初陣
◇
「合格だ!」
カーラカレットの豪快な笑い声が、訓練場に響く。
リーザスは、静かに拳を離した。
その時、群衆を割って、一人の女が歩み出てきた。
軍服を着崩した、しなやかな長身。鋭い眼光。
——第七騎士団団長、「鳳眼」のコーネリア。
「随分と手荒な歓迎じゃないか、カーラカレット」
「がはは! ちょっとしたスキンシップですよ、団長!」
コーネリアがリーザスを見て、片目を細める。
「久しぶりだね、リーザス。ちゃんと生きて来たじゃないか」
「コーネリア団長。……お世話になります」
その視線が、メルナに移る。
「メルナも。元気そうで何よりだよ」
「はい。ご無沙汰しております、コーネリア様」
二人のやりとりに、ラズが訝しげに眉を寄せた。
(あれが噂の魔法騎士……)
和やかな光景。
だが、コーネリアの胸中は、そう単純ではなかった。
(リオンから預かった、最高機密。……そして、いざとなれば私の手で葬らなきゃならない娘)
あの日、リオンから下された非情な命令。
もしメルナの力がゾラに渡りそうになれば、殺せ、と。
(……ま、そんな顔はおくびにも出さないけどね)
コーネリアが、ぱんと手を打った。
「よし。積もる話はあとだ。あんたたちの歓迎会は——」
その時。
ウゥゥゥゥゥーーーッ!!!
砦全体に、けたたましい緊急出撃の警報が鳴り響いた。
隊員たちが、色めき立つ。
コーネリアの顔つきが、一瞬で団長のそれに変わる。
「……仕事だ」
その声は、先ほどまでとは別人のように鋭かった。
「南の監視哨から狼煙! ゾラの部隊が国境を越えた! カーラカレット隊、出撃!」
そして、リーザスを見る。
「リーザス、メルナ。お前らの初陣だ。力を見せてみろ!」
「「はい!」」
◇
出撃準備が進む中庭。
騎士たちが、慌ただしく駆け回る。
カーラカレットが、巨大な黄金の飛竜に跨った。
「よお相棒、仕事だ!」
空を飛べるのは、飛竜を駆る竜騎士と——。
ソランジュが、祈りを捧げる。
腕の『セレスティアの翼環』が輝き、彼女のグランスの背に、神聖力で編まれた「光の翼」が展開された。
——特務遊撃班・聖騎士、ソランジュ。
翼環で飛行できる、聖騎士だけである。
ラズとエミリアは、それぞれのグランスに跨る。
翼は、ない。
——特務遊撃班・突撃兵、ラズ。
騎士に、空を飛ぶ術はない。
「へっ、地上は俺たちの縄張りだ。なあエミリア!」
——特務遊撃班・斥候、エミリア。
「ええ。空の連中より、先に着いて見せましょう」
リーザスもマルコに跨る。メルナはルナへ。
「俺たちも行くぞ、マルコ!」
ラズが、リーザスを横目で見た。
「おっさんの竜、飛べねえんだろ? じゃあ俺たちと同じ、地べた組だ。……遅れんなよ」
「んだと!? 俺様は歩くのが好きなだけだっつーの!」
「喋った!?」
ラズが、目を丸くする。
「がはは! 編成を言うぞ!」
カーラカレットの声が、中庭に響く。
「俺とソランジュは空から偵察と支援! ラズ、エミリア、リーザス、メルナは地上から進軍!」
そして、声を低くした。
「敵はゾラの部隊だ。死体兵が交ざってる可能性が高い。全員、気を引き締めろ!」
一斉に駆け出す、地上組。
空には、カーラカレットの黄金竜と、ソランジュの光の翼。
荒野を疾走する、マルコ。
その速さに、ラズが目を見張った。
(……っ、あのボロいグランス、俺のやつと同じ速さで……!?)
併走するエミリアも、静かにマルコを観察している。
(戦帰りのグランス……無駄な動きが、一つもない)
(メルナ、ちゃんとついて来てるな。……よし)
リーザスが、後ろを確認する。
その時、前方の地平線に——黒い煙が、細く立ち昇っているのが見えた。
「!」
◇
煙の方向へ、一行が進路を変える。
上空のカーラカレットが叫んだ。
「カランの村が燃えてるぞ!」
丘を越える。
眼下に広がる光景に、リーザスは絶句した。
焼け落ちた村。
黒焦げの家々。倒れた柵。
「……!」
村の広場。
動くものの気配は、ない。
ソランジュが空から降下し、村の入口に降り立つ。
「生存者を探します! 皆さんは、周辺の警戒を!」
リーザスたちも、村に入る。
マルコが、不安げに鼻を鳴らした。
焼け跡を歩く、リーザス。
(ゾラ……ここまでやるのか)
ここは、戦場ではない。ただの、村だ。
守るべき民が、住んでいた場所だ。
昨日まで、ここで誰かが飯を食い、笑い、眠っていた。そのすべてが、灰になっている。
リーザスは、拳を握りしめた。
俺は、こういうものを守るために騎士を目指したんじゃないのか。十八年、そのために剣を振ってきたんじゃないのか。それなのに、間に合わなかった。
その時、メルナが、崩れた家の前で立ち止まった。
「ママ……ここ」
瓦礫の下から、微かな音がする。
「……っく……ひっく……」
(子供の、泣き声!)
「!! おい、生きてるやつがいる!」
リーザスが瓦礫に駆け寄り、素手で退け始める。
その時——ラズが、村の外れで叫んだ。
「おい! 見ろ、あれ!!」
村の向こう、荒野の先。
土煙を上げて、こちらへ進軍してくる——数十体の、ゾラ帝国『死体兵』の群れ。




