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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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血戦    


「竜が、俺たちを殺せと!?」


 リーザスは、信じられないという顔をした。


「そうだ。契約の条件は『ライバルの排除』」


 ベルモットが、こめかみをトントンと指差す。


「さっきから、頭の中にガンガン響いてくるんだよ」


 そして、凶悪な笑みを浮かべた。


「『我を欲すれば、力を示せ。贄を捧げよ』ってね」


「贄だと……?」


「要は『強い竜と契約したけりゃ、仲間の首を持ってこい』ってことだ」


「アタシたちの狙ってる竜、グルメだからぁ♡」


 バークレーが、舌なめずりをする。

 二人から、ドス黒い闘気が溢れ出した。


(マジかよ……竜ってのは、そんな野蛮な生き物なのか?)


 リーザスは、冷や汗を流しながら後退る。

 契約のために、人を殺す。竜の世界の論理は、人間のそれとは、根本から違っていた。


 いや——と、リーザスは思い直す。

 ベルモットたちが、本当にその命令に従っているのか。それとも、もともと奪う気だった奴らに、竜の声がちょうど都合のいい口実を与えただけなのか。どちらにせよ、結果は同じだ。目の前の二人は、本気でこちらの首を狙っている。


 遊びでも、脅しでもない。

 ここで負ければ、自分もメルナも、文字通り「贄」として喰われる。


(落ち着け……落ち着けリーザス。あがってる場合じゃねえ)


 それでも、心臓は早鐘のように打っていた。

 最悪のタイミングで顔を出す、あがり症。その悪癖が、今まさに、指先の震えとなって現れている。


 ヒュンッ!!

 ベルモットが、踏み込んだ。

 突き出された「舌の剣」が、槍のようにリーザスを襲う。


「うおっ!?」


 リーザスは、紙一重で首を逸らした。

 それでも、頬が裂け、つっと血が滲む。


(はええ! 布だと思って油断すると、死ぬぞ!)


「アタシも混ぜてよぉ!」


 ブンッ!

 奪われた「鱗の剣」が、豪快な横薙ぎで迫る。


「くそっ!」


 リーザスは、バックステップでかわす——が、背中は既に壁だった。


 ドォォン!

 鱗の剣が、壁の岩を粉砕する。砕けた岩片が、四方に飛び散った。


(威力おかしいだろ! こいつ、闘気量がやべえ!)


 ヒュンヒュンと、ベルモットが剣を鞭のようにしならせる。


「へっ、逃げ場はねえぞ。大人しく首を置いてけ!」


 ズオオと、バークレーが闘気を噴出させた。


「ずるいよ。そいつの首は、アタシがもらうわぁ」


 リーザスは構えるが、その手は震えていた。


(こっちは素手、相手は武器持ちの二人……やべえ)



   ◇


「……加速」


 メルナが、低く呟いた。


 ギュンッ!

 その姿が、かき消えるほどの速度で動く。


 ドゴッ!!


「ぐえっ!?」


 反応できずに顔面を殴られ、ベルモットが吹き飛んだ。


「ママをいじめる奴は……許しません」


 メルナの瞳が、赤く発光する。

 その頬に、「竜の鱗」が、ぞわりと浮き上がり始めた。


「この女ぁ!」


 バークレーが、鱗の剣で殴りかかる。


 ガシィッ!

 メルナは、片手でその剣の腹を、受け止めた。


「!?」


 ミシッ……ミシッ……。

 メルナの指が、鋼鉄の鱗に、めり込んでいく。


「嘘でしょ……素手で……!?」


 ドォォン!!

 空いた手で、メルナがバークレーの腹に拳を叩き込む。


「グッふうぅぅ!!」


 巨体が、くの字に折れた。


「バカ! メルナ! 魔法は使うなと言ったろ!」


 リーザスが、駆け寄る。


「ママは……私が……守る……コロス……」


 メルナの焦点が、合っていない。

 こめかみから、小さな「角」が、生えかけていた。


(ヤベえ、竜化が進んでる!)


「バカ野郎! 娘を守るのは、親の役目だ!」


 リーザスは、メルナの肩を掴んで揺さぶった。


「お前が人じゃなくなったら……俺は耐えられねえ!」


「ッ……」


 リーザスの声に、メルナの瞳から、赤い光が少し引いた。


(って、あれ、俺何言ってんだ?)


 言ってから、リーザスは我に返る。


(ママ、ママって懐かれたから、親心出ちまったのか?)


 立ち上がってくるバークレーたちを見る。


(親じゃねえのに。てか、ママどころか、おっさんなのに!)


 それでも、体は動いた。

 メルナを背に庇うように、リーザスは構える。

 理屈ではない。この子を、人でなくしてはならない。その一心だった。



   ◇


 ダダダッ!

 構えながら、リーザスが走り出す。


(こうなったら、全闘気を飛ばして、目くらましにするしかねえ!)


「食らえ! 竜爪……爆撃掌ッ!!」


 リーザスの掌から、暴風のような闘気の塊が放たれた。


「小賢しい!」


 ベルモットが、蛇腹剣を回転させ、全ての闘気弾を叩き落とす。


「まとめて死になさいよぉ!」


 バークレーが、剣に闘気を乗せ、巨大な斬撃を飛ばした。


 カッ!

 回避不能の斬撃が、動けないメルナへと迫る。


(くっ!)


 ドンッ!

 リーザスは、両手を広げて、メルナの前に立ち塞がった。

 背中で全てを受け止める、仁王立ち。


 ズバァァァン!!

 リーザスの背中が、深々と切り裂かれる。


「ごおおおおおッ!!」


「ママ!」


「大丈……夫、だ……」


 ドサッ……。

 リーザスが、膝から崩れ落ちる。

 背中から、大量の血が流れ出していた。


(やべえ……意識が飛ぶ……大ダメージだ……)


 視界が、霞んでいく。


「ママァァァァァ――ッ!!」


 メルナの絶叫。

 その体が、再び竜へと変わろうとする。


「なんだ? この女、気味悪い……」


 ベルモットとバークレーが、トドメを刺しに歩み寄る。


「逃げろ……メルナ……」


 リーザスは、必死で顔を上げる。だが、力が入らない。


(ダメか……このままじゃ、二人とも……)


 絶望が、心を支配しかけた——その時。


『……おい』


 リーザスの頭に、直接「声」が響いた。


『助けてやろうか?』


(え……?)


 霞む視界。

 天井を見上げたリーザスの目に映ったのは——。

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