表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第四章 第七騎士団編
PR
98/109

一太刀、通らず




   ◇


 迫る死体兵、七体。

 先頭の一体が、錆びた剣を振り上げて、リーザスに躍りかかる。


 リーザスの手は、まだ震えていた。


(派手に決めようとするな……まずは)


 深く、息を吸う。

 基本に、立ち返れ。何千回、何万回と繰り返してきた、あの型に。

 派手な技を見せて、認められたい。そんな欲が、頭をよぎる。だが、それこそが、いつも失敗を招いてきた原因だ。今は、目の前の一体を、確実に斬る。それだけでいい。


 シュッ。


 静かな、一閃。


「斬岩剣!」


 先頭の死体兵の胴が、鎧ごと、音もなく両断された。


「へえ。綺麗な斬岩剣じゃん」


 ラズが、感心したように呟く。


「普通ですね」


 エミリアは、素っ気ない。


 残る死体兵が、一斉に襲いかかってくる。


「飛竜剣!」


 リーザスの斬撃が、死体兵をまとめて一刀両断した。


「……俺の飛竜剣より、でかいじゃん」


 ラズが、絶句する。


「あの剣が、普通じゃないみたいです」


 エミリアが、リーザスの手にした白銀の大剣を見つめた。


 その隙に、一体がメルナと少女の方へ走る。


「!」


 メルナが、静かに手を掲げた。


「爆炎」


 ドンッ!

 死体兵が、爆散する。

 詠唱は、短い。だが威力は絶大だった。魔法騎士。我が国初のその称号は、伊達ではなかった。


「「!!」」


 ラズとエミリアが、目を見開いた。


「なかなか、期待感ある新入りじゃねえか」


 上空のカーラカレットが、ニヤリと笑う。


 その時——。


 ズズン……ズズン……。


 大地が、低く揺れ始めた。


「「!!」」



   ◇


 村の外れの森。

 木々をなぎ倒して、巨大な影が現れる。


 全長五メートルを超える、一つ目の巨人。

 継ぎ接ぎだらけの肉体。太い縫合痕。手には、丸太のような巨大な剣。

 複数の死体を無理やり縫い合わせて作られた、悍ましい造形。人としての尊厳など、そこには微塵もなかった。


 ——サイクロプス。合成死体兵だ。


「!!」


「やべえ、合成死体兵だ。生半可な攻撃は通用しねえぞ」


 ラズの顔が、引きつる。


 主戦場のカーラカレットが叫んだ。


「クソッ、こっちはまだ残敵が。あいつらでなんとかできるのか」


 エミリアが、闘気ナイフを投げる。

 サイクロプスの一つ目に向かって、一直線に飛ぶ。


 だが——サイクロプスは、巨大な剣を振り上げた。


 ナイフごと吹き飛ばす、巨大な飛竜剣。


「飛竜剣!?」


 ラズが、絶叫する。


「なんで死体兵が?」


 エミリアも、動揺した。

 死体兵が、闘気術を使う。そんな話は、聞いたことがない。

 闘気とは、生者の気迫そのもの。死者に、扱えるはずのないものだ。ゾラは、また一つ、常識を踏み越えてきた。


「カモ!」


 リーザスが叫ぶ。

 カモが即座に変形し——巨大な盾となって、二人を庇った。


 ガキィィンッ!!


「大丈夫か、ラズ、エミリア」


「……」


「ありがと」


 エミリアが、小さく礼を言った。



   ◇


 ——その頃。

 遥か上空、雲の切れ間。


 三騎の飛竜が、静かに旋回していた。


「ねーえ、なんで俺たちが新人の監視なんて、やらされてるわけ?」


 シエルが、退屈そうに愚痴る。


「団長の命令だ」


 フェルナンが、静かに答えた。


「『万が一の時だけ助けろ。それ以外は決して手を出すな』……とな」


「…………六十五」


 アイリスが、銀の飛竜の上から、じっと地上を見下ろしている。


「しかし、あれ合成死体兵じゃん! なんで闘気術なんて使えるの!?」


「……ゾラも日々進化してるってことだろう」


 フェルナンの目が、細くなった。



   ◇


 白銀の大剣を構えながら、リーザスが駆ける。


「いくぞカモ! マルコ!」


「おうよ!」


「ギュヒーン!」


 マルコが、力強く応えた。


 巨人の丸太のような剣が、振り下ろされる。

 剣が、地面を裂く。


 だが——マルコが、それを寸前でかわしていた。

 歴戦の騎獣。その勘は、いまだ衰えていない。


「いいぞマルコ!」


 リーザスが、剣を振りかぶる。


「うおおおおッ!!」


 渾身の一太刀が、巨人の左腕を根元から両断した。


 ズウウウン!!

 巨大な腕が、地に落ちる。


「もらった……!」


 ——だが。


 切断面が、ボコボコと蠢き始めた。


 肉が盛り上がり、骨が伸び、みるみるうちに——腕が、再生していく。


「なっ……!?」


 リーザスの背筋が、凍った。

 斬っても、斬っても、再生する。あのルーカと同じだ。いや、それ以上に厄介かもしれない。この巨体を、どうやって仕留めればいい。


「おいおい、嘘だろ……!」


 カモの声が、焦る。


「悪い、おっさん、エネルギーがもう……」


 白銀の大剣の光が、薄れ始めた。

 最悪だ。相棒の燃料が、切れかけている。ホロウの力にも、限界がある。


 巨人の咆哮。

 空気がビリビリと震え、リーザスとマルコが、後方へ跳び退る。


 上空。

 シエルが、身を乗り出した。


「もうダメじゃん! フェルナンさん、助けないと!」


 フェルナンの手が、剣の柄にかかる。


 その時——。


 メルナが、静かに前へ出た。


「!!」


 リーザスが、息を呑む。

 まさか。あれだけ暴走を恐れていた、あのメルナが。自分から、前に出るなんて。


「ママ。……次は、私の番です」


 その声には、怯えがなかった。

 その瞳に、金色の光が灯り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ