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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
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裏切りの波紋と円卓会議

 王都の軍司令部。

 巨大な円卓を囲む、騎士団長たち。


 今回の竜騎士試験に関わる団長と、ヴィクトールが召集されていた。

 第一騎士団長・勇者アルベルト。第四騎士団長・鬼騎士セルゲオ。第六騎士団長・闇のクロウ。第七騎士団長・鳳眼のコーネリア。第十二騎士団長・天才セルエル。そして、グランバキア軍事大学校校長・ヴィクトール。


 上座には、リオン大元帥が目を閉じて、静かに腕を組んでいる。


 円卓の中央で、ヴィクトール校長が、重々しく報告を終える。


「……以上が、竜騎士試験における被害の全容でございます」


 円卓に、重苦しい沈黙が降りた。


「ちょっと待ってよ。山の竜が、半数壊滅って……」


 コーネリアが、信じられないという顔をする。


「あり得ねえだろ! 結界を抜けて、ゾラが国内に侵入したっていうのか!?」


 セルゲオが、声を荒らげた。


「いや、手引きをした者が、内部にいたのだ」


 ヴィクトールが、静かに告げる。


「今年の軍事大学校の受験生……ルーカ・ミルヴァンだ」


 騎士団長たちの間に、衝撃が走った。


「ルーカって……」


 コーネリアの視線が、一人の少年へと向けられる。

 つられて、円卓中の視線が、その一点に集まった。


 第十二騎士団長・天才セルエル。

 彼は、じっと下を向いている。

 可愛らしい顔立ちの、まだ少年と言っていい年齢。それでいて、最年少で騎士団長にまで上り詰めた、正真正銘の天才。その彼が、今は石のように沈黙していた。


「……セルエルの幼馴染で、第十二騎士団に内定を出していた少年だな」


 アルベルトが、低く言う。


「彼は自らの意志で、我々を裏切った。リーザスたちの証言とも、完全に一致している」



   ◇


 ダンッ!!

 セルゲオが、円卓を激しく叩く。


「ふざけるなッ! スパイを内定させてたってのか!」


 そして、円卓の端に座る男を睨みつけた。


「第六騎士団の情報部も、間抜けだな! これだから、暗殺部隊は信用できねえ!」


 睨まれた、第六騎士団長クロウ。

 深いクマと、気怠げな半目。口元をマフラーで隠した男だ。


 クロウは、猫背のまま、ボリボリと頭を掻く。


「ええ、私達の失態です。言い訳もありません」


 淡々と、彼は認めた。


「今後は、各団長の推薦者でも、隅から隅まで調査させていただきます」


 そう言って、クロウはちらりとセルエルの方を見た。


 セルエルは、屈辱に耐えている。

 それを、セルゲオが見る。


「ちょっと待て、それは責任転嫁じゃねーのか」


「安全管理の上で、必要な処置かと」


 クロウは、表情を変えない。

 淡々とした物言いだが、その奥には、確かな棘があった。スパイを推薦したのは、他ならぬセルエルだ。クロウは、それを暗に責めている。情報部の長として、二度と同じ過ちは許さない——その冷徹な意志が、言葉の端々に滲んでいた。


「内輪揉めは、後にしろ」


 勇者アルベルトの重い一言に、全員が口を閉ざした。


「問題は、ゾラの浸透工作が、我々の想定を超えていることだ」


 会議室に、重苦しい沈黙が降りる。


「……セルエル」


 それまで沈黙していたリオンが、静かに口を開いた。


「第十二騎士団長として、何か言うことはあるか?」



   ◇


 セルエルの手元には、ルーカの温厚な笑顔が載った受験調書がある。


 セルエルの指先が、調書の上のルーカの顔を、ゆっくりとなぞった。


 その脳裏に、ルーカの声が蘇る。


『セルエル、聖騎士になって、僕が君を支えるから』


 握手を交わした、あの日。

 幼い二人の、確かな絆。それが、根底から、覆された。

 共に夢を語り、共に剣を磨いた、誰よりも信頼していた幼馴染。その男が、国を裏切り、仲間を殺し、竜を滅ぼした。セルエルにとって、それは世界が引き裂かれるほどの、裏切りだった。

 だが——その整った顔には、涙の一筋もなかった。


 会議室に、ヒリヒリとするような、極度の緊張感が走る。


 沈黙の後、可愛い系の顔立ちのセルエルが、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳には、悲しみでも、怒りでもなく……底知れない、虚無のような冷たさが宿っていた。


「……私の、不徳の致すところです」


 メキッ……。


 セルエルが両手で握りしめた円卓の縁に、嫌な音を立てて、亀裂が走る。


「ルーカ・ミルヴァンは、王国と騎士団の誇りを踏みにじった、大罪人」


 メキメキメキッ!!


 頑丈な円卓のテーブルが、セルエルから無意識に漏れ出す闘気で、粉砕されていく。


「次に彼が、私の前に現れた時は」


 セルエルの声が、静かに、しかし凍えるように響く。


「この私が、必ず神の裁きを下す。……一片の慈悲もなく」


 最年少の天才が放つ、圧倒的な殺気。

 歴戦の騎士団長たちでさえ、その威圧に、思わず息を呑んだ。

 愛が深かった分だけ、その裏返しの殺意もまた、底知れなかった。

 ルーカという「置き土産」は、リーザスの胸だけでなく、この国の最強格の一人の心にも、消えない刃を突き立てていた。

 ——ゾラとの戦いは、新たな局面へと、動き出そうとしていた。

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