無名の名匠
ふむ、ふむ。なるほど。刀ってこうやって作るんだ。
「塊の玉鋼を。ん?玉鋼…?あっ!まって刀の素材がないじゃないですか!」
剣なら鉄とかからでも作れるけど…。刀は玉鋼からじゃないとだめだったはずなんですよね。玉鋼はたしか自然物じゃなかったはず…。
「えっ…。どうしましょう。」
さすがに、玉鋼の作り方までは知らないんですよね。スキルみたいに玉鋼の作り方が文字として浮かんでくればいいですが。まあ、そんなことは起こらないので解決策を考えなければいけないわけですが。
どうしましょうか。最悪、街の鍛冶屋にいって職人さんに聞くしかないですよね。一応、素材がないかこの小屋の中を探してみましょうか。
◇
この小屋はだいたい、11メートルといったところでしょうか。鍛冶などの作業をするにはうってつけの大きさだ。
「どこを探しましょうか。真ん中から奥は鍛冶の道具を見るついでに見たので大丈夫ですかね。刀などの作ったものを置くためのスペースのようでしたし。入口を重点的に探しましょうか。」
とは言ったものの、それっぽいものは見当たらないんですよね。刀を作るための素材ですから、どこかにまとまっておいてあると思うんですが…。
「これは…。白装束でしょうか。刀を作る際に着る服なんでしょうか。鑑定とかできれば楽なんですが。」
取得
NEW〈鑑定〉
・自分の知りたいものに焦点を当てると、その詳細を知ることができる。レベルが上がるごとに調べることのできる範囲が広がる。
「あら。鑑定スキル取得できましたね。これもご都合主義ってやつでしょうか。早速詳細見てみましょうか。」
〈鑑定〉
《白装束:神衣》
・かつてある鍛冶師が、己の身を神域へと置くために纏った純白の霊衣。刀鍛冶は火と炭の煤で真っ黒に汚れるが、この衣は職人の清らかな精神に呼応し、火花や灰をすべて受け付けず、常に神秘的な純白を保ち続ける。
・纏うもの集中力を極限まで上げ、かつての使用者の業を受け継ぐことができる。
「…これはまた。すごいものがありましたね。《神衣》ですか。説明文を見る限り、相当な職人だったんですねもとの所有者は。」
一体どんな方がいたのでしょうか、この家には。とても素晴らしい人だったのでしょうね。説明文には
『この衣は職人の清らかな精神に呼応し、火花や灰をすべて受け付けず、常に神秘的な純白を保ち続ける。』
と書いてありましたし。本当に亡くなる最期まで清らかな心の持ち主だったんでしょう。しかし、この家の周辺には墓のようなものはありませんでしたし…。あとで立てておきましょう。
◇
しかし、神衣が見つかったあとも色々と探してみましたが新たな発見はありませんでしたね。唯一あったのはこの家に住んでいた職人さんからの贈り物のようなものだけ。手紙とともにあったから見てみるか。
〈この家で刀鍛冶を始めるものへ〉
まずは、この手紙を開いてくれてありがとう。君はたぶん儂と同じく刀鍛冶を極めるもの、または刀鍛冶を始めようと思っているものなんだろう。そう仮定してこの手紙を書かせてもらおう。
まずは自己紹介からだろう。儂の名は逢坂薫という。まあ、知っての通り刀鍛冶をしておった。儂の作った刀はこの世界に殆ど残っていない。儂は世界に自分の刀を広めたいというよりは自分の実力を高め、最高の刀を作るという思いだけで刀を作っていた。だからこそ、儂の名前を知るものはほとんどいないだろう。
さて、自分語りはこのぐらいにしておこう。
刀鍛冶として精通しているものならば、刀の素材を持っているだろうが、初めてのものは素材を持っていないだろう。
知っての通り、刀を作るためには玉鋼という特殊な素材が必要になる。玉鋼は長い時間をかけて作る鉱物だから初めてのものには難しいからだろう。だからこそ、今から刀鍛冶を極めようと思っているもののために素材を用意しておいた。素材が必要になるものは、この小屋の近くの山に小さな洞穴がある。その奥の地面に扉がある。そこから取り出してくれ。
刀鍛冶極めるならば、自分流の作り方を生み出し刀を作っていってくれ。
儂の最高傑作である刀を一つこの手紙とともにおいておいた収納袋に入れておいた。刀の名前は自分でつけるか「ナナシ」として使用してくれるとこの刀も報われるだろう。
最後に、君が新たな刀鍛冶としてこの世界に花開くことを祈っている。
そう書かれてこの手紙が終わっていた。心配していた素材についても、薫さんは解決してくれていたみたいだ。ありがたい。刀があると言っていたが、収納袋の中を確認してみようか。
「これが…。」
収納袋には、鞘に収められた刀が入っていた。刀を鞘から引き抜くとこの世のものとは思えないほどの美しい刀が姿を現した。
「これはすごいですね。刀を引き抜いた瞬間、刀の周りの空気が一気に引き締まった気がする。昔、刀を作っている様子や、完成した刀を見たことはありますが、この刀ほど美しいものは見たことがありません。」
通常、どんな名匠が刀を打ってもかすかに不純物や歪みが生まれるはずだが、この刀にはそんなノイズがいっさと言っていいほど存在しない。
それに加え、職人というのは自分の最高傑作に銘を刻むものだろう。しかし、この刀にはそれがない。薫さんはただただ完璧を求めて刀を打っていたのだろう。
「これほどまでの刀が無名で…?」
名もなき名匠の遺した、名もなき一本。そうとは思えないほどの刀がこの場所に存在していた。
刀を鞘へと戻し、いつの間にか震えていた手を抑えようともう片方の手で抑えた。
「刀を持っているときには気づきませんでしたが、無意識に手を震わせていたんですね。この方のような刀を作れるよう私も頑張りましょう。」
そう決意を固め、玉鋼があるという洞窟へと足を進めた。




