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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
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傷痕の卒業式


 軍事大学校・大講堂。

 重苦しい静寂が、空間を支配していた。


 包帯を巻かれた者。松葉杖をつく者。

 誰もが一様に、険しい顔つきをしている。本来なら、夢を叶えた誇らしい門出のはずだった。だが、ここにいる誰の顔にも、喜びはなかった。仲間を、あまりにも多く失ったから。


 演壇に立つヴィクトール校長が、沈痛な面持ちで口を開く。


「……君たちは、我が校の歴史上、最も過酷で悲惨な試験を生き抜いた」


 その声は、静かに講堂に響いた。


「散っていった同胞たちの無念は、決して忘れてはならない」


 壁際に立つダミアン教官が、ギリッと唇を噛み締める。

 彼が手塩にかけて育てたゼミ生たちも、その大半が、あの山で命を落としていた。


「だが、生き残った君たちを、王国は必要としている。これより、配属を発表する!」


 ヴィクトールの声に、力が込もる。

 悲しみに沈むだけでは、散った者たちが浮かばれない。生き残った者には、生き残った者の責務がある。


「アブラナ! 第一騎士団へ、竜騎士としての配属を命ずる」


「はい!」


「ゼファルド! 竜騎士として、第六騎士団!」


「はっ!」


「クレオ! 竜との契約はならず。だが、その傑出した戦闘力を評価し……」


 一拍、間を置いて。


「特例として、第四騎士団・重装騎士として配属する!」


「……はい」


 クレオの返事には、わずかな悔しさが滲んでいた。


(クレオ……第八じゃなく、第四か)


 リーザスは、友の横顔を見た。

 竜に選ばれなかった男。それでも、その実力は、特例の配属を勝ち取るほどに、認められていた。


「そして、リーザス! メルナ!」


「!」


「リーザスは竜騎士として、そしてメルナは、我が国初の魔法騎士として」


 ヴィクトールの声が、講堂に響き渡る。


「第七騎士団への配属を命ずる!」


「はっ!」


「はい!」


 リーザスが力強く返事をして、立ち上がった。

 万年雑兵だった男が、ついに、正式な騎士団へ。長い、長い道のりだった。

 十年以上、試験に落ち続けた。ノミの心臓と笑われ、自分の実力すら信じられずにいた。それでも諦めなかった先に、この瞬間がある。隣には、メルナがいる。肩には、相棒のカモがいる。一人ではない。それが、何よりも誇らしかった。



   ◇


 式典が終わり、生徒たちが荷造りのために散っていく、広い廊下。


 その片隅を、ベルモットとバークレーが、つまらなそうに歩いている。


「……チッ。あんなトカゲでも、あのおっさん、一応竜騎士なんだな」


 ベルモットが、リーザスとカモを遠目に見る。


「くそう。僕たちの竜は、死んじゃったもんね」


 バークレーが、肩を落とす。


「諦めるな! 竜騎士にはなれなかったが、俺たちはエリートの第二騎士団に配属だ。一番に出世してやる!」


 その時、背後から声がかかった。


「……ベルモット、バークレー」


「ダミアン教官!」


「お前らは、ダミアンゼミ……たった二人の、生き残りだ……」


 ダミアンの声が、震えていた。


「頼む……みんなの仇を」


 涙ぐむ、ダミアン。

 いけ好かない教官だと思っていた。だが、彼もまた、教え子たちを心から愛していたのだ。


「教官!」


 ベルモットとバークレーが、声を上げる。

 ひしっと、三人が抱き合った。


 遠くから、それを見ているリーザス。


(あんな嫌な奴らでも……奴らなりの絆は、あったって事か)


 あの山で、自分を殺そうとした連中。だが、その彼らにも、守りたい仲間がいて、悼むべき死があった。リーザスは、複雑な思いでその光景を見つめた。


「リーザス、メルナ!」


 振り向くリーザスの前に、クレオ、アブラナ、ゼファルドが立っていた。


「同期同士で、卒業パーティでもやろうぜ」


 クレオが、にっと笑った。



   ◇


 外の広場。

 集まっている、五人。


 酒を飲んでいるリーザス。


「クレオ。……セルゲオさんは、いい人だ。第四騎士団でも、うまくやれるさ」


「ああ、いずれ竜騎士になるチャンスも、また来るだろう」


 クレオが、前を向く。


「それまでは剣と拳で、戦場で無双してやるさ」


「……無茶はするなよ。お前は強いが、戦争は違う」


「おっさんこそな。第七騎士団って、空を飛ぶエリート部隊だろ? そんな飛べもしない竜で、大丈夫なのか」


「うるせーよ。飛べなかろうが、竜は竜」


 カモが、口を挟む。


「俺がリーザスを、最強の竜騎士にしてみせるぜ」


「生意気だな、このトカゲ」


「うるせーんだよ。このアゴ割れ!」


 軽口を叩き合う一同。

 だが、その温かい時間も、長くは続かない。


「さて、俺はそろそろ出発させてもらう」


「!」


「ルーカの件で、新人の俺にも、第六騎士団から緊急召集が入った」


 ゼファルドが、淡々と言う。


「ルーカは、本当に裏切り者だったんだべか。オラには、ルーカの全部が嘘だとは思えねえ」


 アブラナが、寂しげに呟いた。


「……セルエル団長は今、どうされてるんだろうな」


「誰とも会わず、鍛錬に没頭していると聞く」


 ゼファルドが答える。


「ゼファルド。第六騎士団に行ったら、頼みがある」


「!?」


 リーザスの声が、低くなった。


「『ビアンカ』という女が、ゾラにいる。……生きてるか、死んでるか。それだけでいい。調べてくれ」


 その言葉に込められた切実さに、ゼファルドは無言で頷いた。

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