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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第四章 第七騎士団編
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初陣


   ◇


「合格だ!」


 カーラカレットの豪快な笑い声が、訓練場に響く。

 リーザスは、静かに拳を離した。


 その時、群衆を割って、一人の女が歩み出てきた。

 軍服を着崩した、しなやかな長身。鋭い眼光。


 ——第七騎士団団長、「鳳眼」のコーネリア。


「随分と手荒な歓迎じゃないか、カーラカレット」


「がはは! ちょっとしたスキンシップですよ、団長!」


 コーネリアがリーザスを見て、片目を細める。


「久しぶりだね、リーザス。ちゃんと生きて来たじゃないか」


「コーネリア団長。……お世話になります」


 その視線が、メルナに移る。


「メルナも。元気そうで何よりだよ」


「はい。ご無沙汰しております、コーネリア様」


 二人のやりとりに、ラズが訝しげに眉を寄せた。


(あれが噂の魔法騎士……)


 和やかな光景。

 だが、コーネリアの胸中は、そう単純ではなかった。


(リオンから預かった、最高機密。……そして、いざとなれば私の手で葬らなきゃならない娘)


 あの日、リオンから下された非情な命令。

 もしメルナの力がゾラに渡りそうになれば、殺せ、と。


(……ま、そんな顔はおくびにも出さないけどね)


 コーネリアが、ぱんと手を打った。


「よし。積もる話はあとだ。あんたたちの歓迎会は——」


 その時。


 ウゥゥゥゥゥーーーッ!!!


 砦全体に、けたたましい緊急出撃の警報が鳴り響いた。

 隊員たちが、色めき立つ。


 コーネリアの顔つきが、一瞬で団長のそれに変わる。


「……仕事だ」


 その声は、先ほどまでとは別人のように鋭かった。


「南の監視哨から狼煙! ゾラの部隊が国境を越えた! カーラカレット隊、出撃!」


 そして、リーザスを見る。


「リーザス、メルナ。お前らの初陣だ。力を見せてみろ!」


「「はい!」」



   ◇


 出撃準備が進む中庭。

 騎士たちが、慌ただしく駆け回る。


 カーラカレットが、巨大な黄金の飛竜に跨った。


「よお相棒、仕事だ!」


 空を飛べるのは、飛竜を駆る竜騎士と——。


 ソランジュが、祈りを捧げる。

 腕の『セレスティアの翼環』が輝き、彼女のグランスの背に、神聖力で編まれた「光の翼」が展開された。


 ——特務遊撃班・聖騎士、ソランジュ。

 翼環で飛行できる、聖騎士だけである。


 ラズとエミリアは、それぞれのグランスに跨る。

 翼は、ない。


 ——特務遊撃班・突撃兵、ラズ。

 騎士に、空を飛ぶ術はない。


「へっ、地上は俺たちの縄張りだ。なあエミリア!」


 ——特務遊撃班・斥候、エミリア。


「ええ。空の連中より、先に着いて見せましょう」


 リーザスもマルコに跨る。メルナはルナへ。


「俺たちも行くぞ、マルコ!」


 ラズが、リーザスを横目で見た。


「おっさんの竜、飛べねえんだろ? じゃあ俺たちと同じ、地べた組だ。……遅れんなよ」


「んだと!? 俺様は歩くのが好きなだけだっつーの!」


「喋った!?」


 ラズが、目を丸くする。


「がはは! 編成を言うぞ!」


 カーラカレットの声が、中庭に響く。


「俺とソランジュは空から偵察と支援! ラズ、エミリア、リーザス、メルナは地上から進軍!」


 そして、声を低くした。


「敵はゾラの部隊だ。死体兵が交ざってる可能性が高い。全員、気を引き締めろ!」


 一斉に駆け出す、地上組。

 空には、カーラカレットの黄金竜と、ソランジュの光の翼。


 荒野を疾走する、マルコ。

 その速さに、ラズが目を見張った。


(……っ、あのボロいグランス、俺のやつと同じ速さで……!?)


 併走するエミリアも、静かにマルコを観察している。


(戦帰りのグランス……無駄な動きが、一つもない)


(メルナ、ちゃんとついて来てるな。……よし)


 リーザスが、後ろを確認する。


 その時、前方の地平線に——黒い煙が、細く立ち昇っているのが見えた。


「!」



   ◇


 煙の方向へ、一行が進路を変える。


 上空のカーラカレットが叫んだ。


「カランの村が燃えてるぞ!」


 丘を越える。

 眼下に広がる光景に、リーザスは絶句した。


 焼け落ちた村。

 黒焦げの家々。倒れた柵。


「……!」


 村の広場。

 動くものの気配は、ない。


 ソランジュが空から降下し、村の入口に降り立つ。


「生存者を探します! 皆さんは、周辺の警戒を!」


 リーザスたちも、村に入る。

 マルコが、不安げに鼻を鳴らした。


 焼け跡を歩く、リーザス。


(ゾラ……ここまでやるのか)


 ここは、戦場ではない。ただの、村だ。

 守るべき民が、住んでいた場所だ。

 昨日まで、ここで誰かが飯を食い、笑い、眠っていた。そのすべてが、灰になっている。


 リーザスは、拳を握りしめた。

 俺は、こういうものを守るために騎士を目指したんじゃないのか。十八年、そのために剣を振ってきたんじゃないのか。それなのに、間に合わなかった。


 その時、メルナが、崩れた家の前で立ち止まった。


「ママ……ここ」


 瓦礫の下から、微かな音がする。


「……っく……ひっく……」


(子供の、泣き声!)


「!! おい、生きてるやつがいる!」


 リーザスが瓦礫に駆け寄り、素手で退け始める。


 その時——ラズが、村の外れで叫んだ。


「おい! 見ろ、あれ!!」


 村の向こう、荒野の先。


 土煙を上げて、こちらへ進軍してくる——数十体の、ゾラ帝国『死体兵』の群れ。

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