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2-03 そうです、私が犯人です。

「私」こと佐村さむら まどかは、事件に巻き込まれやすい体質だ。今日は住んでるマンションのお隣りさんで殺人事件が起きた。まあ、探偵は要らないだろうなあ。何せ犯人は……おっと、お口にチャック。

これはゆるく逞しく生きる「私」の日常に起きた、非日常のお話。

 彼女は笑顔で手を差し伸べた。

「ほら、行こう?」

 私はその手を取って、立ち上がった。

 手を繋いで、家を出る。

 私達は、どこまでも行く。



 私こと佐村 円は、現在、殺人事件の現場に居た。

 理由はシンプル。たまたま、偶然、自分が住んでいるマンションの、しかも隣の部屋で、事件が起きたからである。

 今が冬場で良かった。夏の猛暑の中なら、もっと悲惨な光景を見る羽目になっていたはずだから。

 とはいえ、私は死体を見慣れている。

 仕方ない。そう、本当に不可抗力なのだ。

「……何でいつもいつも、君が現場に居合わせるかねぇ」

 ため息と共に、一課の刑事である神崎 夏樹さんが私にそう言った。

 私だって、好きで居るわけじゃない。

「事件から寄ってくるんですよ。お祓いでも行こうかと思ってるところです」

 そう、コンビニに行ったら強盗と居合わせたとか、近場にある銭湯に行ったら殺人事件に巻き込まれたとか、お招きされたパーティーで殺人事件に出くわしたとか、本当に全て、私のせいではないのだ。

 そして今回は、自分が回した回覧板の袋が何日経ってもドアノブに引っ掛けられたままで、おかしいと思ったら鍵は開けっぱなし。

 嫌な予感がして大家さんを呼んで中を一緒に確認したら、リビングには立派な刺殺体が転がっていたのである。

「遺体は、死後、三日から四日ほど経過していると思われます」

 鑑識の人が来て、神崎さんにそう告げた。

「死因は恐らく、刺し傷による大量出血。何度も刺されてるので、怨恨の線が強いかと」

「ああ、部屋も荒らされていないし……」

「貴重品を持ち出した形跡も無く、更にはわざわざシャワーを浴びて血を洗い流してますね。血まみれの服とバスタオルが、お風呂場の前に散らかしてありました。なんか悠長な犯人ですよね」

 私は、警察が来る前にざっと現場のチェックをしていた。もちろん、物に手を触れたりはしていない。

 だが、待ってる間は暇だったのだ。まさか第一発見者なのに、のこのこ帰る訳にもいかない。

 大家さんは現在聴取中である。一番の被害者は彼女だろう。自分のマンションで殺人事件が起きているのだから。事故物件確定だ。

 私も聴取されるのを待っているだけで、今は大人しく立っている。

 だが、そういえば、と首を傾げて神崎さんに言った。

「神崎さん、ここには亡くなった方の娘さんがいたはずなんですけど、何処に行ったんでしょう?」

「えっ? そ、そうなのか。……事件に巻き込まれたのかもしれないな。行方を探さないと」

「いやー、むしろ全力で、血眼で探した方がいいんじゃないですかね。脱ぎ散らかしてあったの、制服でしたから」

「また君は、そうやって勝手に捜査して! だから毎回疑われるんだよ! 私は違うと分かっているけど、君を知らない人間なら、まず君を疑うよ!」

 叱られてしまった。手掛かりを提出した、心ある良識的な一般人なのに。

 ……まあ、現場保存は第一だから、怒りたい気持ちは分かる。でも警察を待つその間、死体とご一緒したところで、私には何の得もない。

 ともあれ、風呂場にあった血まみれの服は恐らくその娘さんの制服だ。ほとんど紺色なので目立たないが、血が固まった特有のてかりはよく見れば分かるし、何より血の臭いが消えてなかった。

「すみませんね、落ち着きのない性格で」

「そして全く反省の色がない!」

「しても直らないので、そこは諦めて頂くとして。それで、動機なんですけど、全く分からないんですよ。普段から仲の良さそうな親子でしたし」

 父親らしき人は見た事がないから、多分、母子家庭なんだろう。

 隣で暮らしていても、派手な音はほぼ無かったし、口論もあんまり聞こえなかった。娘さんも、素行不良はしていなさそうだった。うーん、殺人って動機無くてやれるものじゃないはずなんだけども。

 などと考えていると、声を掛けられた。

「……ほら、君の聴取の番だ。頼むから戻ってくるな」

「え、戻りますよ。隣の部屋が殺人事件なんですよ? 落ち着いて寝れません」

「じゃあホテルにでも泊まってくれ」

「お金かかるじゃないですか。捜査の撹乱とかしませんから、気になる部分は調べさせて欲しいです」

「駄目に決まってるだろう。ほらほら、行ってくれ」

 現場の隣の部屋は多分、娘さんの部屋だ。入ってすぐ、私は違和感に気付く。

「あー、君がもう一人の第一発見者だね。まずはこのお宅の異変に気付いたことから……」

 事細かく説明しながら、私は勉強机の上に置かれている鍵に目がいく。

 家の鍵にしては小さい。引き出しに付いている鍵穴のものだとは思うが、何故それが無造作に置かれているのか。引き出しには何が入っていたのかも気になる。

「……さん? 佐村さん?」

「あっ、すみません。どこまで話しましたっけ」

「ちゃんと話してもらわないと困るんだよね。いいかな、君の態度次第では重要参考人になってしまうかもしれないんだから」

「いや、犯人は私じゃないので。というか、この部屋に住んでいた母娘についても、全然知りませんし」

 せいぜい、すれ違ったり、居合わせた時に軽く挨拶する程度だ。

「困るなぁ。もっと協力的で頼むよ」

「はぁ。……で、大家さんと一緒に死体を見つけたあとは、中を軽く見てました。暇だったんで」

「そんな事言って、隠蔽工作でもしてたんじゃないの?」

「指紋採取して、無駄手間を取りたいならご自由にどうぞ。それより、あの机の鍵が気になって仕方ありません」

「鍵はいいから、何を見たのか、細かく話してくれないかな」

 うーん、めんどくさい。巻きで話そう。

「この部屋には今さっき初めて入りましたし、他にもドアノブに触らなきゃいけない場所は触れてないし見てません」

「そ、そうか。……他には?」

「凶器は死体に突き立てられてましたけど、それくらいじゃないですか?」

 そわそわしてきた。あと正座してるから足も痺れてきた。はーやーくー。

 ややしてそんな私を見かねたのか、聴取の刑事さんがため息をついて言った。

「ひとまず、聞きたいことは聞いた。さあ、現場の邪魔をせずに帰ってくれ」

「あ、まだ見る所あるんで残ります」

「警察の仕事に、一般人が首を突っ込むんじゃない! 公務執行妨害で捕まりたいのか!」

「警察の人達が引き上げるまで、うるさくて眠れません。よって、私の快適な安眠確保の為に介入します」

「無茶苦茶を言うな!」

 埒が明かないので、私は立ち上がろうとする。

 あ、駄目だ、足が痺れた。

 どてん、と無様に転ぶ。会社帰りのスーツ姿で正座は、疲れていた足にはよく効いた。

「どっ、どうした?」

「あ、足が……しばらくこのままで……」

「ええい、紛らわしい!」

 血圧の高そうな刑事さんは、私を放って部屋を出て行った。やれやれ。

 足をさすって痺れを落ち着かせた私は、鍵のある引き出しを、ハンカチで手を覆ってから開ける。

 中は空っぽかと思いきや、一枚の写真があった。

 そこには、顔のよく似た少女が二人、笑って写っていた。

 はて、この家には娘さんが一人だけだったような。

 かなり幼い子供の写真なので、普段よく見ない他所様の娘さんと比較は出来ない。

 が、無関係の人間の写真を、大事な引き出しに入れはしないだろう。

 それにも触らないようにして、引き出しを閉じる。

 あとは、と、クローゼットを開けた。思った通り、数着が抜かれている。

 探偵が居たとして、出る幕も無く犯人は娘さんなんだよなぁ。殺害動機も行方も分からないだけで。

 そして私は別に探偵をやっていない。単に落ち着きが無く、好奇心に溢れているだけだ。

 というか、私は至って普通の会社員である。事件に巻き込まれやすい体質なだけで。

 昔から、誘拐だったり殺人だったり立てこもりだったりに巻き込まれてきては、度胸もつくというもの。

 ちなみに大家さんは死体を見た瞬間に腰を抜かして青ざめていた。それが普通の反応。

 ふむ、学生カバンは置いてある。けど、中身は開いていてスカスカだ。自分の貴重品だけ持って行った感じかな。

「やっぱり勝手に見てたか!」

 おっと、責任者が来てしまった。

「神崎さん、やっぱり娘さんが犯人かと。服とか無くなってましたから」

「もう三日以上経ってるぞ! くそっ、行方が分かれば……」

「捜査網を県外にも広めるべきでしょうね」

 さすがに海外まで飛びはしないと思うが、日頃から娘さんをよく知る人間でないと、行方の手掛かりすら掴めないだろう。

「それで、何か他に見つかりました?」

「ああ、母親の部屋から古い写真が出てきた。双子らしき女の子とその両親が写っていたが、この家には母親と娘一人の、計二人しか住んでいない、と大家からの情報があった。恐らく、双子の片割れは父親と別の場所に住んでいる」

 でも、その片割れが犯行に関わってるかどうかは分からない。そもそも何で別に暮らしてるのか。親権を夫婦で分けたのかもしれないが。

「神崎さん、また何か分かったら情報よろしくです」

「駄目に決まってるだろう。君は部外者だ」

「第一発見者です。そして被害者の隣人です」

 もし母親の幽霊が出たらどうしてくれるんだ、と詰めたら、思いの外、神崎さんはあっさり折れた。

「分かった、分かったから詰め寄るな」

「あれ、もしかして幽霊怖いですか? 仲間ですね」

「断じて違う」

 そうか、違うのか。残念だ。私は引っ越したい程度に幽霊が怖いんだけど。

 しかし今引っ越すと、この違和感を引きずってしまう。我慢だ、我慢。

 ちなみにこれ以上現場からは何も出なかったから、帰れと言われた。仕方ないので帰った。

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