一太刀、通らず
◇
迫る死体兵、七体。
先頭の一体が、錆びた剣を振り上げて、リーザスに躍りかかる。
リーザスの手は、まだ震えていた。
(派手に決めようとするな……まずは)
深く、息を吸う。
基本に、立ち返れ。何千回、何万回と繰り返してきた、あの型に。
派手な技を見せて、認められたい。そんな欲が、頭をよぎる。だが、それこそが、いつも失敗を招いてきた原因だ。今は、目の前の一体を、確実に斬る。それだけでいい。
シュッ。
静かな、一閃。
「斬岩剣!」
先頭の死体兵の胴が、鎧ごと、音もなく両断された。
「へえ。綺麗な斬岩剣じゃん」
ラズが、感心したように呟く。
「普通ですね」
エミリアは、素っ気ない。
残る死体兵が、一斉に襲いかかってくる。
「飛竜剣!」
リーザスの斬撃が、死体兵をまとめて一刀両断した。
「……俺の飛竜剣より、でかいじゃん」
ラズが、絶句する。
「あの剣が、普通じゃないみたいです」
エミリアが、リーザスの手にした白銀の大剣を見つめた。
その隙に、一体がメルナと少女の方へ走る。
「!」
メルナが、静かに手を掲げた。
「爆炎」
ドンッ!
死体兵が、爆散する。
詠唱は、短い。だが威力は絶大だった。魔法騎士。我が国初のその称号は、伊達ではなかった。
「「!!」」
ラズとエミリアが、目を見開いた。
「なかなか、期待感ある新入りじゃねえか」
上空のカーラカレットが、ニヤリと笑う。
その時——。
ズズン……ズズン……。
大地が、低く揺れ始めた。
「「!!」」
◇
村の外れの森。
木々をなぎ倒して、巨大な影が現れる。
全長五メートルを超える、一つ目の巨人。
継ぎ接ぎだらけの肉体。太い縫合痕。手には、丸太のような巨大な剣。
複数の死体を無理やり縫い合わせて作られた、悍ましい造形。人としての尊厳など、そこには微塵もなかった。
——サイクロプス。合成死体兵だ。
「!!」
「やべえ、合成死体兵だ。生半可な攻撃は通用しねえぞ」
ラズの顔が、引きつる。
主戦場のカーラカレットが叫んだ。
「クソッ、こっちはまだ残敵が。あいつらでなんとかできるのか」
エミリアが、闘気ナイフを投げる。
サイクロプスの一つ目に向かって、一直線に飛ぶ。
だが——サイクロプスは、巨大な剣を振り上げた。
ナイフごと吹き飛ばす、巨大な飛竜剣。
「飛竜剣!?」
ラズが、絶叫する。
「なんで死体兵が?」
エミリアも、動揺した。
死体兵が、闘気術を使う。そんな話は、聞いたことがない。
闘気とは、生者の気迫そのもの。死者に、扱えるはずのないものだ。ゾラは、また一つ、常識を踏み越えてきた。
「カモ!」
リーザスが叫ぶ。
カモが即座に変形し——巨大な盾となって、二人を庇った。
ガキィィンッ!!
「大丈夫か、ラズ、エミリア」
「……」
「ありがと」
エミリアが、小さく礼を言った。
◇
——その頃。
遥か上空、雲の切れ間。
三騎の飛竜が、静かに旋回していた。
「ねーえ、なんで俺たちが新人の監視なんて、やらされてるわけ?」
シエルが、退屈そうに愚痴る。
「団長の命令だ」
フェルナンが、静かに答えた。
「『万が一の時だけ助けろ。それ以外は決して手を出すな』……とな」
「…………六十五」
アイリスが、銀の飛竜の上から、じっと地上を見下ろしている。
「しかし、あれ合成死体兵じゃん! なんで闘気術なんて使えるの!?」
「……ゾラも日々進化してるってことだろう」
フェルナンの目が、細くなった。
◇
白銀の大剣を構えながら、リーザスが駆ける。
「いくぞカモ! マルコ!」
「おうよ!」
「ギュヒーン!」
マルコが、力強く応えた。
巨人の丸太のような剣が、振り下ろされる。
剣が、地面を裂く。
だが——マルコが、それを寸前でかわしていた。
歴戦の騎獣。その勘は、いまだ衰えていない。
「いいぞマルコ!」
リーザスが、剣を振りかぶる。
「うおおおおッ!!」
渾身の一太刀が、巨人の左腕を根元から両断した。
ズウウウン!!
巨大な腕が、地に落ちる。
「もらった……!」
——だが。
切断面が、ボコボコと蠢き始めた。
肉が盛り上がり、骨が伸び、みるみるうちに——腕が、再生していく。
「なっ……!?」
リーザスの背筋が、凍った。
斬っても、斬っても、再生する。あのルーカと同じだ。いや、それ以上に厄介かもしれない。この巨体を、どうやって仕留めればいい。
「おいおい、嘘だろ……!」
カモの声が、焦る。
「悪い、おっさん、エネルギーがもう……」
白銀の大剣の光が、薄れ始めた。
最悪だ。相棒の燃料が、切れかけている。ホロウの力にも、限界がある。
巨人の咆哮。
空気がビリビリと震え、リーザスとマルコが、後方へ跳び退る。
上空。
シエルが、身を乗り出した。
「もうダメじゃん! フェルナンさん、助けないと!」
フェルナンの手が、剣の柄にかかる。
その時——。
メルナが、静かに前へ出た。
「!!」
リーザスが、息を呑む。
まさか。あれだけ暴走を恐れていた、あのメルナが。自分から、前に出るなんて。
「ママ。……次は、私の番です」
その声には、怯えがなかった。
その瞳に、金色の光が灯り始めていた。




