白銀の剣と全視の限界
リーザスが白銀の大剣を構え、ルーカを睨みつける。
その刃は、メルナの浄化の力で蘇り、かつてないほどの輝きを帯びていた。
「武器があったところで、無駄です」
ルーカが、嗤う。
「僕には、あなた達の魂の動きが、全て視えているんですから」
その第三の目が、ぎょろりと、リーザスの動きを先読みする。
全視の目。それは、相手の動きを未来予知のように捉える、絶対の防御だった。ゼファルドの影潜りすら見破った、その目。リーザスがどんな剣技を繰り出そうと、見えていれば、対処できる。ルーカには、その絶対の自信があった。
リーザスが地を蹴り、一気に間合いを詰めた。
ルーカは余裕の笑みを浮かべ、迎撃の体勢をとる。
リーザスが、頭上高く大剣を振りかぶる。
(遅い。太刀筋も丸見えだ)
ルーカは、その斬撃を冷静に見切ろうとした。
だが——リーザスは、剣を直接振り下ろすのではなかった。極限の闘気を、刃に込めていく。
全視の目。それは確かに、厄介な能力だ。どんな速い斬撃も、どんな巧妙な奇襲も、見切られてしまう。だが、リーザスは気づいていた。「見える」ことと「避けられる」ことは、まったくの別物だと。どれだけ正確に未来が見えようと、逃げ場そのものを奪ってしまえばいい。
「見えてるなら……避けてみろ!」
リーザスが、吼える。
「【竜爪剣】!!」
白銀の刃から、広場全体を覆うほど巨大な闘気の斬撃が放たれた。
「なっ……範囲が広すぎる!」
ルーカの余裕が、消える。
全視で軌道が完全に見えていても——回避するスペースそのものが、存在しない。
見えることと、避けられることは、別なのだ。広場のすべてを覆う斬撃の前では、どこへ逃げても無駄だった。
ズバァァンッ!!
ルーカが斬撃の直撃を受け、凄まじい衝撃とともに、壁まで吹き飛ばされる。
◇
土煙の中から、ボロボロになったルーカが立ち上がる。
「くっ……力任せな真似を……」
「休んでる暇はねえぞ!!」
息を吹き返したクレオが、側面から強烈な飛び蹴りを放つ。
毒が浄化されたことで、辛うじて戦える程度に回復していた。満身創痍でも、ここで退くつもりはない。
「チッ!」
なんとか腕で防ぐルーカ。
だが、その背後の影から、ゼファルドが音もなく飛び出した。
「……隙だらけだ」
毒が消えて、本来の速度を取り戻した暗殺者の連撃。
あの全視の目をもってしても、回復した影潜りの速度には、徐々に対応が遅れ始めていた。
「ぐはっ!」
背中を切り裂かれ、ルーカが体勢を崩す。
視えていても、三方向からの絶え間ない波状攻撃には、体が反応しきれない。
いくら未来が見えようと、肉体の処理能力には限界がある。リーザス、クレオ、ゼファルド——三者三様の攻撃が、休む間もなく襲いかかってくる。
一人では、勝てない相手だった。だが、三人なら。竜に頼れず格闘を磨いたクレオ、毒に耐えて影を操るゼファルド、そして白銀の剣を取り戻したリーザス。それぞれの執念が、最強の聖騎士を、確実に削っていく。
「いけ、おっさん! 奴の処理能力が追いついてねえぞ!」
カモが、叫ぶ。
リーザスが再び大剣を構え、猛然と突進する。
(視界がブレる……! 全視が、追いつかない!)
ピキッ……!
酷使されたルーカの掌の「魔眼」に、亀裂が入った。
無敵だと思われた全視の力。だが、それは生身の体に移植した、無理な技術だった。三人の波状攻撃に、絶え間なく未来を読み続けたことで、魔眼そのものが限界を迎えていた。
魔眼から血が滲み、追い詰められたルーカの顔から、余裕が完全に消え去る。
◇
「これで終わりだ、ルーカ!!」
胸のホロウのエネルギーを、限界まで大剣に注ぎ込むリーザス。
カモの大剣が、かつてないほどの眩い白銀の輝きを放つ。
ビアンカの愛が宿る石。メルナが浄化した力。仲間たちが命を懸けて作った好機。その全てが、今、この一振りに込められていた。
「や、やめろ……僕は最強の聖騎士だぞ!」
狂乱したルーカが、残る全魔力を込めて、神聖術の防壁を何重にも展開する。
幾重にも張り巡らされた、光の壁。ゾラの技術で得た、最強の守り。
だが——リーザスの渾身の【竜爪剣】が、その防壁を紙のように打ち砕いた。
凄まじい剣閃が、ルーカの体を真っ向から捉える。
バキィィィンッ!!
ルーカの額の「第三の目」と、掌の「魔眼」が、完全に砕け散った。
「ああっ……! 僕の……目がぁぁっ!」
そして、普通の両目からも、血が噴き出す。
ルーカが両目から血を吹き出しながら、無様に地面へと崩れ落ちた。
全てを見通すと豪語した男が、今、何も見えない闇の中に堕ちた。皮肉な結末だった。
「……終わったな」
大剣を下ろし、肩で息をするリーザス。
クレオとゼファルドも、警戒を解く。
長い戦いだった。仲間を失い、毒に苦しみ、それでも諦めなかった末の、勝利。誰もが、安堵の息を漏らしかけていた。
だが——倒れ伏したルーカの口元が、ニヤリと不気味に吊り上がった。
「さすがですね、リーザスさん。でも……これで終わりじゃありませんよ」




