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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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降り注ぐ雷

 轟く雷鳴が空を裂いた。

 黒い翼を広げたメルナが宙に浮かび、その姿を見上げたゼファルドは、静かに言葉を漏らす。


「間違いない。メルナには――竜の魔力炉が移植されている」


 その声に、一同の顔が凍りついた。

 クレオが舌打ちをし、歯を食いしばる。

「マジかよ……軍がやってること、ゾラと同じじゃねえか!」


「いいえ」

 ルーカが首を振る。

「ゾラは竜族と敵対してます。

 こんな研究をしているのは、セイラム王国だけですよ」


 リーザスが険しい目で空を見上げた。

「……竜族が、魔法騎士の育成に協力しているってことか!」


「軍の上層には、竜王族と契約している者がいると聞く。

 もしかすれば――この暴走も“実験”の一つかもしれん」

 ゼファルドの声が、低く重く響いた。


 その時、空のメルナが剣を掲げた。

 稲妻が空を裂き、雷光が彼女の背中を覆う。


 アブラナが叫んだ。

「みんな、気ぃつけろ! なんかくるべ!」


 空気が震え、耳の奥がビリビリと痺れる。

 メルナの周囲の空が青白く光り始め、帯電した風が地上にまで流れ込んできた。


 彼女が静かに呟く。

「――豪雷」


 その言葉と同時に、世界が閃光に包まれた。


 落雷。

 轟音と共に、無数の稲妻が荒野に降り注ぐ。

 ドカン、ドカンと爆発するような音。

 砂と岩が吹き飛び、地面が焦げる。


「ぐっ、くそっ、範囲が広すぎる!」

 クレオが必死に防御の闘気を展開するが、雷の衝撃が体を叩く。


 アブラナはグランスの首にしがみつき、涙目で叫んだ。

「オラ、怖ぇぇぇ!」


「落ち着け、アブラナ!」

 ルーカが神聖障壁を張りながら、仲間を庇う。

 しかしその障壁にも、次々と稲妻が降り注ぐ。


 リーザスは必死にグランスのたてがみを掴み、身を伏せた。

「おい、やめろメルナっ!」


 次の瞬間、彼のすぐ目の前に雷が落ちた。


 ――ズドォォォォン!!


 耳をつんざく音。

 熱風が顔を焼き、地面が陥没する。

 土煙の中、グランスがバックステップで距離を取った。


 リーザスが見上げると、落雷の跡に巨大なクレーターができていた。

「……な、なんて威力だ……!」


 驚愕に息を呑む彼の隣で、グランスはただ冷静に、焦げた地面を見つめていた。


          ◇


「リーザスさん! 大丈夫ですか!」

「……ああ。だが、今のを避けたのは……お前か?」


 リーザスは自分のグランスを見下ろす。

 その目には確かな知性が宿っていた。

(……こいつ、自分の判断で雷を避けたのか?)


 空を見上げ、リーザスはメルナに向かって叫んだ。

「メルナ! 意識はあるか!? 俺たちが分かるか!?」


「…………あ」


 虚ろな声。

 メルナは遠くを見るように、焦点の合わない目で答えた。


「同期の俺たちの顔はわかるか!?」


 その問いに、メルナの唇がかすかに動いた。

 ――だが、その言葉は、声ではなく、頭の中に直接響いた。


(……私に、もう構わないで!)


「――ッ!?」

 リーザスが息を呑む。


 メルナの思念が荒々しく流れ込む。

(こんな失態を犯したら……もう、騎士には戻れない。私は終わりなのよ!)


「馬鹿言うな! 俺たちだって、このまま帰ったらダミアンに除籍にされる!」


(うるさい! おじさん!)


「なっ……!」

 思わず心に直接怒鳴られたような衝撃を受け、リーザスの視界が揺れる。


(みんな、帰ってぇぇぇぇぇ!!)


 その瞬間、空気が爆発した。

 メルナの体から、目に見えるほどの思念波――竜の覇気が放たれたのだ。


 荒野全体が震え、グランスたちが一斉にいななき声を上げる。

 ビクンッと反応し、足が勝手に動き始めた。


 竜の血を引く生物である彼らは、その思念波を「命令」として受け取っていた。


 リーザスの耳に、馬の悲鳴のような脳波音が直接響く。

(帰れ、帰れ、帰れ――!)


「う、嘘だろ……!」


 アブラナのグランスが突然方向を変え、暴走した。

「わっ、待てこらぁぁぁ!」


 ルーカの白いグランスも、指示を無視して東の砂原へと駆け出す。

 クレオが焦って手綱を引くが、まったく効かない。

「おい! 止まれっての!」


 ゼファルドが歯を食いしばり、叫ぶ。

「ぐっ……止まれ! 俺の命令を聞け!!」


 しかし、若いグランスたちは全て支配されていた。

 竜の覇気を前に、彼らは抗うことすらできなかった。


 ゼファルドが体を揺らしながら遠ざかっていく。

「――っくそ!」

 騎手たちは思い通りにならないまま、次々と荒野の外れへと駆け去っていく。


 その場に残ったのは、ただ一頭。


 リーザスの“戦帰り”だけだった。


 足を地に踏みしめ、動かない。

 落ち着いた瞳がメルナを見上げている。


 リーザスは思わずその首筋を撫でた。

「……お前……どうして動かない」


 グランスは静かに鼻を鳴らした。


 長い戦場の経験を積んだ老騎獣だけが知っている。

 竜の支配は“恐怖”と“服従”だが、真の騎獣は――“信頼”を選ぶ。


 その凛々しい顔が、リーザスを映す。


「お前……まさか、俺を信じてるのか」


 雷鳴が再び轟く。

 リーザスは拳を握った。


「……行くぞ、相棒」


 そして、空に向かって走り出した。

 竜の覇気に抗う唯一のグランスと、ひとりの中年騎士が――竜の巫女を救うため、雷鳴の中へと飛び込んでいった。


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