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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第四章 第七騎士団編
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空のエリートの実力


   ◇


 土煙を上げて迫る、数十体の死体兵の群れ。


 上空のカーラカレットが、叫んだ。


「配置につけ! ラズ、エミリアは正面から迎撃! ソランジュは上から支援!」


 そして、村を見下ろす。


「リーザス! お前とメルナは、村の生存者を守れ! 救出を続けろ!」


「——了解!」


 リーザスが、瓦礫を退ける。

 その下から、すすだらけの少女が現れた。


「ひっく……おかあ、さん……」


「もう大丈夫。私たちが来ました」


 メルナが、優しく声をかける。


 その頭上を、黄金の飛竜が矢のように通過していった。


「まずは俺からだ! ——『雷迅』ッ!!」


 黄金の飛竜ごと、カーラカレットの全身が、バチバチと雷を纏う。


 ズガガガガガッ!!


 雷を纏った一騎が、死体兵の群れの真ん中を、一直線に貫いた。


 爆散する、死体兵。

 一撃で、十数体が消し飛んでいる。


 村から見ていたリーザスが、目を見開いた。


(あれが……竜契約スキル。雷そのものになって突っ込みやがった……!)


 規格外だった。

 あれが、第七騎士団の隊長格。あれが、空を支配する者の力。

 自分が学校で必死に磨いてきた剣技が、まるで子供の遊びに思えるほどの、圧倒的な破壊力。ここが、本物の戦場なのだと、思い知らされる。


「はっ、派手な竜だ。だが凡庸だな」


 カモが、生意気に言う。


「バッカお前、あいつの方がすげえだろ」


「なんだと!」


 群れの後方に着地する、カーラカレット。

 振り返り、ニヤリと笑う。


「さあ、掃除の時間だ! 行けお前ら!」


 その声に応えるように、地上から二つの影が飛び出した。


「言われなくても——!」



   ◇


 先陣を切る、ラズ。

 その剣に、バチバチと火花のような闘気が集束していく。


「飛竜剣——ッ!!」


 ザンッ!!

 巨大な飛竜剣が、飛ぶ。


 村から見ていたリーザスが、息を呑んだ。


(あの歳で飛竜剣を……! しかも、でかい!)


 軽薄そうな若者だと思っていた。

 だが、その実力は本物だ。この若さで、あれほどの飛竜剣を放てる騎士が、どれだけいるか。


 その時、死体兵がラズの背後に回り込む。


「!」


 その瞬間、静かな声が響いた。


「右に三、後ろに二。跳んで」


 エミリアだった。


 ラズが跳躍した直後——エミリアの投げた闘気を纏った短剣が、死体兵を一直線に貫通する。


 崩れた死体兵たちを、着地したラズの一閃が薙ぎ払った。


「ナイスだエミリア!」


 エミリアは、短剣を複数本、指に挟んだまま、冷静に周囲を見ている。


「油断しないで。奴らはすぐに復活します」


(ナイフに闘気をまとわせて、あの貫通力。やるじゃないか)


 リーザスは、感嘆した。

 空だけではない。地上組も、精鋭だ。

 あの冷たい態度は、ただの傲慢ではなかった。実力に裏打ちされた、自負だったのだ。斥候として敵の位置を完璧に把握し、味方に的確な指示を出しながら、自らも仕留める。そんな芸当が、簡単にできるはずがない。


 上空から、ソランジュの声が降ってくる。


「皆さんに、女神様の加護を!」


 光の翼のグランスから、神聖力を乗せた飛竜剣が放たれる。

 淡い光の斬撃が、ラズとエミリアの体を通り抜けた。


「へへっ、力が湧いてきやがった!」


 傷が塞がり、闘気が漲る。

 神聖力の、付与だ。


(回復と強化を、あの距離から……これが第七騎士団。これが、本物のエリートか)


 リーザスは、圧倒されていた。

 誰一人として、無駄がない。それぞれが、自分の役割を完璧に果たしている。

 空から殲滅する隊長。前衛で斬り込む突撃兵。索敵と狙撃をこなす斥候。そして、上空から全体を支える聖騎士。完璧な役割分担。これが、南部戦線の空を支配する部隊の実力なのだ。


 その時——メルナが、ハッと村の反対側を振り返った。


「ママ……! あっちから……!」



   ◇


 村の裏手。

 柵を乗り越えて、死体兵の一団が侵入してくる。


 その数、七体。

 狙いは——生存者のいる、村の中心部。


 戦闘中のラズが気づき、叫んだ。


「しまった、別働隊か! 村の方に——」


(あっちには、あのおっさんと嬢ちゃんしかいねえ……!)


 カーラカレットも気づく。

 だが、目の前の敵群が厚い。


「チッ……リーザス! 聞こえてるか!」


 リーザスは、少女を背にかばいながら、迫る死体兵を見据えていた。


「——そっちは任せたぞ!!」


「……!」


 任された。

 初陣で。エリートたちが見ている前で。


 ドクン……ドクン……。


 リーザスの胸が、鳴り始める。


(来た……ここで実力を見せなきゃ)


 ドクドクドクドク……。


(背中には子供。隣にはメルナ。……失敗は、許されねえ)


 剣の柄を握る手が、わずかに震えていた。


(やべえ、緊張してきた)


 ——ノミの心臓。

 この期に及んで、また出やがった。守るものが多いほど、この心臓は、うるさく鳴る。

 エリートたちの目。任された責任。背中の子供の重み。そのすべてが、心臓を締め付けてくる。


 その時、カモが肩から飛び降り、リーザスの前に立った。


「おい、おっさん。震えてんのか?」


 ドックン。


「む、武者震いだよ」


「へっ」


 カモが、鼻で笑う。

 その軽口が、不思議と、リーザスの心を落ち着かせた。

 一人じゃない。それだけで、震えは止まる。

 この小さな相棒は、いつだって、こういう時に隣にいてくれる。


 リーザスは、剣を構えた。


「行くぞ!」

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