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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
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全視の絶望

 ルーカが、あちこちを、第三の目を発動しながら見ている。


 右を見る。

 左を見る。

 その魔眼が、ぎょろぎょろと、広場のあらゆる影を監視していた。


 スッと、影から顔を出したゼファルドに、ルーカが剣を振り下ろす。


「そこだ!」


 剣で、それを防ぐゼファルド。


「!」


「モグラ叩きみたいで、面白いですね」


 ルーカが、嗤う。

 影に潜って奇襲をかけるたび、先回りされる。完全に、動きを読まれていた。


「だが、遊びは終わりだ」


 またもや、激しいルーカの蹴り。

 強烈な一撃が、ゼファルドの脇腹を捉えた。


「ガッ!」


 吹き飛んで、体勢を整えるゼファルド。


(ゼファルドの影潜りが……完全に読まれてる……!)


 リーザスは、絶望的な気持ちで戦いを見ていた。

 最強の暗殺者の能力が、まったく通用しない。あの「全部見える」目の前では、影に隠れることが、何の意味も持たない。


「舐めるなよ」


 ゼファルドが、低く呟いた。


「うおおおおおお!」


 闘気を、燃やす。

 黒いオーラが、爆発的に膨れ上がった。


「竜爪剣!」


 鋭い斬撃が、飛ぶ。


「!」


 斬撃が、ルーカの顔を切り裂いた。


「ぐああああああああ!」


 ドシャッと、ルーカが倒れる。



   ◇


「そうか。ゼファルドも、竜騎士になったんだ」


 リーザスが、ハッとする。


「竜騎士、それもゼファルドの竜爪剣なら……」


 あの竜爪剣だ。自分がベルモットたちを一蹴した、あの技。ゼファルドほどの実力者が放てば、その威力は計り知れない。これで、決まった——そう思った。


「ククククク、これが本物の竜爪剣か」


 寝たまま、ルーカが笑った。


「!!」


 リーザスとゼファルドが、息を呑む。


 身体中が刻まれた状態で——脳まで見えるほどの重傷で、ルーカが、むくりと起き上がった。


「一度、受けてみたかったんだ」


「……貴様、不死身か」


 ゼファルドが、警戒する。


「不死身じゃありませんよ。ただ、強力な治癒魔法をかけ続けているだけです」


 ルーカの傷が、見る間に塞がっていく。


「もちろん、身体強化魔法も同時にね」


 戦闘の構えを取るルーカ。

 両腕を交差させた、ブラッディクロスの構え。


 ダブルの飛竜剣——二連の斬撃波が、ゼファルドを襲う。


「ぐはっ!」


 ゼファルドが、大ダメージで崩れ落ちた。


 メルナが、リーザスの腕にしがみつきながら、苦しい息の中で戦場を見ている。


「ゼファルドさん……」


 ルーカが、近づいていく。

 恍惚とした表情で。


「聞いたことが、ありますよね。たまに竜騎士より強い聖騎士がいるって」


 その目が、異様に輝いていた。


「それが僕です。僕はゾラの力で、最強の聖騎士になったんだ!」


「そうだ。僕が最強だ。あのセルエルより……」


 ぶつぶつと、呟く。

 目が、完全に据わっていた。狂気が、その横顔を覆っている。

 幼馴染のセルエル。大好きだと言っていた、その相手。だが、その口ぶりには、愛情と同じだけの、暗い対抗心が滲んでいた。最強になりたい。誰よりも。あのセルエルよりも。ゾラの力に手を染めたのも、その歪んだ渇望ゆえだったのかもしれない。


 その時——凄まじい踏み込みの音とともに、血まみれの男が、ルーカの側面に肉薄した。


「……!?」


 クレオの拳が、ルーカの側頭部を、完璧に打ち抜く。


「俺を忘れてんじゃねえぞ、クソ野郎!!」



   ◇


 吹き飛ばされ、地面を転がるルーカ。

 リーザスとカモが、その光景を見ている。


「ふん、今俺が殴れたのは、テメエがゼファルドに夢中だったからだろ?」


 クレオが、不敵に笑う。


「一度に一人しか追えねえんだな、その目」


 クレオは、見抜いていた。

 ルーカの「全部見える」目にも、限界がある。意識を一点に集中している時は、他が手薄になる。ゼファルドを追うのに夢中になっていた、その隙。竜に頼れない男だからこそ、観察と頭脳で、その綻びを突いたのだ。


「あなたごときが……今更」


 クレオが、闘気弾を連発する。


「くっ」


 ガードする、ルーカ。


「あなたごときだあ? 舐めてんじゃねえぞ」


 ダッシュする、クレオ。


「俺は最前線で戦う、第八騎士団の内定者だ!」


 クレオの右ストレートが迫る。ルーカは、下に避ける。


 だが、その直後——クレオの膝が、ルーカの顔面に突き刺さった。


「テメエごときが、本来勝てる相手じゃねえんだよ」


 回復しながら、手刀を振ろうとするルーカ。

 その動きを、クレオは許さなかった。


 タックルで、胴に組みつく。


「おっさんに負けてから、散々格技は練習したんだ!」


 いつだったか、格技でリーザスに手合わせで負けたことがあった。あの悔しさを忘れず、クレオは黙々と格闘技を磨いてきた。竜に頼れない今、その地道な努力だけが、武器だった。


 ルーカを、地面に叩きつける。


「こうやって相手の動きを封じて——」


 四方固めから、馬乗りへ。


「自分の優位な体勢を作る!」


 完璧な、寝技の体勢。

 神聖力で身体強化したルーカでも、この体勢からは、容易に抜け出せない。どれほど治癒魔法を使おうと、動きを封じられては、反撃のしようがない。物理で殺せないなら、動きを止め続ければいい。クレオは、頭を使っていた。


「無限に回復するのか? 試してやろうじゃねえか」


 クレオの渾身のマウントパンチが、ルーカの顔面を完璧に打ち抜いた。


「オラァ!!」

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