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2-17 空の絆

 数年前突如として現れた機械型異星人は、主要各国から近い島嶼部―日本であれば硫黄島など―を占領し、各国の領土や市民を直接脅かしている。地球規模の危機に対抗すべく、国際的な連携のもと発足したのが「UNAAF(United Nations Anti Alien Force)」だ。UNAAFは、米軍を中核として再編された多国籍部隊を主要都市周辺に駐留・配備し、異星人の撃退および市民防衛を任務とする。

このUNAAFの特徴はその運用される兵器だ。『リンクス』───それは機械型異星人由来の特殊技術を使う事で生まれた新しい兵器だ。

 未成年ながら、適性があると判定され保護を兼ねて、UNAAF第七部隊の基地へと保護された鳴海晴翔は、現在訓練生という扱いを受けている。

これは晴翔が、仲間と共に空を翔け、絆を紡いでいく物語である。

 訓練開始二時間前の訓練棟は静まり返り、訓練機たちが静かに佇んでいる。そんな訓練棟へやってきた黒髪の少年―鳴海晴翔は、駐機している訓練機のコックピットを見上げて小さく息を吐いた。

 数年前突如として現れた機械型異星人は、主要各国から近い島嶼部―日本であれば硫黄島など―を占領し、各国の領土や市民を直接脅かしている。地球規模の危機に対抗すべく、国際的な連携のもと発足したのが「UNAAF(United Nations Anti Alien Force)」だ。UNAAFは、米軍を中核として再編された多国籍部隊を主要都市周辺に駐留・配備し、異星人の撃退および市民防衛を任務とする。

 海を渡る技術を異星人たちが持ち合わせていないのか、もっぱら弾道ミサイルによる攻撃が主であり、通常戦力では対応に限度があるために、UNAAFは組織された。

 このUNAAFの特徴はその運用される兵器だ。『リンクス』───それは機械型異星人由来の特殊技術を使う事で生まれた新しい兵器だ。

 未成年ながら、適性があると判定され保護を兼ねて、UNAAF第七部隊の基地へと保護された晴翔は、現在訓練生という扱いを受けている。今日もこれから訓練なのだが、まだだいぶ時間は早い。

 白いパイロットスーツに袖を通し、壁に寄りかかるようにして腰を下ろす。こうして静かな中、ボンヤリとするのが、晴翔は好きだ。

 考える事はいくらでもある。適合者となり一変した生活、異星人との闘い、訓練の事や、チームの事。なにより、未だにうまく起動できていない「リンク・コア」システムの事。

 「リンク・コア」システムは適合者の精神力そのものをエネルギー源とし、パイロットの意識をダイレクトに機体へ同調・シンクロさせる特性を持つ人型ロボット兵器である。

しかし「リンク・コア」システムがUNAAFで採用されている理由はその精神力をエネルギーとして発揮される『Gを無視できる』という特徴だ。

 これにより既存兵器では人間の限界であるGを無視することで、各部に装備された特殊な高出力スラスターによる超瞬間機動を実現し、その機動性は発射直後の戦車砲弾ですら回避するほどである。

 また、この『Gを無視できる』特性を利用し、戦車砲の発射時の反動を無効化することにより手持ちで運用でき、各種武装をミッションに合わせて選択できる、人型であるメリットを最大限に生かす事が出来る。

 戦闘機形態でミッションエリアに高速で展開し、時間制限付きではあるが人型に変形することで高速機動と高火力を発揮する。

 「リンク・コア」システムは人型形態でしか使えないが、それを補って余りある特別な兵科、それが「リンクス」だ。

 晴翔はそんな「リンクス」の、訓練生とはいえパイロットである。

 教官や先輩パイロットからは、「まだ力を出し切れていない」を言われているが、それをどうしたらいいのかは、自分で考えなければいけない。未だに、その答えは出ていない。

 訓練開始時刻が近くなり、人が集まってくる。教官や今日ともに訓練する別チーム、自分のチーム、ノヴァの仲間。晴翔の姿を見つけた専属整備士、汐見陸が笑顔で駆け寄り、そのあとから通信士の比嘉晶も黒の短髪を掻きつつやってくる。

「相変わらず早いね晴翔。今日もがんばろー!」

「おはようございます、陸さん。比嘉さんも、よろしくお願いします」

「ああ」

 いつも通りのやり取りに、少しだけ晴翔の心が軽くなる。しかし、渡された訓練スケジュール表で今日の訓練相手を確認すると、その軽さはすぐに消えてしまった。

 相手はパラディンチーム。何かと晴翔に対して嫌味や皮肉、冷淡な言葉を飛ばしてくる相手だ。

 同じ空気を吸っているだけで、身体のどこかがこわばる。パラディンチームと名のついた分厚い訓練スケジュール表の端が、冷たく視界を遮った。意識して視線を逸らしても、記憶の奥から彼らの声が脳裏によみがえる。

 必要以上に強調された一言、さりげなく棘のある問いかけ。あの時の自分は、どうして何も返せなかったのだろうか——そんな自嘲がふと胸をよぎる。

「大丈夫、晴翔は晴翔のペースがあるんだから」

 軽い調子で陸に背中を叩かれ、ふと比嘉を見ると、ふいと視線を逸らされる。同じチームとなってから、比嘉と目線があった事は一度としてなかった。

 比嘉の横顔を一瞬見つめてから、晴翔はそっと息を呑んだ。いつも通りの、けれどどこか距離を置いたやり取り——この距離感が、今のチームの形なのだと痛感する。たった一度も、正面から目が合ったことがない。その事実だけが、晴翔の心にそっと爪痕を残した。

 機体のコクピットハッチが静かに開く。

タラップを上がり乗り込めば背後でクリック音がして、冷たいケーブルが首筋に触れる。陸は手際よく端子を固定しつつ、無言で親指を立ててみせた。スーツの脇をなぞる金属音。足元から響くわずかな振動。どれも訓練の日常の一部だというのに、今日は微妙に息苦しい。

 シートに体を預けると、薄暗いコクピットの中でパネルが次々と起動していく。淡い光が晴翔の頬を照らし、ひんやりとした空気に包まれる。

 リンクコアシステムが起動していくにつれ、外の喧騒がひとつひとつシャットアウトされていく。鼓動だけがやけに大きく響いた。

『今日もボロカスにやられに来たか、訓練生』

 つながった通信は隣の訓練機に乗る、パラディンチームのパイロット、マーカス・ヘイルからだった。

 見下したような声で言われるも、今の晴翔に言い返すだけの根拠は何もない。ただ、静かに唇を噛みしめる。

『晴翔、いちいち気にせず、目の前の事に集中しろ』

「……はい」

 比嘉の声には頷いたものの、やはり言われたことは心に引っかかり続ける。

 そうしてやはり、訓練の結果はマーカスに惨敗し、「リンク・コア」システムもうまく動かせずに終わった。今日はどんな嫌味を言われるのだろうかと、身構えていた晴翔だったが、訓練機から降りるとほぼ同時にアラートが鳴り響いた。

 敵のミサイル接近を告げるそれを聞いてパラディンはすぐにかけていく。訓練生である晴翔に出番はない。

仕方なく格納庫の端に立ち尽くし、脱ぎかけたパイロットヘルメットのストラップだけ弄る。遠ざかるパラディンチームの背中は、まるで最初から別世界の住人のようだ。淡々と任務に向かう役割――彼らには、それが似合うのだろう。

 アラート音が切れ目なく基地中に反響する。鮮やかに明滅する警告灯の下、周囲が急に慌ただしくなった。指示を飛ばす隊長の声と、管制室からの冷静な通信。世界が、訓練の静寂から現実の戦場へ、いきなり色調を変えてゆく。

 晴翔は肩越しに窓の外を見た。空が硝子のように青く、朝焼けの断片と緊張感が混じり合って見える。この場所で自分が果たせる役割は、今はない。去っていく仲間たちの背中を、ただ見つめるしかできなかった。

「チームアルファ、パラディン、ヴァイキング、緊急出撃!」

 隊長の一喝が格納庫に響く。名前を呼ばれたチームたちがすぐに出撃準備を整え、轟音と隊員たちからの声援と共に飛び出していく。その流れに加われず、自分だけが取り残されていく。ヘルメットのストラップを指にぎゅっと巻きつける。きつく巻いても、焦りがどこにも隠れてくれない。

 足元に伝わる震動や、赤い警告灯の明滅――臨戦態勢となった基地の雰囲気に、晴翔は唇を固く噛みしめ、誰にも見られないように拳を握りこんだ。たった一歩を、ただ踏み出したくても踏み出せない。踏み出すだけの実力も能力も、晴翔にはなかった。




 ミーティングルームに行けば、比嘉と陸が待っていた。晴翔の姿を見つけた陸が、「お疲れー」と緩く笑いながら、マグカップを差し出してくる。中に満たされたココアのほろ苦さが、今の晴翔の気持ちを示しているようで、そんな気持ちごと飲み込むように一気に煽った。

 備え付けられた普段ブリーフィングが映し出されているモニタでは戦闘の様子が映し出されている。ちょうど迎撃地点にたどり着いたようで、三機が戦闘機形態から人型形態へと換わったところだった。次々とミサイルを打ち落としていく様子に、晴翔の視線は自然と下を向く。

 画面の中で、マーカスの機体が滑らかに敵弾を回避し、反撃の砲火を浴びせる。その動きはどこまでも鮮やかで、迷いなどまるでなかった。

「……僕には、無理だ」

「いやいや!諦めたらそこで」

「だろうな」

「比嘉さーん!追い打ちかけないであげて!!大丈夫だよ晴翔!急がない急がない!」

 思わず零れた言葉を、いつものように明るく切り替えようとした陸の努力は、遮るように短く同意した比嘉の言葉によって、無に帰した。ずん、と肩を落とす晴翔の背中を陸が叩く。

 それでも椅子の上で膝を抱えてしまった彼に、陸は非難がましい目を比嘉に向けた。その視線を受けて、一瞬、何か言いたげに比嘉の口元が動いたが、何の音も出てはこなかった。

 晴翔は膝を抱えた姿勢のまま、膝小僧に額を当てる。掌に伝うココアのぬくもりが、少しずつ冷たくなっていく。無言の比嘉と陸の間に挟まれて、部屋の空気はじっとりと重たく澱んだ。


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