表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
PR
73/90

竜騎士リーザス


「私が、この人間たちを捕食するところを……」


 アシッドが、舌なめずりをする。


 だが、その前に——小さな影が、立ちはだかった。


「!」


 カモだった。

 震える足で、それでも、リーザスを守るように前に出る。


「いいから決めな、おっさん。……俺と組むか、ここでくたばるかをよ!」


 背中越しに、カモが叫んだ。


「カモ、何を邪魔しているのです? あなたは、飛べない雑魚竜」


 アシッドが、見下すように言う。


「いつも通り我々に隠れて、残飯を漁って生きていけばいいのです」


 カモが、ギリッと奥歯を噛んだ。

 その言葉は、何百年も浴びせられてきた、呪いのような言葉だった。


 足を、踏ん張る。


 ドゴッ!!

 カモが、弾丸のように飛び出し、アシッドの顎に強烈な「石頭」の頭突きを食らわせた。


「ぶげらっ!」


 巨体が、わずかに仰け反る。


「舐めんなよ。俺がテメエらに頭を下げていたのは——這い上がるチャンスを待つためだ!」


 カモが、吠えた。


「おっさん! 早く手を!」


「ママ、気をつけて! 何かの罠かも!」


 メルナが、不安げに叫ぶ。


「……いや」


 リーザスは、スタスタとカモの前に歩み出た。

 そして、まっすぐにカモを見下ろす。


「悪かった。お前の言う通り、見栄張って頭が硬いのが、おっさんの悪い癖だったよ」


「へー、ようやく理解したみたいだな。じゃあ、手を差し出せ」


 カモと、リーザス。

 二人の手が、しっかりと握り合わされた。

 選ばれなかった男と、選ばれなかった竜。その手が、今、固く結ばれる。

 誰からも必要とされなかった者同士が、互いを認め、互いを必要とする。それは、この山で初めて結ばれる、対等な契約だった。



   ◇


「ふざけるな! まとめて溶けてなくなれ!」


 アシッドが、激怒する。


 ボワアァァァッ!!

 致死量のアシッドブレスが、吐き出された。


 バシュゥゥゥッ!!

 酸の濁流が、二人を完全に飲み込む。


 二人から、モクモクと白煙が上がった。


「ママッ!!」


 メルナが、悲鳴を上げる。


「ククククク……どんな強靭な金属すら溶かす、我が酸の前では……」


 アシッドが、勝ち誇る。

 だが——煙が晴れると、そこには、無傷の二人がいた。


 闘気を纏ったリーザスと、その腕にしがみつくカモ。

 カモの尻尾が、傘のように変形して、酸を防いでいた。


 その光景に、メルナは大きく息を呑んだ。

 もうダメだと思った。あの致死の酸を浴びて、生きていられるはずがない。なのに——リーザスは、無傷で立っている。新しい相棒と共に。

 その背中が、いつもより、ずっと大きく見えた。


「すげー闘気じゃねーか。おかげで俺の『硬化』が、広範囲に張れたぜ」


 カモが、ニヤリと笑う。


「お前、足に唾——酸かかってんぞ。バッチぃな」


「馬鹿野郎。俺の体に、あんな酸効くもんか!」


 カモが、誇らしげに言った。


「行くぞ! 本契約だ!」


 握り合った手から、光が溢れ出す。

 二人の魂が、繋がっていく。


 精神世界。

 リーザスとカモの意識が、同調していく。


「!」


(不思議だ。さっきまで疑っていたのに……今、俺はコイツを完璧に信頼出来る)


「けっ、なんだこのおっさん臭い、古びた魂は!」


「……前言撤回!!」


「だが、今なら俺の真の力が使えるぜ!」


 カモの体が、眩い白銀の光に包まれた。



   ◇


 ドクンッ!!

 リーザスの胸の石——ホロウから、莫大なエネルギーが、カモに流れ込む。


「うおおお! すげえ力だ! これならいける!!」


 カモの体が、ドロドロの液体金属へと変形していく。


 ジャキィィィン!!

 リーザスの右腕に、巨大で神々しい「白銀の大剣」が出現した。


「今日は剣になってやったぜ! ぶった斬れ、相棒!」


 鍔のレリーフから、カモが叫ぶ。


「ふざけるな! 酸など使わなくても、この爪と牙があれば!」


 アシッドが地を蹴り、巨大な爪を振り下ろしてくる。


「すげえ。これが竜でできた剣……!? これなら!」


 リーザスが、長年染み付いた剣の型に、構える。

 万年雑兵として、何千回、何万回と繰り返してきた、あの型。練習では百発百中だった、あの斬撃。

 ——試験になると、あがり症で必ず失敗していた、あの斬岩剣。だが、今は違う。背中には信頼できる相棒がいて、守るべきメルナがいる。心臓は、もう震えていなかった。


 アシッドの巨体と、飛び込んだリーザスが、交差する。


「【斬岩剣】!!」


 ズバァァァァァァン!!

 すれ違う、二人。


 ピッと、リーザスの頬が薄く切れて、血が滲んだ。


 ピタ……と、アシッドドラゴンの動きが止まる。


 ズズン……ッ!!

 強靭な鱗ごと真っ二つに両断され、アシッドの首が、崩れ落ちた。


 完璧な、一太刀だった。

 万年雑兵が、十年間どうしても本番で出せなかった技。それを、命を懸けた最大の本番で、リーザスはついに、放ってみせたのだ。


「ママぁぁっ!!」


 メルナが、駆け寄ってくる。


「へへ、よろしくな相棒!」


 リーザスが、白銀の大剣を肩に担ぐ。


「おうよ!」


 誰からも選ばれず、十年間落ち続けた、万年雑兵。

 飛べないと馬鹿にされ、数百年見捨てられてきた、金剛竜。

 その二人が、今、互いを相棒と呼んでいた。


 ——この日。

 底辺からの逆襲を誓う、新たな「竜騎士」が、誕生した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ