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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
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カモ


「契約だとお?」


 リーザスが、訝しげに聞き返す。


「ああ、そうだ。俺の名はカスティリオ・モルガナイト。他の竜からは、カモと呼ばれている」


 小さなトカゲのような竜が、胸を張った。


「こう見えても、由緒正しき古代竜種の金剛竜だ」


「金剛竜だと? そんなもん、聞いたことねえぞ」


「そりゃそうさ。世界に何頭もいない、希少種だ」


 カモが、ふんぞり返る。


「そんな貴重な俺様から、お前に提案がある。俺と契約して、竜騎士にならないか?」


「!」


(まじかよ。俺が、竜に選ばれた!? ってことは、俺もついに竜騎士に……!)


 リーザスの脳内に、巨大な竜に乗って大空を駆ける、ヒロイックな自分のイメージが浮かんだ。

 あの夢で見た光景。銀色の竜の背で、風を受ける自分。それが、今、現実になろうとしている——

 十年。いや、それ以上、追い求めてきた夢だ。誰からも雑兵と笑われ、ノミの心臓と馬鹿にされてきた自分が、ついに竜騎士になる。その瞬間が、すぐそこに。


「っていや、いやいやいやいや!」


 我に返って、リーザスは目の前のチビトカゲを見た。


「お前、そもそも俺を乗せて飛べるのか?」


「……まあ、絶対に無理だな」


 カモが、あっさり言う。


「俺は自分自身ですら、ほとんど飛べねえ。お前みたいなおっさん乗せたら、潰れちまう」


「もしかして幼竜って事か? これから成長するとか……」


「舐めんなよ。俺は立派な成竜だ。これ以上、成長するわけねえだろ」


 ドヤ顔で、カモが言い切る。


「は?」


 リーザスが、真顔になった。



   ◇


「行こう、メルナ」


「はい、ママ……!」


 メルナは、怯えたようにリーザスの腕に、ギュッとしがみついている。


「待て待て待てい! 無視すんな!」


 カモが、慌てて追いすがる。


「おっさん、自分を高く見積もってんじゃねえぞ? お前を選ぶ竜が、俺以外にいると思ってんのか?」


「!」


「言っておくが、竜は若い人間の魂を好むんだ。本来、お前みたいなおっさんは、絶対に選ばない」


「ぐぐっ」


 痛いところを、突かれた。


「……にも関わらず、お前は俺を拒んだ。何様だよ!」


「いや、だって竜に乗るから、竜騎士なんだって」


「頭が硬い!」


 カモが、ぴしゃりと言う。


「だからおっさんはダメなんだ! 固定観念に縛られすぎている! そんな魂だから、お前らおっさんは、竜から相手にされないんだ!」


「……」


「本来、これはお前に渡された、唯一で最高の奇跡なんだよ!」


(た、確かに、こいつの言う通りだ……でも……何か……!)


 リーザスは、考え込んだ。

 カモの言葉は、いちいち正論だ。誰からも選ばれなかった自分に、唯一声をかけてくれた竜。普通なら、飛びつくべき話だ。


 だが——どこかに、引っかかりがあった。


「おかしい……」


「あ?」


「よく考えたら、お前だっていつまでも人間と契約できないのも、おかしいだろ?」


「……!」


 カモの動きが、止まった。


「確かに飛べないのはデメリットだ。だが、竜と契約したら本来、人間は何かの能力を手に入れる」


 リーザスは、じっとカモを見据える。


「だったら、飛べなくても、お前と契約してくれそうな人間は、今までいたはずだ。なのに、なぜいない!?」


 カモの目が、泳いだ。


「お前、何か隠してるな!?」



   ◇


「ギクッ!」


 図星を突かれ、カモが冷や汗を流す。


「……あ、ああ、そうだ。俺の能力は『万能の武器』になることだ。だが……」


 カモは、観念したように、白状した。


「燃費が最悪なんだよ! 並の人間じゃ、俺の硬化に魔力を吸われて、一瞬で干からびちまう!」


「!」


「だから俺は、誰からも選ばれなかった! 飛べない、使えない、ただの石ころ扱いだ!」


 カモが、自虐的に叫ぶ。

 その声には、数百年分の、孤独と屈辱が滲んでいた。

 乗れない竜。燃費の悪い竜。そのたびに人間は、嘲笑を残して去っていった。何百年も、何千回も。期待しては裏切られ、また期待しては裏切られ——いつしかカモは、自分のことを「価値のないもの」だと、信じ込むようになっていた。


「だが! お前の胸に埋まった、その石の莫大なエネルギーがあれば……俺は、最高の剣になれる!」


 それは、嘆願にも、祈りにも聞こえた。


「この石が……」


 リーザスは、胸にめり込んだ石に触れた。


(なんでビアンカから貰った石が、めり込んでるんだ。でも……すげえ力を感じる)


「その石、私の竜の魔力を吸いました。今は、生きています」


 メルナが、静かに言った。


「……!」


 その時。

 ズズン……と、重い足音が、洞窟の奥から近づいてきた。


「ッ……ママ、この気配」


 メルナが、リーザスの袖を強く引く。


「さっき志願者を二人、溶かした竜です」


 暗闇の中から、全身から不気味な酸を滴らせる巨体が、姿を現した。


「騒がしいですね、カモ。……また人間に媚びているんですか?」


「!!」


(こいつが……あの二人を殺した竜か)


「今日は生贄祭。たくさん人間が殺せる、素晴らしい日です」


 アシッドの口の中から、エイリアンのような小さな口が覗き、酸の涎を垂らして迫る。


「まあ、あなたのような飛べない雑魚竜には、関係ないでしょう。目の前で見ていなさい」


 アシッドの目が、リーザスたちを舐めるように見た。


「私が、この人間たちを捕食するところを!!」

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