表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

2-20 僕の約束、きみの約束 〜生徒会選挙編

生徒会長候補・龍川律たつかわ りつの瞳が、黄金に裂けた――


葦原中学校は今、生徒会長選挙真っ只中だ。

次期生徒会長といわれる律の目の変化に気づいてから、主人公・逸希いつきの日常は大きく変化していく。



都市伝説マニアの逸希は、律の瞳から、彼は地底人〈レプテリアン〉ではないかと仮定、そして地元の伝承と照らし合わせ、調査を開始。

伝承を知るあかりを救ったことで、律と敵対関係に!


一方、燈と律の間には、五百年前から続く契約があった。

そしてその因縁は、逸希自身の血にも繋がっていく……


タイムリミットは生徒会選挙投票日だ。


果たして逸希は、あの“約束”を守れるのか――?

 5月半ばの葦原中学校は今、生徒会選挙の真っ最中だ。


逸希(いつき)、お前、行くのか?」


 後ろの席の和磨くんが僕の肩を叩いた。

 いつもながら全てに主語がない。

 察するに、放課後の後援会のことだと思う。


「生徒会長選挙のだよね? 行くよ。やっぱ、同じクラスなのもあるけど、律くんのスピーチ、勉強なるし」

「マジかよ」


 和磨くんはため息をついて、僕の首に腕を回した。

 耳元で告げられた言葉に、僕は瞬きを繰り返す。


「おれ、(りつ)と、ライバルだからさぁ」


 龍川律くんは才貌両全な男子だが、和磨くんは僕と同じ(かげ)に生きる男子だ。

 僕は無言のままにこりと笑って、開催予定の視聴覚室へ移動した。


 視聴覚室の席は50席ほどあるのに、すでに満席だ。 

 僕は立ち見となるが、事前説明で撮影していいという話に、意気揚々とスマホを取り出した。


「撮影もすんの?」


 和磨くんの声に「悪い?」と聞けば、「別に」と不機嫌な声が返ってくる。


「演説ってそんなに大事か?」

「大事だよ。言葉遣いもそうだけど、抑揚とかさ」

「お前の好きな都市伝説に、しゃべりなんか関係あんの?」


 小馬鹿にした声に、僕は和磨くんの脇腹に肘を入れた。鈍い声が聞こえたので、前を見たまま話しかける。


「じゃあ、なんで来たのさ」

「いってぇ……そりゃ、偵察だよ、偵察。あ、始まるぞ」


『放課後なのに時間をいただきありがとう。さっそくだけど』


 スマホを構えてすぐに始まった律くんの演説だが、僕は違和感を覚えた。


 ──目が、おかしい。

 一瞬、律くんの目が黄金色になって、縦に、裂けた──?


 瞬時に、律くんを強く支持しなければという、前のめりな気持ちが吹き出してくる。

 周りは叫び、腕を振り、立ち上がる人もいる。

 どうしてだろう? そう思った瞬間、吐き気とめまいがおそってくる。

 回る視界に酔いながら、視聴覚室を飛び出した僕は、近くのトイレの個室の便器に腰をかけた。

 握ったままのスマホを膝に乗せると、黒い画面に青白い顔の僕がいる。


「見間違いだよね……」


 僕は言い聞かせながら、さっき撮った動画をタップした。

 コマ送りのように指で滑らせていくと、開始3分で目が光の反射なのか、金色に変化する。

 スクショに撮り、拡大した。


「爬虫類の目だ……」


 僕はすぐに都市伝説の、レプテリアン【爬虫類型地下生命体】を思い出した。

 そして、この街の伝承も、だ。

 大昔、蛇頭の人間がこの土地を奪いにきたが、追い返し、地下に埋めたという。


「……伝承、調べないと」


 トイレから出ると、教室からリュックを取って、廊下に出た。

 玄関に向かう背に鋭い声がかかる。


「ちょっと、」


 美人教師で人気の辰巳 佳夜(たつみ かよ)先生だ。


「待ちなさい」


 有無も言わさぬ声に、僕は振り返る。

 近づいてきた辰巳先生は、視聴覚室に長い指をさした。


「龍川くん、演説してるでしょ、行きなさい」

「すみません、帰ります」


 背を向けようと回した僕の肩を先生がつかんだ。

 細い腕から流れついた先生の視線に、つい引き込まれる。

 律くんの演説を聞かなければいけない罪悪感で心が騒ぐ一方、拒否を意識したとたん、また吐き気がおこる。

 とっさに離れようと、足に力を込めたとき、父の声がした。


『目立つな!』


 ここにはいない父の怒鳴り声に、足が竦む。

 それでも、不快な胃から解放されたい!


「……僕、い、行きませんっ」


 僕は先生の腕を振り払った。

 消える吐き気に、僕は逃げるように本気で走った。

 呼ぶ声も無視して、僕の心の避難所である赤獅子神社に向かっていく。

 学校から5キロ程度の距離なのに、息すら上がらない。さらに神社は小高い山の上だ。

 疲れすら感じない体力バカな自分に笑えてきた。


 僕は「おじゃまします」挨拶をしてから、境内を見回した。

 愛しのサバトラ猫のトラちゃんを見つけるためだ。


「……あ、トラちゃーんっ!」


 駆けつけ、優しく抱き上げると、もたもたと足をばたつかせるので、僕は頬ずりしながら境内にあるベンチに戻した。

 僕は隣に腰をおろし、頭を撫でながら話しかける。


「ねぇ、実は人間になれたりしない? 今日さ、すごい怖いことあって、明日、学校行くの怖いんだぁ」


 慰めてもらおうとするが、じとりと睨まれ、毛繕いが始まった。

 いつもの可愛さに写真を撮ろうとスマホを出したとき、画面に通知が入る。父からだ。


   出張

   明後日には戻る


 このメッセージはコピぺしてるんだと思う。

 明後日がくれば、またこのメッセージが貼られるんだ。


「また仕事だって」


 トラちゃんに話しかけながら、僕は律くんの目のスクショを拡大した。

 妙な寒気がまとわりつく。


「写真でもイヤだなぁ」


 つぶやいた僕に反応してか、トラちゃんは僕の太ももを踏み締め画面を見に来た。

 じっと見つめて、振り返る。

 不安げなトラちゃんをなでながら、僕はゆっくり伝えた。


「トラちゃんが困ってるときは、いつでも助けるから。約束だよ」


 僕の小指に前脚がかかる。顔を覗き込み、目を細めたトラちゃんは、またベンチに丸まりだした。

 夏はまだ先なのか、少し肌寒い。

 トラちゃんの温もりが気持ちよくて、僕は日が暮れるまでそこにいた。




 ──翌朝。

 今日は火曜日。来週の金曜が投票日だ。


「校門の演説、今日から?」

「律くんの始まってるじゃん」


 複数の女子が小走りで過ぎていく。

 そのまま横を向くと……、目が合った。


「なに」


 虎丸 燈(とらまる あかり)だ。

 才色兼備な上、男女共に人気を誇る彼女は、黒髪に白いメッシュのボブヘアーがトレードマーク。吊り目で、猫っぽいところは可愛いとは思う。

 しかし、なぜか僕にだけ、風当たりが暴風だ。


「挨拶ぐらいできないわけ?」

「お、……おはよう?」

「それじゃあ、誰に挨拶してるかわっかんない」

「燈さん、おはよう?」


 いきなりそっぽを向いたかと思うと、僕の二の腕を小突いた。


「……なんで、もうっ」


 僕は二の腕をさすりながら、走り去った彼女の背中を見送った。

 すぐに彼女の周りに集まった友人たちから、頬や耳が赤いと指摘されている。


「風邪ひいてるなら、話しかけないでほしいなぁ」


 僕はつぶやくが、周りの視線が微妙に痛い。

 僕はそのまま早歩きで校門の演説を過ぎた。

 律くんの視線が僕に向いている気がして、急いで靴を履き替える。



 昼休みになり、伝承を調べようと図書室へ行くと、カウンターにまたいる。


「なにっ?」


 燈さんだ。

 カウンターには彼女しかいない。

 僕は燈さんの前に立つが、彼女は小説に視線を落としたままだ。


「あの、燈さん、郷土資料、調べたくって」

「はぁ?」


 なぜ、調べたいと言っただけなのに、威嚇されるのか。

 僕は心に凪をやどそうと、少しだけ目を瞑る。


「で、どんなの」


 僕はそっとメモを差しだした。

 蛇頭人間に関する伝承内容、絵巻関係と書き込んである。

 燈さんは少し考え立ち上がると、カウンターの奥の個室に引っ込み、ほどなくして戻ってきた。


「はい」


 押し付けられた本のタイトルを見ると、葦原絵巻集とある。


「あ、ありがと、燈さん」

「別にっ」


 手続きとかは? と思ったけれど、あれだけ睨まれたら言い返すのは無理だ。

 僕は本を抱え、黙って教室に戻るしかなかった。

 席に着き、出版社を見る。地元の出版社名だ。

 地域のために作成されたものだが、見つかった際の解説ばかりが載せられ、絵巻についての内容が薄い。

 ぱらぱらとページを進ませたとき、メモ用紙が床に落ちた。

 拾い上げて読む。

 きれいな字で書き込まれていたのは、たぶん、果たし状だ。



  今日の放課後、C棟の渡り廊下に来て

                  燈


 名前まで書かないでよ!

 僕は慌てて制服の胸ポケットに詰め込んだ。

 これが知られたら、他の男子、いや女子もそうだが、殺される。……学校生活的に!


 僕は冷や汗をかきながら、絶対に落ちないように、もう一度押し込んだとき、肩をつつかれる。

 和磨くんだ。

 びくびくしながら振り返る僕に、にたにた笑う彼がいる。


「逸希さ、次のやってるよな?」


 その質問に安堵した僕は、にっこり答えた。


「宿題、見せないよ」




 放課後になり、僕は彼女から指定されたC棟の渡り廊下に来ていた。

 このC棟の1階多目的室が、律くん陣営の選挙準備室でもある。

 渡り廊下から選挙準備室が見えるが、そこに約束をしている燈さんが見える。

 それならと僕は準備室まで行くことに決めた。

 これなら密会に見えないし、二人きりでもない。名案すぎる!

 多目的室に近づくと、ドアの奥からいつもの怒鳴り声が聞こえてきた。


「離してよ!」


 ドアの隙間から見えた光景に僕は絶句した。

 女子につかまれている燈さんがいるのだ。


「あんたの兄の腹いせ?」

「燈くんを私の傀儡にしたいだけだ」

「契約が自分にないからでしょ、どうせ」


 律くんの目つきがかわる。

 だがすぐに冷ややかな笑い声を立てたが、殺気に近い。

 もがく燈さんの目と合った。

 怒りで誤魔化した怯えた顔と、トラちゃんの顔が一瞬かぶる。


 前のめりになる体を、

『目立つな』

 父の目と、声が、足を石化させてくる。


 なのに──


「助けろっ、逸希!」


 僕は彼女の声をつかむため、廊下を蹴っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第25回書き出し祭り 第2会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は5月16日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ