表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
PR
74/96

お礼参り



 ズズン……ッ!!

 アシッドドラゴンの巨体が、崩れ落ちる。


 強靭な鱗ごと真っ二つに両断された首が、地響きとともに転がった。


「ふぅ……」


 白銀の大剣を構えたリーザスが、安堵の息を吐く。


 シュゥゥゥ……。

 大剣が光を放ちながらドロドロに溶け、元の小さな竜の姿へと戻っていく。


「ゼェ……ゼェ……。すげえ威力だが、やっぱ燃費がバカになんねえな……」


 息も絶え絶えのカモが、リーザスの足元にへたり込んだ。


「大丈夫か、カモ。……だが、最高の切れ味だったぞ」


 リーザスは、カモを拾い上げて、肩に乗せた。


「ママッ! 怪我はないですか!?」


 メルナが、駆け寄ってくる。


「ああ、無傷だ。……これで一応、俺も竜と契約したってことになるんだよな」


 リーザスは、自分の胸の石と、肩のカモを見比べた。


「へっ、当たり前よ。お前は立派な『竜騎士』だぜ、おっさん」


「……飛べない竜と、おっさんの竜騎士か。笑えるな」


 リーザスは、苦笑する。

 夢に見た、銀色の竜の背に乗る竜騎士とは、まるで違う。だが、不思議と悪い気はしなかった。


 メルナの目に、涙が溜まっている。


「……本当に良かった、ママ」


 リーザスは、メルナの頭をポンと撫でた。


「心配かけたな」


 そして、上を見上げる。


「さて、試験の条件は満たした。こんな穴底からは、おさらばしようぜ」


 遥か上方に続く、険しい縦穴。

 そこを抜けた先に、ようやく、出口がある。



   ◇


「メルナ、しっかり捕まってろよ」


「はい、ママ」


 メルナは、リーザスの背中にしがみつき、幸せそうに顔をくっつけている。


 リーザスはメルナを背負い、闘気で身体を強化して、岩壁を跳躍しながら登り始めた。

 その身のこなしは、軽やかだった。ホロウの力なのか、契約の力なのか。体に、力が漲っている。


「……それにしても、静かだな」


 カモが、肩にしがみつきながら周囲を見渡す。


「俺が気絶してからもう丸一日は経ってる。試験も終盤だ」


 リーザスは、岩壁を蹴りながら答えた。


「優秀な奴らは、とっくに脱出してる。ダメだった奴らも、出口に向かってる頃合いだろ」


「底の底にいる俺たちが、一番ビリの居残り組ってわけだ」


「ビリでも、生きて帰れりゃ十分だ」


 テンポ良く岩壁を蹴り、どんどん上へと登っていく。


「にしても、おっさん。お前に聞いときたいんだが」


 カモが、ふと声をひそめた。


「俺は剣だけじゃねえぞ。槍にも、盾にも、斧にもなれる。万能の武器だ」


「マジか! それはすげえな」


「ただし全部、お前の闘気と、あの石の力次第だがな」


 カモは、そう言って、背中にいるメルナを、じっと見た。


「……なあ、姉ちゃん。お前、一体何者だ?」


「え……?」


「お前の体内にある竜核の波動を感じたんだ。古代竜の俺でも、背筋が凍るほどの気配だった」


 カモの声が、真剣味を帯びる。


「しかもその竜核のエネルギーが、おっさんの胸の石に流れ込んでやがる。つまり、俺の燃料の大元は、お前ってことだ、姉ちゃん」


 メルナの表情が、不安げに曇った。


「もし完全に覚醒したら、とんでもねえ化け物クラスの竜になる。……お前、自分が怖くねえのか?」


 メルナは、俯いた。

 自分の中に眠る、得体の知れない力。それは、いつもメルナの心に影を落としている。


「……お前がどうなろうと、俺が面倒みる。だからそんな顔すんな」


 リーザスが、照れ臭そうに、前を向いたまま言った。

 その一言に、メルナの顔が、ぱっと明るくなる。



   ◇


 ダンッ!

 リーザスが大きく跳躍し、縦穴を抜けて、上層の回廊へ着地した。


「よし、元のルートに戻ったぞ。このまま進めば、出口の広場だ」


「へっ、ようやくカビ臭い空気とお別れできるぜ」


「ママ、あそこに誰か……」


 カツン……、カツン……。

 前方から、複数の足音が近づいてくる。

 リーザスが警戒し、メルナを庇った。


 薄暗い回廊の奥から姿を現したのは——。


「クソが! 上の階層の竜、なんで全部死んでやがる!」


 ベルモットだった。


「兄ちゃん、これじゃ俺たち契約できないよぉ……」


 バークレーも、後ろからついてくる。


 二人の足が、止まった。


「……は?」


 リーザスを見て、ベルモットの目が見開かれる。


「おいおい冗談だろ……? あの高さから落ちて、生きてやがったのか」


「あはは! しかも何そのチビトカゲ! そんなゴミと契約したの?」


 バークレーが、嘲笑する。


「テメエ、今なんつった……!」


 カモが、ぴくりと反応した。


「イラついてたところだ。憂さ晴らしに、肉片にしてやるよ」


 二人が、下劣な笑みを浮かべ、武器を構える。


「……カモ」


「おう」


「お前、もう一回剣になれるか」


「……せいぜい、一太刀だぞ」


 リーザスは、ニヤリと笑った。

 かつての自分なら、武器を持った相手二人を前に、心臓が暴走して震えていただろう。だが今は——不思議と、肝が据わっていた。仲間を傷つけ、騙し、メルナを「贄」にしようとした奴ら。その報いは、きっちり返してやる。


「十分だ。ちょっと『お礼参り』をしてから、帰るとするか」


 白銀の光が、再びリーザスの右腕に集まり始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ