受験者同士
◇
「さすが、リーザスさん。やっぱ格技で活躍してただけあるわ」
ベルモットが、にこやかに言った。
先ほどまでの殺気は、嘘のように引っ込んでいる。
(こいつら、ダミアンゼミの……)
リーザスは、警戒を解かない。
「そんなに警戒しないでくださいよ。俺たちは敵じゃないっす」
「!?」
予想外の言葉に、リーザスは面食らった。
「生き残るためにダミアンに媚びてきましたが、無事に竜騎士になったら、ダミアンに言ってやりますよ」
ベルモットは、ひょいとバークレーを指差した。
「このハゲって!」
「!!」
名指しされたバークレーが、ぎょっとする。
「にいちゃん、酷いよ……」
巨体を縮めて、涙ぐむバークレー。
「ごめんごめん、バークレー。お前も十九歳で若ハゲだもんな」
その兄弟漫才のようなやりとりに、リーザスは思わず、プッと噴き出した。
警戒していた緊張が、すっと緩んでいく。
「お前ら、こんなとこで何してたんだ?」
「俺ら兄弟で竜騎士試験に応募したんすけど、この山、本当におっかなくて」
ベルモットが、ばつが悪そうに頭を掻く。
「二人で震えていたところに、リーザスさんとメルナさんがやってきて」
「……」
「やっぱ、内定者は違うっす。出来れば、山道をご一緒させて欲しいっす」
「一緒に?」
「はい。どうせ決めるのは竜じゃないっすか。受験者同士で争っても、しょうがないっす」
ベルモットの言葉には、妙な説得力があった。
「だったら、協力して生存確率を上げた方が、良くないっすか?」
「……!」
リーザスは、少し考えた。
確かに、その通りだ。竜が選ぶ以上、人間同士で潰し合う意味はない。むしろ、数が多いほうが、野生の竜から身を守れる。
「そ、それもそうだな」
「話がわかる! さすがリーザスさん!」
ベルモットが、ぱっと顔を輝かせる。
(俺は何を警戒してたんだ。こんな年下の男の子相手に、おっさんが情けない)
リーザスは、自分の小心ぶりに苦笑した。
——だが、その隣で。
メルナだけが、無言で二人を見つめていた。
「……」
その瞳には、リーザスには見えていない何かが、映っている気がした。
◇
「その剣、すごいっすね。ソードドラゴンの鱗なんて、初めて見た!」
ベルモットが、リーザスの手にした鱗の剣に、目を輝かせる。
「ちょっと触らせてくれませんか?」
「これ?」
リーザスは、警戒もなく剣を見やった。
あれだけ気さくな二人だ。断る理由もない。
「ああ、別にいいけど」
そう言って、手渡そうとした——その時。
「ダメです! ママ!」
メルナが、鋭く叫んだ。
「彼らの心音に、変化が……」
胸を押さえながら、メルナが顔をしかめる。
「おいおい、また魔法使ったのか? これ以上使うなと——」
リーザスが言いかけた、その瞬間。
パッ。
鱗の剣が、ベルモットの手に奪い取られていた。
「あ」
ベルモットは、奪った剣を、すっとリーザスに向ける。
「ほう……こいつはいい。天然の剛剣だ」
その目つきが、変わっていた。
「お、おい。人に向けるなよ」
ヒュン!
ベルモットが、フッと剣を背後に放り投げた。
パシッ。
背後にいたバークレーが、それを片手でキャッチする。
「あ?」
リーザスの理解が、追いつかない。
バークレーは、剣をブンブンと振ってみせた。
「んもう♡ 重さも重心も、アタシにぴったりじゃない!」
「おい、返せよ。それは俺の……」
「『俺の』?」
ベルモットの声色が、氷のように冷たくなった。
「何言ってんだ、おっさん」
◇
「な、何って」
リーザスが、たじろぐ。
「それは最初から、バークレーの剣だろ?」
ニヤリと、ベルモットの口元が歪んだ。
「……は?」
状況が、飲み込めない。
「ありがとうねぇ、おっさん。アタシ、合う武器がなくて困ってたのよぉ」
バークレーの背後から、ドス黒い闘気が立ち昇る。
(だ、騙された……!? こいつら、最初から奪う気で……!)
リーザスの顔が、蒼白になる。
メルナの警告は、正しかったのだ。あの気さくな笑顔も、兄弟漫才も、全部、油断を誘うための芝居だった。
「俺ら騎士の実力は、剣を持ってこそ発揮される。だが、この竜騎士試験は、素手で入山するのがルール」
ベルモットが、淡々と語る。
「だから、竜に認められるためには——どうやって中で武器を手に入れるか」
彼は、腕に巻きつけていた布を、シュルシュルと解いた。
「もしくは、どうやって持ち込むか……」
その布を、ぴしりと振る。
次の瞬間、布は硬質な剣へと姿を変えた。
「エビルフロッグの舌を乾燥させたものだ。一見ただの布だが——闘気を通せば、鋼の強度に変わる」
「……ママを愚弄しましたね」
メルナの瞳が、冷たく光った。
「メルナ! 待て! 怒るな!」
リーザスが、慌ててメルナを制する。
「ですが……!」
「お前の体の方が大事だ! 魔法は使うな!」
リーザスは、メルナを背に庇うように立った。
そして、ベルモットを睨みつける。
「何が目的だ!? 俺たちが争ったって、しょうがないだろ?」
「目的?」
ベルモットが、唇を吊り上げた。
「竜から命じられてるんだよ……」
その声に、狂気が滲む。
「お前らを殺し、力を見せろ——ってな」




