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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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頼むぜ、相棒

 稲光が空を裂き、耳をつんざく轟音が大地を震わせた。

 荒野の中心――そこに立つのは、ただ一頭の老騎獣と、ひとりの男。


 リーザスはグランスのたてがみに手を置き、静かに息を吐いた。

「……お前」


 雷鳴が轟く。

 ズガァン――!

 雷柱が地面を焼き、黒煙が立ち上がる。


 だが、グランスは一歩も動かなかった。


 稲妻の光がその身体を照らす。

 筋肉の隆起、傷だらけの毛並み。

 その瞳には、戦場を生き延びた者だけが持つ“覚悟”の色が宿っている。


(すげぇ……俺だって、こんな近くに雷が落ちたら逃げ出すってのに)


 リーザスの胸が熱くなった。

 グランスの黒い瞳が静かにこちらを見る。

 恐怖も、焦りもない――ただ、信頼だけがあった。


 リーザスは手綱を握りしめる。

(……そうか。お前は戦帰りだもんな)


 口角が上がる。

「なら、これぐらいの修羅場……慣れてるだろ」


 手綱を一気に引き、グランスの身体が弾けるように動く。

 蹄が雷鳴に重なる音を立てて砂を蹴り上げた。

 リーザスはその背で叫ぶ。


「――頼むぜ、相棒ッ!!」


 グランスが雄叫びを上げた。

 その声はまるで雷鳴と競うように空へ響いた。


          ◇


 空では、メルナが剣を掲げていた。

 体を覆う雷光が強まる。

 その姿はもはや人ではなく、竜の巫女――あるいは竜そのもの。


「来るな!」

 雷鳴が唸るように爆ぜる。


 だが、リーザスは怯まなかった。

 グランスを操り、雷の海をかいくぐる。


「メルナ! いいから闘気を放つのをやめろ! 融合が進むぞ!」


 メルナの瞳が揺らぐ。

「……!」


 その声は届いたかに見えた。

 だが、次の瞬間――彼女の心に黒い声が響いた。


(なんなのよ……! なんで、帰ってくれないの!? どうして、まだ私を見てるの!?)


 その視界を、ふいに何かが横切った。

 空を滑る鬼面フライの群れだ。


「メルナ……竜の巫女……メルナ、生贄……」


「――っ!」


 メルナは怒りに任せて剣を振る。

 雷の刃が空を裂き、鬼面を両断する。


 しかし、切り裂かれた鬼面が膨張し、ボムッと破裂。

 黒い瘴気が煙のように広がり、メルナの顔を包んだ。


「うるさいッ!!」


 次の瞬間、彼女はその瘴気を吸い込んでしまった。

 胸が焼け、意識が遠のく。


「メルナッ!!」

 リーザスが手を伸ばす。

 その声は、雷の中でも確かに届いた。


          ◇


 メルナの瞳が揺れた。

 しかし、その視界の中で、リーザスの顔が歪む。

 ――ぐにゃりと、違う誰かの顔に変わった。


 幼いころの記憶。

 崖の上。

 彼女を突き落とした司祭の顔。


「荒ぶる竜よ……この生贄を受け入れたまえ!」


「いやだ! いやだぁぁ!!」


 現在のメルナが叫ぶ。

「いやだっ!!」


 雷鳴が再び走る。

 リーザスは剣を構えた。

「メルナっ!」


 彼女の顔は涙に濡れていた。

(お母様……助けて……!)


 その瞬間、天から閃光が走る。

 彼女の剣が巨大な雷刃へと変わった。


「――っ!」

 リーザスが目を見開く。


 煽りの構図で、メルナの雷剣が振り下ろされる。

 その閃光が空を裂き、彼を飲み込まんと迫る。


 リーザスは一瞬の判断で、剣を抜かず――両手で、柄を掴んだ。


「うおおおおおおおおっ!!」


 雷光が炸裂した。

 全身を貫く痛み。

 電流が心臓を焼き、視界が真っ白に染まる。


(……受けた瞬間、感電する。でも、あのまま避けたら……彼女を止められねえ!)


 リーザスの歯が砕けるほどに噛み締められ、全身が痙攣する。


「――――耐えるしか、ねぇぇぇ!!」


 雷鳴と叫びが一つになった。


 バチィィィィィィンッ!!


 二人の身体を電流が包み込み、爆風が荒野を焼いた。

 リーザスは歯を食いしばり、剣の柄を離さなかった。

 そしてその手に、確かな“命の鼓動”を感じていた。


 泣き叫ぶメルナの声が、雷鳴に混ざって響く。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」






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