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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第四章 第七騎士団編
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三位一体

   ◇


 金色の光を瞳に宿し、巨人の前に立つ、メルナ。


「メルナ、待て! 迂闊に魔法を使えば、お前は——」


 リーザスが、制止しようとする。

 竜化。二度と人に戻れなくなる。それだけは、避けなければならない。


「ママ。……覚えていますか」


 メルナが、静かに振り返った。


「旅の夜に、言ってくれました。私の魔力が溢れたら——全部、吸い取ってくれると」


「!」


 焚き火を囲んだ、あの夜。

 怖い、と言った少女に、リーザスは確かに約束した。お前は化け物になんかならない、と。俺が、全部引き受けると。


 リーザスは、覚悟を決めた。


 メルナの背後に立ち、そっと、その肩に手を置く。


「……ああ、言ったぜ」


 その声に、迷いはなかった。


「だから——思いっきりやれ」


 メルナが、両手を巨人へ向ける。

 魔力が、渦を巻き始めた。


 ゴウッ!!


 規格外の魔力。

 メルナの髪が逆巻き、頬にうっすらと鱗が浮かび始める。


 上空のシエルが、身を仰け反らせた。


「な、何こあの魔力!? あの子、魔族なの!?」


 フェルナンが、目を見開く。


「これが、我が国初の魔法騎士……!」


 その時——リーザスの胸のホロウが、ドクンと脈打った。


 溢れかけた金色の余剰魔力が、リーザスの掌へと吸い込まれていく。


 メルナの頬の鱗が、すうっと引いていった。


 ——完璧な形の魔法陣が、組み上がる。


(怖くない。ママが、いてくれるから)


 メルナの目に、恐怖はなかった。

 暴走する力に怯えていた少女は、もういない。支えてくれる人がいる。ただそれだけで、彼女は自分の力を、正面から使いこなせるようになっていた。


 巨人が咆哮を上げ、突進してくる。


「焼き尽くせ——」



   ◇


「——『竜炎』ッ!!」


 ゴオオオオッ!!


 金色の炎が、奔流となって、巨人を呑み込んだ。


 巨人の半身が、燃え上がる。

 死体の縫合部が、金色の炎に焼かれて、崩れていく。


 再生しようと蠢く死体の手が——炎に触れた端から、灰になった。

 これまで、どんな攻撃でも再生してきた、不死の巨体。それが今、なす術もなく灰へと変わっていく。


「竜の炎は、消えない」


 メルナが、静かに告げる。

 創世竜の炎。この世界に竜を連れてきた、始祖の力。それは、ゾラの汚れた術式など、根こそぎ焼き払う浄化の炎だった。


「!」


 その時。


「……お、おい、おっさん!」


 カモが、叫んだ。


 リーザスの胸から腕へ、金色の光が流れている。


「力が……流れ込んでくる! 行けるぞ!」


(そうか——メルナの魔力はホロウを通って、カモに流れる。俺の身体が“回路”になってるんだ!)


 三人で、一つ。

 メルナが力を生み、リーザスが受け止め、カモが刃となる。それは、誰か一人が欠けても成立しない、完璧な連環だった。


 閃光。

 リーザスの手に、白銀の大剣が再び顕現する。


 ——その刀身に、金色の炎が纏わりついていた。

 白銀と、黄金。二つの力が重なり合った、かつてない姿。それは、三人が心を一つにした証だった。


「へっ……燃料満タンどころか、大盛りだぜ!」


 カモが、歓喜する。


「マルコ!」


 マルコが駆けつけ、リーザスを乗せて疾走する。


 巨人が、残った腕を振り下ろす。

 マルコはそれを読み切り、懐へ潜り込んだ。


 リーザスが、鞍を蹴って跳躍。

 金色の炎を纏う白銀の大剣を、大上段に構える。


「竜爪剣!!」



   ◇


 ズウウウウン……。


 巨人がバラバラに斬られ、金色の炎に包まれながら、崩れ落ちた。


 静寂。

 荒野に、金色の火の粉が舞う。


 リーザスが着地し、息を吐いた。

 大剣が光を解き、カモの姿に戻る。


「……ふう。ちったあ骨のある相手だったぜ」


 メルナが、駆け寄ってくる。


「ママ!」


「おう。……よくやったな、メルナ」


 救出された少女が、二人を見上げていた。


「……つよい……」


 そこへ、残敵を掃討したカーラカレットたちが駆けつける。


「がはははは! 飛べねえくせに、竜爪剣たあ、やるじゃねえか!」


 ラズが、真っ二つになった巨人を見て、絶句した。

 あれは、隊全員でかかっても苦戦する相手のはずだった。それを、たった二人で。しかも、飛べない竜と、噂の落ちこぼれが。


「合成死体兵を……たった二人で……」


 エミリアが、静かに言う。


「……訂正します。私たちより、彼らの実力は上」


 ソランジュが、少女をふわりと抱き上げた。


「さあ、もう大丈夫よ」


 ——上空。


「……ねえ、今の見た? 見たよね? 俺、夢見てる?」


 シエルが、呆然と呟く。


 フェルナンは、しばらく黙って、地上を見下ろしていた。


「……戦果は、事実だ」


 その言葉には、確かな重みがあった。

 実績はゼロだと切り捨てた男が、今、その事実を認めた。


 フェルナンは剣の柄から手を離し、竜首を返す。


 アイリスが、最後にもう一度だけ、地上を見た。


「…………魔法騎士、八十二。……おっさん、七十七」


「二人分!?」


 シエルが、素っ頓狂な声を上げる。


「てか片方、俺より上じゃん!!」


 夕日の荒野。

 焼け跡に、並んで立つリーザスとメルナ。

 飛べない竜と、万年雑兵と、暴走を恐れた少女。侮られ、嘲られた三人が、今日、確かに一つの戦果を挙げた。

 その姿は、もう「お荷物」のそれではなかった。

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