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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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竜の魔力炉

 荒野の風が止まった。

 その静寂の中で、メルナのグランスが呻くような声を上げた。

 その体表には無数の裂け目が走り、赤黒い光が漏れ出している。

 まるで、竜の心臓が体内で暴れているようだった。


 ゼファルドは剣を構え、低く息を吐く。

「……残念だが、そのグランスはもう戻らん」


 闘気が剣に集束し、刃の輪郭が歪んで膨張していく。

 闇のように黒く、しかし光を呑み込むような輝き。


「夜影剣――」

 彼の声が地面を震わせた。


「――四死連操!」


 刹那、ゼファルドの姿が四つに分かれた。

 幻影ではない。四体のゼファルドがそれぞれ違う角度から突進する。

 砂が跳ね、空気が裂け、風が爆ぜた。


 グランスが咆哮を上げる。

「ギュエエエエ!」

 体中の毛が逆立ち、雷が迸る。

 だが、ゼファルドの眼光はそれを切り裂くように鋭かった。


「……斬ッ!」


 音もなく、一閃。

 巨大な騎獣の首が跳ね上がった。


 血が噴き上がる。

 グランスの首が砂の上を転がり、メルナが馬上から崩れ落ちる。


 ゼファルドは剣を振り下ろし、血を払って鞘に収めた。

 風が、彼のマントを揺らした。


 ――終わった。


 だが、次の瞬間。


「ゼファルド!」

 遠方から砂煙を上げて、リーザスたちが駆けつけてきた。

 先頭のリーザスが馬上から飛び降り、息を荒くして問いかける。


「ま、まさか……メルナと、そのグランスを……」


 ゼファルドは一瞬だけ目を伏せ、答えた。

「やむを得ず首をはねた。だが、メルナの方は無事なはずだ」


 その言葉と同時に、空気が重くなった。


 ――ズズッ……。


 リーザスの目が見開かれる。

「……おい、ゼファルド。あれ……」


 砂の上で、首を失ったはずのグランスが立ち上がっていた。


 倒れたメルナの体が、その背に引き寄せられる。

 白い光が爆ぜ、両者の輪郭が重なり合う。


「……まさか、融合を……!」

 ゼファルドが目を見張る。


 メルナの背から竜のような翼が生え、体がゆっくりと持ち上がった。

 下半身は騎獣の脚に変わり、ケンタウロスのような姿へと変貌していく。


「あ……」

 メルナの唇から漏れた声は、人間のものではなかった。


「――ああああああああああああっ!!!」


 次の瞬間、全方位に電撃が走った。

 大地が震え、空気が焦げる。

 放電が閃光となって空を裂き、光がメルナの体を包んだ。


 リーザスたちは馬上から目を覆う。

「なんだ、この光は……!」

 ルーカが悲鳴を上げる。

 アブラナも思わずグランスの首を押さえた。


 放電に巻き込まれたグランスの首が、電磁石のようにメルナへと引き寄せられていく。

 そして――。


 ブチブチブチッ。


 断面同士が繋がり、肉と金属のようなものが融合し始めた。

 体の各所が再構築され、竜の鱗のような装甲が生えていく。


 アブラナが呆然と呟く。

「ま、まるで竜のようだべ……!」


 リーザスの喉が鳴る。

「……っ!」


 光が止み、空に浮かぶメルナの姿が現れる。

 背には翼。髪は雷のように揺れ、眼には竜の瞳孔が宿っている。

 それは、まさに竜人――いや、竜そのものの威容だった。


「メルナ……なのか……?」

 クレオが信じられないものを見るように呟く。


 リーザスはグランスに跨り、ゼファルドの隣まで駆け寄った。

「ゼファルド! 一体何があったんだ!」


 ゼファルドは目を細め、息を吐く。

「あれは……暴走したグランスと、メルナが融合した姿だ」


「なっ……!」

 一同が絶句する。


「グランスはメルナの闘気や魔力を吸い続け、耐え切れず変異した。

 そして今――“竜”の姿に進化したんだ」


 ルーカの顔が青ざめる。

「……進化って、あんな……!」


 ゼファルドは震える手で剣を構えた。

「間違いない。メルナには――竜の“魔力炉”が移植されている」


 その言葉に、全員が息を呑んだ。


 魔力炉――かつて魔族が竜の心臓を模して造った禁忌の臓器。

 それを持つ人間は、神でも魔でもない存在へと変わる。


「……じゃあ、あれはもう、人間じゃ……」

 アブラナが震える声を漏らす。


 メルナが空から見下ろす。

 その瞳は完全に竜のものだった。

 理性の光が消え、ただ破壊の衝動だけが宿っている。


「――――」


 白目のまま、メルナが叫んだ。

 大気が震え、稲妻が走る。

 空の雲が渦を巻き、風がうねり、光が大地を焦がした。




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