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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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ストレス発散



「二人同時にかかってきなさい」


 来い来い、と手招きするコーネリア。

 その構えには一切の隙がなく、立ち姿だけで格の違いを感じさせた。騎士団長。この国でも指折りの実力者が、今、無造作にこちらへ掌を向けている。


 リーザスは、ぴたりと足を止めた。

 そして、考えた。


「お、おかしいじゃないか!?」


「何が!?」


「わざわざ、こんな所で俺らと戦う必要はない。実力を測るだけなら、訓練の記録を見ればいい。それをこの場で、しかも“二人同時”だなんて——俺らと今やるのは、別の理由があると見た」


「ほう」


 コーネリアの片眉が、わずかに上がった。

 リーザスは、ここぞとばかりにビシッと指を突きつける。


「すなわち——ストレス発散!」


「!」


 図星だったのか、コーネリアの肩がぴくりと動いた。


「あなたはリオンから受けたストレスを、指導と称して俺たちにぶつけたくなっただけ——」


 言い切らないうちに、コーネリアが、すっと歩き出した。

 笑顔のまま。だが、目だけが笑っていない。


「リーザス」


 ぐっと、凄む。

 その一歩で、リーザスの言葉は喉の奥に引っ込んだ。


「……!」


「私はお前の内定を、いつでも取り消すことが出来るんだぞ?」


 メルナが、傍らでドキドキと見守っている。

 空気が、不穏に張り詰めていく。


「それを知ってのものいいか?」


 コーネリアは、ふいに後ろを向いた。

 リーザスは、ほっと気を緩めかける。


「え、いや」


「だが!」


 次の瞬間——後ろ蹴りが放たれた。

 振り向きざまの、不意打ち。リーザスは咄嗟に腕を上げてガードする。鈍い衝撃が、骨まで響いた。


「貴様の考えは、概ね正しい。たった一つ違うとすれば——」


 コーネリアは、にやりと笑った。


「私はこれから貴様をぶちのめすのに、指導の建前を取るつもりはない」


「じゃ、じゃあなんですか!?」


「ストレス発散」


「まんまじゃねえか!」


 悪びれもしない返答に、リーザスは思わず叫んだ。


 リラックスした足取りで、コーネリアが前に出る。肩の力は抜けているのに、一挙手一投足に圧がある。歴戦の余裕、というやつだ。


「騎士団長が、そんなことしていいのかよ」


「大丈夫よ」


 構える。

 その指先が、わずかに揺らめいた。


「怪我しても、神聖術で治してあげるわ」


「……!」


「ただ」


 すっ、と左拳を前に出して。

 彼女は、囁くように言った。


「死んだら治せないけど……」


 その反動を利用して——右ストレートが、放たれた。


「ね!」


 ——と見せかけて、軌道が変わる。

 放たれたのはローキック。リーザスは脛で、すかさずカットした。読まれていた、という顔をコーネリアがする。


 お互いの緊張した表情が、交互に映る。

 額に、汗。呼吸を整える音。間合いを探る、ほんの数秒の静寂。


「しっ、しっ」


 コーネリアの鋭いジャブが二発。

 リーザスは、しっかりと腕でガードした。重い。一発一発が、岩を殴られているような重さだ。


 バックステップしながら、彼は思考を巡らせる。


(鋭く、強い! しっかり捌け)


 受けるたびに腕が痺れる。だが、捌けないわけではない。これまでの訓練が、体に染み込んでいる。


(受けてばかりじゃダメだ)


 拳を、ぐっと握る。

 反撃の一手を、リーザスは選んだ。


「竜……爪……!」


 拳に闘気を凝縮させる。一点に集約された力が、爆発の瞬間を待つ——


 その瞬間。

 コーネリアが指先から、闘気を細く、強く放った。


 針のように研ぎ澄まされた一筋の闘気。それが、リーザスの拳に溜め込まれた力を、横から弾き飛ばした。


「!」


(なっ! 闘気が散らされ——)


 拳の力が、霧散する。

 まるで膨らませた風船を、針で突かれたように。技を出す、その寸前で。


 そして——コーネリアの前蹴りが、迫っていた。

 いや、前蹴りはフェイント。本命は、その先にある。


 サマーソルトキック。

 下から跳ね上がる回転蹴りが、リーザスの顎を捉えた。


「ぐああああああああ!」


 リーザスの体が、宙を舞う。

 視界が回転し、地面と空が入れ替わる。


 ぐはっ、と地面に落ちた。

 背中から叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出される。


 立ち上がろうとしながら、リーザスは歯噛みした。


(大ダメージ、やられた。闘気を散らされた直後を狙われた!)


 完璧な崩しだった。技を出す瞬間こそ、最も無防備になる。そこを正確に突かれた。さすが、騎士団長。


 その胸元を、ぐいっと掴まれた。

 いつの間に。コーネリアが、すぐ目の前にいた。


「ダウンしたら、許されるとでも!?」


「なっ」


 追撃。逃げ場はない。リーザスは反射的に身を硬くした。


 その時——背後から、凛とした声が響いた。


「バインド!」


「!」


 コーネリアの動きが、見えない鎖に縛られたように止まる。

 拘束魔法。詠唱のタイミングを、完璧に計っていた。


 そのまま、コーネリアがダウンする。


「ちょっ、待って——」


「サンダーソード」


「きゃあああああああ!」


 雷が、はじけた。


 手に雷球を握ったメルナが、無表情のまま、ダウンしたコーネリアを見下ろしていた。

 その瞳には、いつもの幼さはない。ただ、冷徹な戦闘者の光だけがあった。


「ダウンしても、許さないです」

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