表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
PR
78/103

決裂と死者の群れ


「どうですか、リーザスさん。悪い話じゃないと思いますよ」


 ルーカが、穏やかに誘う。


「ゾラの技術があれば、あなたは無敵の戦士になれる。年齢の壁も、ノミの心臓も、全部過去の話になります」


「……」


 リーザスは、しばらく黙っていた。

 そして、静かに口を開く。


「お前、誰に物言ってるんだ?」


「!」


 ルーカの笑顔が、わずかに強張った。


「俺は十八年、この国の国民を守るために、騎士を目指してきたんだぞ?」


「……リーザスさん、こう考えてみてください。国よりも、個人の幸せを考えた博愛——ゾラの技術は……」


 なんとか言いくるめようとする、ルーカ。

 だが、リーザスは、それを遮った。


「そのゾラの技術ってのは、ビアンカを奪い、仲間を殺し、今お前が目の前で竜の死骸を量産した技術だろ」


 リーザスの拳が、震える。

 怒りで、震える。

 無敵の戦士になれる——確かに、魅力的な誘いではある。十年も雑兵をやって、ノミの心臓と笑われ続けた自分が、その劣等感から解放される。だが、その代償が、これだ。愛した人を奪った技術に、すがって生きろと言うのか。


「そんな国に尻尾を振るくらいなら——死んだ方がマシなんだよ!」


 その叫びには、一切の迷いがなかった。

 あがり症で、引っ込み思案で、いつも自分に自信がなかったリーザス。だが、この一点だけは、誰よりも揺るがなかった。守るために騎士になる。その初志だけは、何があっても、曲げない。


「そうですか。本当に、残念です。実は僕、リーザスさんを気に入ってたんですがね」


「……こっちのセリフだよ、馬鹿野郎」


 吐き捨てるように、リーザスが言う。


「……交渉は、決裂ですね」


「……」


 ルーカが、少し寂しそうに目を伏せた。

 その表情だけは、本物のように見えた。だからこそ、たちが悪い。


「なら、僕の神聖術をお見せしましょう」


 ルーカの額に、第三の目が光る。


「神聖術だと……?」


(かつて見せた、第三の目!?)


「僕の第三の目は、発動時間が短い。それが僕の弱点でもありました。ですが……」


 ルーカが、腕をまくる。

 そこには、怪しい魔眼が、移植されていた。


「!」


「ゾラの技術が、それを補ってくれた」


 不敵に、ルーカが笑う。



   ◇


 ルーカの掌の魔眼が、妖しく光り、死体の山へと向けられる。


 ガタッ……、カタカタッ……!


 広場に転がっていた、無数の受験者の死体が、不自然な動きで、一斉に立ち上がった。


「なっ……死体が……動いてる!?」


 リーザスが、息を呑む。


「神聖術の最高峰は、死者蘇生」


 死体たちの腕の骨が、皮膚を突き破り、鋭利な「骨の刃」へと変形していく。


「それを、このようにアレンジしました」


 死体が、おぞましく強化されていく。


「ゾラの技術と、セイラム神聖術の融合によって生まれた、痛みを感じない不死兵です」


 虚ろな目をした死体の群れが、骨の刃を構えて、ゆっくりとリーザスたちを囲んでいく。


「!」


「お前……仲間の死体で、こんなことを……!」


 怒りに、リーザスが震える。

 ついさっきまで、夢を追っていた若者たち。その亡骸を、武器として使い潰す。これ以上の、冒涜があるか。


「仲間? 彼らはもう死んでいますよ。ただの肉と骨です」


 ふんと、ルーカが笑い飛ばす。


 リーザスを囲む死体兵が、じりじりと近づいてくる。


「くっ」


 ホロウは、依然として沈黙したままだ。

 肩の上のカモが、苦しげに喘ぐ。


「おっさん……すまねえ……へたっちまって、力になれねえ」


 メルナも、地面に倒れたまま、必死に手を伸ばしている。


「ママ……私も、体が……」


「逃げるわけねえだろ」


(やべえ、俺も闘気が練れねえ)


(この毒、竜と竜騎士にも効くのか……)


 全体を覆う、紫の瘴気。

 毒は、リーザスからも、力を奪い続けていた。



   ◇


「メルナの命は奪いませんよ。彼女の竜核は、いい研究素材になりそうですから」


「お前……メルナに触れるな……!」


 そう言いつつ、リーザスは膝をついた。

 体に、力が入らない。


 死体兵が、刃を振り上げる。


 ドクン……ドクン……。


(くそ……立てねえ……)


 骨の刃が、リーザスに振り下ろされる——その寸前。


 ガキンッ!!


 血まみれの拳が、骨の刃を強引に弾き飛ばした。


「え……?」


 屍の山から這い出た男が、リーザスの前に立ち塞がる。


「ク、クレオ……」


「おや、クレオさんは生きてましたか」


 ルーカが、意外そうに言う。


「ゼェ……ゼェ……」


 クレオは、満身創痍だった。

 全身傷だらけ。それでも、その目には、闘志の炎が燃えていた。

 あの日、竜の声に大喜びで駆けていった男。きっと、契約した竜と共に、どこかで死闘を繰り広げたのだろう。そしてボロボロになりながらも、ここまで戻ってきた。仲間が殺されるのを、黙って見ていられなかったのだ。


「勝手に殺してんじゃねえぞ、クソ野郎……!」


「全部聞いてたぜ、ルーカよぉ」


 クレオが、ぎろりとルーカを睨む。


「お前がゾラのスパイってなら——第八騎士団の騎士として、俺がお前を倒す」


 倒れかけたリーザスたちの前に、思わぬ援軍が、立ち上がっていた。

 毒に蝕まれ、力を失ったリーザス。竜化の毒に苦しむメルナとカモ。絶望的な状況に、一筋の光が差す。

 ——だが、相手は不死の軍勢を操る、ゾラの暗殺者。戦いは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ