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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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受験者同士

   ◇


「さすが、リーザスさん。やっぱ格技で活躍してただけあるわ」


 ベルモットが、にこやかに言った。

 先ほどまでの殺気は、嘘のように引っ込んでいる。


(こいつら、ダミアンゼミの……)


 リーザスは、警戒を解かない。


「そんなに警戒しないでくださいよ。俺たちは敵じゃないっす」


「!?」


 予想外の言葉に、リーザスは面食らった。


「生き残るためにダミアンに媚びてきましたが、無事に竜騎士になったら、ダミアンに言ってやりますよ」


 ベルモットは、ひょいとバークレーを指差した。


「このハゲって!」


「!!」


 名指しされたバークレーが、ぎょっとする。


「にいちゃん、酷いよ……」


 巨体を縮めて、涙ぐむバークレー。


「ごめんごめん、バークレー。お前も十九歳で若ハゲだもんな」


 その兄弟漫才のようなやりとりに、リーザスは思わず、プッと噴き出した。

 警戒していた緊張が、すっと緩んでいく。


「お前ら、こんなとこで何してたんだ?」


「俺ら兄弟で竜騎士試験に応募したんすけど、この山、本当におっかなくて」


 ベルモットが、ばつが悪そうに頭を掻く。


「二人で震えていたところに、リーザスさんとメルナさんがやってきて」


「……」


「やっぱ、内定者は違うっす。出来れば、山道をご一緒させて欲しいっす」


「一緒に?」


「はい。どうせ決めるのは竜じゃないっすか。受験者同士で争っても、しょうがないっす」


 ベルモットの言葉には、妙な説得力があった。


「だったら、協力して生存確率を上げた方が、良くないっすか?」


「……!」


 リーザスは、少し考えた。

 確かに、その通りだ。竜が選ぶ以上、人間同士で潰し合う意味はない。むしろ、数が多いほうが、野生の竜から身を守れる。


「そ、それもそうだな」


「話がわかる! さすがリーザスさん!」


 ベルモットが、ぱっと顔を輝かせる。


(俺は何を警戒してたんだ。こんな年下の男の子相手に、おっさんが情けない)


 リーザスは、自分の小心ぶりに苦笑した。


 ——だが、その隣で。

 メルナだけが、無言で二人を見つめていた。


「……」


 その瞳には、リーザスには見えていない何かが、映っている気がした。



   ◇


「その剣、すごいっすね。ソードドラゴンの鱗なんて、初めて見た!」


 ベルモットが、リーザスの手にした鱗の剣に、目を輝かせる。


「ちょっと触らせてくれませんか?」


「これ?」


 リーザスは、警戒もなく剣を見やった。

 あれだけ気さくな二人だ。断る理由もない。


「ああ、別にいいけど」


 そう言って、手渡そうとした——その時。


「ダメです! ママ!」


 メルナが、鋭く叫んだ。


「彼らの心音に、変化が……」


 胸を押さえながら、メルナが顔をしかめる。


「おいおい、また魔法使ったのか? これ以上使うなと——」


 リーザスが言いかけた、その瞬間。


 パッ。

 鱗の剣が、ベルモットの手に奪い取られていた。


「あ」


 ベルモットは、奪った剣を、すっとリーザスに向ける。


「ほう……こいつはいい。天然の剛剣だ」


 その目つきが、変わっていた。


「お、おい。人に向けるなよ」


 ヒュン!

 ベルモットが、フッと剣を背後に放り投げた。


 パシッ。

 背後にいたバークレーが、それを片手でキャッチする。


「あ?」


 リーザスの理解が、追いつかない。


 バークレーは、剣をブンブンと振ってみせた。


「んもう♡ 重さも重心も、アタシにぴったりじゃない!」


「おい、返せよ。それは俺の……」


「『俺の』?」


 ベルモットの声色が、氷のように冷たくなった。


「何言ってんだ、おっさん」



   ◇


「な、何って」


 リーザスが、たじろぐ。


「それは最初から、バークレーの剣だろ?」


 ニヤリと、ベルモットの口元が歪んだ。


「……は?」


 状況が、飲み込めない。


「ありがとうねぇ、おっさん。アタシ、合う武器がなくて困ってたのよぉ」


 バークレーの背後から、ドス黒い闘気が立ち昇る。


(だ、騙された……!? こいつら、最初から奪う気で……!)


 リーザスの顔が、蒼白になる。

 メルナの警告は、正しかったのだ。あの気さくな笑顔も、兄弟漫才も、全部、油断を誘うための芝居だった。


「俺ら騎士の実力は、剣を持ってこそ発揮される。だが、この竜騎士試験は、素手で入山するのがルール」


 ベルモットが、淡々と語る。


「だから、竜に認められるためには——どうやって中で武器を手に入れるか」


 彼は、腕に巻きつけていた布を、シュルシュルと解いた。


「もしくは、どうやって持ち込むか……」


 その布を、ぴしりと振る。

 次の瞬間、布は硬質な剣へと姿を変えた。


「エビルフロッグの舌を乾燥させたものだ。一見ただの布だが——闘気を通せば、鋼の強度に変わる」


「……ママを愚弄しましたね」


 メルナの瞳が、冷たく光った。


「メルナ! 待て! 怒るな!」


 リーザスが、慌ててメルナを制する。


「ですが……!」


「お前の体の方が大事だ! 魔法は使うな!」


 リーザスは、メルナを背に庇うように立った。

 そして、ベルモットを睨みつける。


「何が目的だ!? 俺たちが争ったって、しょうがないだろ?」


「目的?」


 ベルモットが、唇を吊り上げた。


「竜から命じられてるんだよ……」


 その声に、狂気が滲む。


「お前らを殺し、力を見せろ——ってな」

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