空のエリートの実力
◇
土煙を上げて迫る、数十体の死体兵の群れ。
上空のカーラカレットが、叫んだ。
「配置につけ! ラズ、エミリアは正面から迎撃! ソランジュは上から支援!」
そして、村を見下ろす。
「リーザス! お前とメルナは、村の生存者を守れ! 救出を続けろ!」
「——了解!」
リーザスが、瓦礫を退ける。
その下から、すすだらけの少女が現れた。
「ひっく……おかあ、さん……」
「もう大丈夫。私たちが来ました」
メルナが、優しく声をかける。
その頭上を、黄金の飛竜が矢のように通過していった。
「まずは俺からだ! ——『雷迅』ッ!!」
黄金の飛竜ごと、カーラカレットの全身が、バチバチと雷を纏う。
ズガガガガガッ!!
雷を纏った一騎が、死体兵の群れの真ん中を、一直線に貫いた。
爆散する、死体兵。
一撃で、十数体が消し飛んでいる。
村から見ていたリーザスが、目を見開いた。
(あれが……竜契約スキル。雷そのものになって突っ込みやがった……!)
規格外だった。
あれが、第七騎士団の隊長格。あれが、空を支配する者の力。
自分が学校で必死に磨いてきた剣技が、まるで子供の遊びに思えるほどの、圧倒的な破壊力。ここが、本物の戦場なのだと、思い知らされる。
「はっ、派手な竜だ。だが凡庸だな」
カモが、生意気に言う。
「バッカお前、あいつの方がすげえだろ」
「なんだと!」
群れの後方に着地する、カーラカレット。
振り返り、ニヤリと笑う。
「さあ、掃除の時間だ! 行けお前ら!」
その声に応えるように、地上から二つの影が飛び出した。
「言われなくても——!」
◇
先陣を切る、ラズ。
その剣に、バチバチと火花のような闘気が集束していく。
「飛竜剣——ッ!!」
ザンッ!!
巨大な飛竜剣が、飛ぶ。
村から見ていたリーザスが、息を呑んだ。
(あの歳で飛竜剣を……! しかも、でかい!)
軽薄そうな若者だと思っていた。
だが、その実力は本物だ。この若さで、あれほどの飛竜剣を放てる騎士が、どれだけいるか。
その時、死体兵がラズの背後に回り込む。
「!」
その瞬間、静かな声が響いた。
「右に三、後ろに二。跳んで」
エミリアだった。
ラズが跳躍した直後——エミリアの投げた闘気を纏った短剣が、死体兵を一直線に貫通する。
崩れた死体兵たちを、着地したラズの一閃が薙ぎ払った。
「ナイスだエミリア!」
エミリアは、短剣を複数本、指に挟んだまま、冷静に周囲を見ている。
「油断しないで。奴らはすぐに復活します」
(ナイフに闘気をまとわせて、あの貫通力。やるじゃないか)
リーザスは、感嘆した。
空だけではない。地上組も、精鋭だ。
あの冷たい態度は、ただの傲慢ではなかった。実力に裏打ちされた、自負だったのだ。斥候として敵の位置を完璧に把握し、味方に的確な指示を出しながら、自らも仕留める。そんな芸当が、簡単にできるはずがない。
上空から、ソランジュの声が降ってくる。
「皆さんに、女神様の加護を!」
光の翼のグランスから、神聖力を乗せた飛竜剣が放たれる。
淡い光の斬撃が、ラズとエミリアの体を通り抜けた。
「へへっ、力が湧いてきやがった!」
傷が塞がり、闘気が漲る。
神聖力の、付与だ。
(回復と強化を、あの距離から……これが第七騎士団。これが、本物のエリートか)
リーザスは、圧倒されていた。
誰一人として、無駄がない。それぞれが、自分の役割を完璧に果たしている。
空から殲滅する隊長。前衛で斬り込む突撃兵。索敵と狙撃をこなす斥候。そして、上空から全体を支える聖騎士。完璧な役割分担。これが、南部戦線の空を支配する部隊の実力なのだ。
その時——メルナが、ハッと村の反対側を振り返った。
「ママ……! あっちから……!」
◇
村の裏手。
柵を乗り越えて、死体兵の一団が侵入してくる。
その数、七体。
狙いは——生存者のいる、村の中心部。
戦闘中のラズが気づき、叫んだ。
「しまった、別働隊か! 村の方に——」
(あっちには、あのおっさんと嬢ちゃんしかいねえ……!)
カーラカレットも気づく。
だが、目の前の敵群が厚い。
「チッ……リーザス! 聞こえてるか!」
リーザスは、少女を背にかばいながら、迫る死体兵を見据えていた。
「——そっちは任せたぞ!!」
「……!」
任された。
初陣で。エリートたちが見ている前で。
ドクン……ドクン……。
リーザスの胸が、鳴り始める。
(来た……ここで実力を見せなきゃ)
ドクドクドクドク……。
(背中には子供。隣にはメルナ。……失敗は、許されねえ)
剣の柄を握る手が、わずかに震えていた。
(やべえ、緊張してきた)
——ノミの心臓。
この期に及んで、また出やがった。守るものが多いほど、この心臓は、うるさく鳴る。
エリートたちの目。任された責任。背中の子供の重み。そのすべてが、心臓を締め付けてくる。
その時、カモが肩から飛び降り、リーザスの前に立った。
「おい、おっさん。震えてんのか?」
ドックン。
「む、武者震いだよ」
「へっ」
カモが、鼻で笑う。
その軽口が、不思議と、リーザスの心を落ち着かせた。
一人じゃない。それだけで、震えは止まる。
この小さな相棒は、いつだって、こういう時に隣にいてくれる。
リーザスは、剣を構えた。
「行くぞ!」
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