知っていなければほとんどの人が素通りするだろう。
「ここ、ですよね…。私、入れますかね。」
自分の半身がギリギリ入るような隙間に、片腕から洞窟内に入れ、体をねじ込むようにして洞窟の中に入ろうと試みた。
「きっっつい。腕が、首が千切れそうなんだけど…。」
体の痛みに耐えながら、どうにか洞窟に体をねじ込むと前の世界でも、今いるこの世界でも見たことのない景色が広がっていた。
どこにでもあるような石や岩、苔、大樹、果ては洞窟の床にある湖までもが淡く優しい光を放っていた。
「絶景だね。これほどまでの景色を見ることができるなら来たかいがありましたね。」
洞窟の景色に見とれていると、すっかり本来の目的を忘れていた。
「忘れてた!玉鋼を探しに来たんでしたね。」
目的を思い出し、洞窟の景色に名残惜しさを感じながらも洞窟の奥へと足を進めた。
5分ほど道なりに進んでいくと、洞窟の最奥らしき場所へとたどり着いた。
最奥には、古びた石板と薫さんの言っていたであろう扉があった。扉を開ける前に、近くにある石板を確認してみようと近づくと少しづつ石板に書かれている文字が見えてきた。そこには、
《世界を越え、この碑文に辿り着きし者よ。
ただ一つの道を研ぎ澄ませ。万象を捨て、一を極めしその果てに、・・・は授けられん。》
一部読めない部分があったが、読める部分を読み終えると視界が暗転し、夢を見ているような感覚に見舞われた。
ここは?体の感覚はない。視界も真っ暗で何も見えない。かすかな風の音と精神の浮遊感だけが私の体を包んでいる。数十秒たったあと、どこからともなく優しいすべてを包み込んでくれるような声が聞こえてきた。
「世界を超えた人の子よ。あなたはこの世界で何を極め、何を成しますか?」
そう問われ私は、
「私は、刀を極めようと思います。そして、私に巻き込まれてしまった渚沙くんを、大切なものを守るためにこの力を奮いたいと思います。」
そう答えると納得したのか
「そうですか。あなたがこの世界を楽しめるよう些細ながら祈っております。」
見知らぬ声の主がそういったあと、かすかに
「あなたなら…。この世界を…。」
そう聞こえ、視界はもとに戻った。
「あれ?戻ってきたんですね。さて、一切なんだったんですかね。それにしても、見知らぬ人だとしても刀を極めると宣言したんですからきちんと極めましょう。」
前の世界で様々な刀の流派は学んできたからいいとして、肝心の刀がない。どうせなら自分で刀を作ったほうが愛着も湧くだろう。それに、刀鍛冶のスキルレベルがマックスになったときに解放されるスキルもある。だったら刀を自分で作って刀を極めよう。
石板の近くにある扉の中にある玉鋼を取り出し、小屋へと戻った。
「よいしょと。ある程度玉鋼は運べましたね。刀鍛冶始めてみましょうか。」
玉鋼と小槌を手に、炉へと足を進めた。




