2-18 Eランクって言われたのに明らかに便利な俺の祝福
とある辺境の村に住む少年エトラ。彼は引退した狩人の狩猟小屋を秘密基地にして、森を自分の庭になるほど遊び尽くしていた。そして、成人の日に天上の神々からエトラに授けられたのは名称不明の祝福。司祭曰く「Eランク!」……とのこと。
幸い戦闘向きの祝福だったため、エトラは森での狩りを生業に。森の動物、そして動物が変態した魔物の素材を卸している内に辺境は徐々に発展していき、村は町になって、商人が不思議と集まるようになってきた。なんでだろうなぁと笑いつつ。しかしそんなある日、彼の強さを目にした商人が言った。今倒した魔物はSランクだと。通常同ランクの魔物四人で倒すべきなのに、Eランクらしい彼一人で容易く倒しているという噂は当然国中に知れ渡り──
──彼"ら"の勘違いは世界を救う契機になる……の、かも!
「エトラ、Eランク!」
知ってた。今日は成人の祝いに天上の神々から祝福を頂く日であるが、極端な運の悪さはここまでも影響するか。不運の神に愛されていると冗談で言われることもあったがこうなってくると事実なのかもしれないな。
心の中で「開示」と呟く。
・エトラ
***の祝福(Ex)
-万能補正(Ex)
-専用装備(Ex)
-収納空間(Ex)
するとこうして、脳内に祝福の詳細が本人にだけ教えられるんだ。ちなみに司祭が俺達のランクを告げられているのは祝福解析っていう能力らしい。対象の持つ祝福のランクを読めるんだとか。
それはそうとして、俺の祝福……Eランクにしては強そうな能力が並んでいるよな。名前読めないけど。一つ一つの効果が本当に微々たるものなのかね。式典の帰りに試してみよう。
「よーぉEランクぅ?」
「おいおいやめてやれよバーク、Bランクの俺達が小突いただけでEランク飛んじまうんだぜ?」
ギャーハッハッハァ……と喧しくまた絡んできたのはバーカとアフォウ。昔から何かと俺に言ってくる鬱陶しい奴だ。
「バーカ!アフォウ!またエトラを虐めてるの!?」
「ケッ、ヤンデかよ」
そしていつもコイツらを止めるのがヤンデ。俺たちは同年代、だから祝福を頂く日も一緒、揃っているのも当然ってわけだ。
「お前に用はねえんだよシッシッ」
「何よエトラは私のものなんだから私が守るのは当然でしょそもそも二人は何の理由があってエトラの時間を奪う理由があるのだからいつも大人に怒られてるのよ祝福の儀も終わったんだからもう──」
しかしヤンデの話は長い。気配を消してコッソリ離脱。俺だけの秘密基地に退避だ。
柵を抜けて村の外、森の中に入って2つ目の大岩を右に行くと今は使われてない狩猟小屋がある。去年引退したハントの爺さんが譲ってくれたんだ。
「まずは専用装備だよな……」
神様から頂いたものというだけで専用装備の価値は高い。椅子に座って机の上に召喚してみよう。爺さんから教わった技術を使える弓矢かナイフだといいな。
「──お、う?」
なんて考えていたら本当に出てきた。よくしなる木の弓&中身入りの矢筒と鋭いナイフだ。助かるが嬉しい以上に困惑するが便利そうだしいいか。
次は収納空間だ。この一年で溜め込んでいた保存食や干し肉を詰め込んでみる。籠一つ分の木のみ、干し果物、壺二つ分の肉を入れて、まだ入るのか。椅子と机も、木箱も入って……いやどこまで入るんだ小屋のもの全部入ったぞ。
「……戻すか」
入れるより出すほうが苦労したとだけは残しておく。
しかしこうなると気になるのは万能補正だ。俺の容量は小屋一つ分ということにしておきつつ外へ。木の上から小動物の痕跡を探す。
リスの木登りの音、シカが角を擦った跡、ウサギの鳴き声、イノシシが駆け回る土煙……森の様子が普段よりもよく感じられる。俺の祝福は爺さんと同じ狩人なのか?
「だと嬉しいな」
一旦目をつけた獲物に集中だ。空を飛んでいる鳥、距離を測り、予測をつけて、偏差で矢を放つ。すると吸い込まれるように鏃が眉間に刺さり絶命。
言葉にすると難しいが、今の流れもやり易くなっている。距離が見るだけで何となく理解でき、行動予測が重なり見えて、放つ矢の速度が上がっている。死体を拾ったが鏃の刺さり具合も明らかに深い。
「Eランクって言われたのに明らかに便利だよな俺の祝福」
なんてことがあってから5年目。俺は相変わらず狩人として村──今や村から町という規模になりつつあるが──に肉と皮を届け続けていた。本格的に狩猟小屋を寝床にしているから最近の情勢は知らないが、森の様子なら人一倍は理解できる。魔力が濃くなっている影響か動物達が魔物に変態しつつあるんだ。
お陰で肉が美味しくなってはいるが危険度が上がっているのも事実だ。先週なんて大きい羽つきのトカゲを殺したし、今日も8つ首8つ尾の蛇を狩ったところだ。ドンドン獲物が大きくなって、ナイフ一本じゃ解体するのも一苦労だ。
「でも一回も収納空間が一杯になった事ないんだよな」
表記はEランクから変わっていないのに。Eランクって1番弱いんじゃなかったかと思って司祭に聞いたがお主はEランクじゃぞ、と繰り返しに言われたし。
「あー、やっと終わった」
こいつをまた肉屋と皮細工屋に運んで、残った分は適当に押し付けて……いい加減金が使い切れないが供給を欠かすのも悪いからただただ溜まっていく一方だ。
「持ってきたぞー」
「おうエトラ待ってたぜ!今日は何の肉だ?」
「変な蛇だな。8つ首で気持ち悪かった」
「ハッハッハ、それをさも簡単に狩ってくるお前もお前だけどな!」
「もう慣れたっての。弓で一本ずつ仕留めれば終わったよ」
「そうかい、今日も金貨一枚でいいか?」
「残りはいつもの割分でいいぜ。しっかし変だよな、こんな場所までわざわざ買いに来る商人共も」
「肉屋の俺からしても美味しいのは認めるが……ここだけの噂じゃ貴族様の御用商人が紛れてるらしいぜ」
「冗談も程々にしろってな」
まぁ、実際人が増えてきたのは事実だ。収容する為に町が大きくなったし。弾かれた金貨をキャッチしつつ肉屋を後に。皮屋にも蛇皮を押し付けて次は……待てこの気配は!
「エトラく〜んっ!」
「ゲェッ、ヤンデ!」
気づいた頃には後ろから腕を組まれていた。ヤンデは錬金術師の祝福を貰っているから俺の狩った素材をすぐに欲しがるんだ。こんなボディタッチだって素材目当ての誘惑だろう。
「えへぇ〜っ♪今日は何狩ってきたの〜っ?」
「蛇だよ蛇!変な蛇!」
「わたしに売って♪」
「金貨10!」
「はいっ♪足りないならまだ払うしわたしの手料理もあるよ食べてよ食べていってね沢山あるからほら家に来てエトラくんおいでついてきて♪」
「ああああああああああああああああ」
力が強くて引きずられるぅぅぅ!!!
そして俺はそのまま家に持ち帰られ食卓に並べられ。満面の笑みを浮かべたままのヤンデの横で飯を食わされることになる。
「エトラ君みたいな人がこの子をもらってくれたら助かるんだけどねえ」
「あはは……」
この会話も何度目だろうか。このホワイトシチューは美味しいはずなのに味が感じられない。温度は熱い。
「もうお母さんったらそんなやめてよ恥ずかしいよおエトラ君とわたしが結婚するなんてうううう///」
「ガハハハ、しかしどうだいエトラ、本当にウチの娘と結婚してみねえか?勿論オレ達は大歓迎だぜ、大工の俺がタダで家を建ててやるしよ」
「えっと……考えておきます……」
髭面マッチョなヤンデの父さんの笑い声が怖くて頷きそうになるがこれは罠だ、結婚したらしたしたでヤンデにこき使われるに決まっている。ここは誤魔化し笑い一択だ。
「昔から一人でしょう、みんな心配してるのよ」
「もう、慣れてますから……一人の暮らしも悪くはないので……」
「でもっ、わたしエトラ君ともっとずっといたいの……ダメ、かな?」
ヤンデは可愛い、可愛いんだが……今更……
『襲撃だぁぁぁぁ!!』
村中に響く鐘の音共に食事の席を立って外へ向かう。幸い俺は常在戦場、防具も軽装だから普段から着ていられる。
「俺行ってくる!」
「ああもうエトラ君待っ──」
屋根へ跳んで声のする方、気配のある方へ。まだ門は破られていないが破られるのも時間の問題だろう。衛兵達が押し留められている内に上へ。
「今日はデカイウルフか!」
息を吸い込んでいる、口中から炎の姿がチラリと見えたからファイアブレスの予備動作か。この前のトカゲでも同じのを見た。
「ならコイツだッ!」
手の中に専用装備のハンマー、上からその顎を叩き潰せば熱は逆流して体を内側から焼き尽くす。そして肉が芳ばしくなる!
「キャゥゥンッ!?」
「ハッ!どうだよこのヘヴィインパクトは!」
この5年のうちに気づいたんだ、俺の専用装備は思い浮かべたものを出せるって。Eランクだからか、伝説の聖剣とか聖者の杖みたいな凄え武器は出せないけどな!司祭にはなにそれ知らん怖と言われた!
「さてさて足元がお留守だぜ!」
着地で回転、踏ん張りながらメイスを横薙ぎ!機動力から潰していくのが狩りの決まり手だ!よしっ、コレは打撃が骨まで達した音!
「情けなく鳴いてろよ」
次は腹だ、崩れた身体の喉元に使い慣れたナイフを逆手で突き立て走り抜けてやれば毛皮は簡単に捲れる。解体で慣れてるからな、踊り捌きってやつだ。
「コレで〆だ!」
剥き出しの身体へ鋭利な長針をブッ刺して心臓を穿つ!抵抗なんてするなよ?
「……ふぅ」
動きも止まった瞳も閉じた……ま、先手必勝ってな。ああ二人もやってきたか。
「助かったぜエトラ」「Eランクなのによぉ」
「バーカもアフォウも戦えよ、Bランクなんだろ?」
「避難誘導が仕事なんだよ、わかんだろ?」
「Eランクの仕事をBランクが奪ったら可哀想だからなぁ、俺たちの慈悲だよ慈悲い」
「お前らなぁ……」
おかげで住民の被害はないから文句はないが、こいつら……っと、なんだ誰か来たな。良い仕立ての服を着ているが。
「あの……すみません、よろしいですか?」
「商人さんよ、こいつが欲しいのか?」
「Eランクがサクッと狩れる程度の奴だ、高くは売れねえだろ」
「火を吐く魔物なんか珍しくもないしよぉ」
「いえいえそうではなく……この""フェンリル""をお一人で狩られたのですか?」
「そんな種族名なのか?」
魔物の種族名とか知らないんだよな。居るもの狩ってるだけで知る機会ないし。
「そして、フェンリルは──Sランクの魔物なのです!」
「「「えっ」」」





