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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
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未契約の盾と暗殺者の刃

「第八騎士団の騎士として、俺がお前を倒す」


 クレオが、ぎろりとルーカを睨む。


「クレオさん……」


「おっさん、メルナ、全部俺がなんとかしてやるからな」


 クレオの声には、確かな覚悟が宿っていた。

 いつものふざけた調子は、消えていた。仲間が殺されかけている。その一点だけで、この男は命を張る覚悟を決めていた。


「クレオ……この瘴気の中で、なぜお前だけ動けるんだ!」


 リーザスは、信じられないという顔をした。

 竜であるカモも、竜核を持つメルナも、ホロウを宿す自分でさえ、この毒に蝕まれて動けない。なのに、クレオだけが、平然と立っている。


「へっ……」


 クレオが、自嘲気味に笑った。


「俺が竜と契約できなかったからだよ!」


「なるほど……ドラゴサイドは、竜とその契約者にしか効きませんからね」


 ルーカが、納得したように頷く。


「未契約という挫折が、皮肉にも貴方を救ったわけですか」


 竜に選ばれなかったこと。それは、クレオにとって最大の屈辱だったはずだ。

 あの日、誰よりも喜んで竜の声に駆けていったクレオ。それなのに、契約には至らなかった。夢破れて、屍の山に倒れていた男。

 だが今、その挫折が、彼を唯一の動ける戦力にしていた。皮肉という言葉では、片付けられない。選ばれなかった痛みを抱えた男だけが、今、ここで戦える。


「お前のせいで、俺が契約したかった竜が死んじまった」


 クレオの声に、怒りが滲む。

 あの竜は、クレオを呼んだのだ。確かに、呼んだ。なのに、契約を交わす前に、この男の毒で殺された。クレオにとって、それは仲間を奪われたのと同じだった。


「とにかく、ぶっ潰す!」


 クレオが、死体兵に殴りかかった。

 拳が、骨の刃を粉砕する。一体目の死体兵が、崩れ落ちた。


 だが、二体目、三体目が群がってくる。

 クレオの腕に、骨の刃が切りつけた。


「この程度……!」


 傷を無視して、反撃。蹴りで死体兵を吹き飛ばす。


(クレオ……お前、こんなに強かったのか……)


 リーザスは、目を見張った。

 いつも軽口ばかり叩いていた、あのクレオが。竜にも選ばれず、自分と同じ「選ばれざる者」だと思っていた男が、今、満身の力で仲間を守ろうとしている。

 だが、数が多すぎる。四体、五体と、押し寄せてくる。

 そして何より——リーザス自身が、動けない。ホロウは沈黙し、闘気は一片も湧かない。守られるばかりの自分が、情けなかった。



   ◇


 背後から、切りつけられる。


「がはっ……!」


 クレオが、膝をついた。


「頑張りましたね。でも、彼らは何体壊されても、僕が魔力を注ぐ限り、何度でも立ち上がります」


 ルーカの魔眼が、光る。

 その第三の目へと、魔力が移動していくのが見えた。


「おっさんの、その胸の石に似てるな」


 カモが、苦しげに言う。


「!」


「魔眼が生み出す莫大な魔力が、神聖力に変換されている」


「バカな、魔力と神聖力は水と油だぞ。交わるわけが……」


 リーザスは、信じられなかった。

 魔力と神聖力。本来、決して交わらない二つの力。それを融合させる——それこそが、ゾラの恐るべき技術なのだ。


「それをなんとかする技術なんだろうよ」


「!」


 崩れたはずの死体兵が、再び立ち上がる。

 そして、クレオもまた、立ち上がった。


「クレオ! やめろ、死ぬぞ!」


「うるせえ! 俺は第八騎士団の内定者だぞ! この程度で死ぬかよ!」


 血を吐きながらも、クレオは立ち上がる。

 だが、その足は、震えていた。


「無駄な抵抗です。大人しく、彼らの仲間入りをしてください」


 ルーカが指を鳴らすと、死体たちがクレオとリーザスへ、一斉に殺到した。



   ◇


 万事休すと思われた、その時。


 ヒュンッ……!


 闇の中から、音もなく、鋭い刃の閃光が走った。


 ドサッ!

 クレオに迫っていた死体兵の首が、切り飛ばされる。


 ドササッ!

 続けて二体、三体の死体兵が、崩れ落ちた。

 誰も、その斬撃を捉えられなかった。気配すら、なかった。まるで、闇そのものが牙を剥いたかのように。


 広場が、一瞬、静まり返る。全員が、息を呑んだ。


「な……誰だ……!?」


 クレオが、目を見開く。


「……!」


 リーザスも、言葉を失う。


「……!?」


 ルーカの笑顔さえ、消えていた。


 闇の中から、血を払いながら、男のシルエットが姿を現す。

 冷徹な、目。


 ゼファルドだった。

 常に一匹狼で、誰とも群れず、誰も信用しない男。あの竜騎士試験でも、真っ先に竜の声を聞いて、一人で闇の奥へと消えていった。その彼が、今、ここにいる。


「ゼファルド……!」


 リーザスは、思わず声を上げた。

 なぜ、こいつがここに。なぜ、毒の中で平然と立っていられる。疑問は尽きないが、今はただ、その登場が、地獄に差した一筋の光のように思えた。


「こいつ……毒の中で、平気な顔してやがる……!」


 カモが、驚愕する。

 竜であるカモがこれほど苦しんでいる瘴気の中、ゼファルドは眉一つ動かしていない。それが、どれほど異常なことか。


「やはり貴様がネズミだったか、ルーカ」


 ゼファルドの声が、静かに広場に響いた。

 その双眸は、氷のように冷たく、ルーカだけを見据えていた。

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