竜核のマスター
雷光が二人を包み込んだ。
皮膚を焼くほどの高電圧が全身を駆け抜け、空気が焦げる。
「うがあああああああああああああ!」
「いやああああああああああああああ!」
リーザスとメルナ、二人の叫びが雷鳴の中で重なった。
電流の奔流に抗いながら、リーザスは必死にメルナへ呼びかける。
「メ、メルナっ……! しょ、正気に戻れぇぇっ!!」
だが、メルナの瞳は怯えと混乱に濁っていた。
稲妻が体を這い、涙が蒸気のように消える。
「おじさん……いやだ……おじさん、あっち行って!!」
次の瞬間、メルナの心臓が大きく脈打った。
――ドクン。
その鼓動に呼応するように、胸の奥で何かが光る。
それは、人工的に埋め込まれた竜の心臓《竜核》だった。
メルナの内側で、機械のような声が響く。
《竜核に深刻な電流が流れています。直ちに停止してください》
彼女の血管が青く光り、体を制御不能の痙攣が襲う。
リーザスはその光景を目の当たりにし、必死に叫んだ。
「おじさんじゃねぇ! 俺は仲間だ、メルナ!」
「いやだ、おじさんっ!」
《竜核に深刻な電流が流れています。緊急停止します――》
バチッ! と音を立て、放電が止まった。
稲妻が霧散し、雷鳴が遠ざかる。
「……止まった!?」
リーザスが安堵の息を漏らしたのも束の間、メルナの体はまだ震えている。
光は消えたが、怒りと恐怖が収まらない。
「おじさん、いやだあああっ!」
彼女の腕が暴れ、雷撃の名残が再び皮膚を走った。
リーザスはその腕を掴み、必死に止めた。
「……っ、落ち着け!」
《竜核、安全モードに切り替えます》
金属音のような機械声が再び鳴る。
メルナは子供のように泣き叫んだ。
「助けて……ママぁ……マーマ!」
◇
《竜核に深刻な損傷が見られます。残存部分で機能を再設定します》
機械の警告が繰り返される。
メルナは錯乱しながらリーザスを振り払おうとした。
「どこなの、ママ! おじさん嫌だ!」
リーザスは咄嗟に彼女の両肩を掴み、必死に呼びかけた。
「メルナ!」
だが、抵抗は強い。
雷を宿した指先が彼の胸を焦がす。
(つーか……なんだよコイツ……どんだけおじさん嫌いなんだよ)
リーザスの脳裏に、皮肉混じりのツッコミが浮かんだ。
(ママ、ママって……乳飲み子かよ)
メルナは叫び続ける。
「ママぁ! ママどこ! 助けてぇ!」
リーザスの忍耐がぷつりと切れた。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
荒野に、稲妻とは別の爆発音のような怒鳴り声が響いた。
メルナがピタリと動きを止める。
リーザスは、自分でも何を言うのか分からないまま、叫んでいた。
「……俺がママだよっ!!」
メルナの目が大きく開く。
「……ママ?」
リーザスは心の中で頭を抱えた。
(……俺、何言ってんだよ。でも……)
(こうなりゃヤケだ!)
彼は真っ直ぐにメルナの目を見据えた。
「そうだ。俺がママで……お母様なんだよ!」
「お母様……?」
メルナの表情が少しだけ和らぐ。
その声には、幼い頃の面影が混じっていた。
リーザスはそっと手を差し出した。
「お母様の言うことなら、聞いてくれるよな? いいから……もう落ち着け」
メルナの視線が彼に向けられる。
その瞬間、彼女の胸の奥――竜核が淡く光った。
《対象者をマスターとして認証しました。以後、マスターの意に従って行動します》




