表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第四章 第七騎士団編
PR
104/109

【外伝】シエルの採点表

【外伝】シエルの採点表


――シエル視点――



 オレは、人を見る目には自信がある。


 十五歳で第七騎士団の空挺隊。最年少。竜と契約したのも同期で一番早かった。

 この砦で、オレより若くて強いやつはいない。だから、新入りが来ると、だいたい三秒で格付けが済む。


 で、あのおっさんだ。


 初日に見たときの感想は、正直に言えば「なんで来たの?」だった。

 十八年落ち続けたおっさん。連れてる竜は、飛べない。乗ってるグランスは片耳がない。

 うちは対ゾラ最前線の、空のエリート部隊だぞ。粗大ゴミの回収場所じゃない。


 思ったことは、口に出す主義だ。だから言った。フェルナンさんに頭を鷲掴みにされた。痛かった。


 アイリスさんの採点は、三十八だった。


 これがどれくらいかというと、うちの整備班のおっさんが四十くらいだ。つまり、戦力として数えられてない。

 オレは笑った。ほら見ろ、と思った。


 なのに、その日のうちに、六十一になった。


 カーラカレット隊長の不意打ちを、片手で受け止めたからだ。

 あの人の拳は、岩を砕く。オレは一回だけ受けたことがあるけど、腕が三日痺れた。

 それを、まばたき一つせずに止めた。


 六十一。オレより一つ上だ。


 ……いや、待ってほしい。オレは今、六十だ。三年かけて、十二から六十まで上げたんだ。

 それを初日で追い抜くって、なんなの。



   ◇



 次の日から、オレはあのおっさんを観察することにした。

 もちろん、興味があるわけじゃない。監視だ。監視。ボロを出すのを待ってるだけ。


 訓練場に行くと、朝から素振りをしていた。

 斬岩剣の型。基礎中の基礎。オレが十歳のときに卒業したやつだ。


 なんだ、やっぱり大したことないじゃん。


 そう思って見ていたら、三時間経っていた。


 おっさんは、まだ振っていた。

 一回も、雑にならない。一回も、フォームが崩れない。三時間、同じ精度で、同じ角度で、同じ速さで。


 オレは、途中で目を逸らした。

 なんか、見ていたくなかった。


 自分が、そんなに剣を振ったことがないって、気づいちゃったから。



   ◇



 ラズが稽古をつけてもらってるのを、柵の外から見た。


 ラズは飛竜剣が使える。うちの地上組ではエースだ。あいつは、それを鼻にかけない代わりに、焦っている。

 カーラカレット隊長に追いつきたいらしい。若いのに、いや、オレより年上なのに、ずっと焦ってる。


 おっさんは、ラズにこう言っていた。

 諦めなければ、夢は叶う。俺は十八年間諦めなかった、と。


 ラズは、そんなに待てないと怒っていた。


 オレは、柵の外で聞きながら、思った。

 十八年って、オレが生まれてから今までより長いんだけど。

 その間ずっと落ち続けて、まだ諦めてなかったって、どういう神経してるんだ。


 オレなら、三回落ちたら死ぬ。

 いや、比喩じゃなく、たぶん心が死ぬ。


 あのおっさんは、十八回、心が死んで、十八回、生き返ったってことか。


 ……ちょっと、ゾッとした。



   ◇



 あの日、村での戦い。


 オレたちは上から見ていた。団長の命令で、万が一のときだけ助けろ、と。

 つまり、試されていたのはおっさんの方で、オレたちは審査員だった。


 合成死体兵が出たとき、オレは正直「終わったな」と思った。

 あれは隊全員でかかっても手こずる。飛べない竜と、噂の落ちこぼれで、どうにかなる相手じゃない。


 フェルナンさんの手が、剣の柄にかかった。

 オレも「助けないと!」って叫んだ。


 そのあとの光景を、オレはまだうまく説明できない。


 あの魔法騎士の女の子が、金色の炎を出した。あれは、たぶん人間の魔力じゃない。

 で、おっさんが、その力を胸で受け止めて、竜に流して、剣にした。


 三人で、一つ。


 あんな戦い方、見たことがない。

 竜騎士っていうのは、竜に乗って、竜の力を借りて戦うものだ。それが常識だ。

 あの人たちは、竜と、人と、竜の心臓を、全部つなげて一本の剣にしていた。


 地面で。飛べもしないで。


 オレは、空を飛べる。速く、鋭く、誰よりも早く。

 でも、あの三人がやったことは、オレには一生できない気がした。



   ◇



 アイリスさんが、採点した。


 おっさん、七十七。

 魔法騎士の子、八十二。


 オレは叫んだ。二人分!? てか片方、オレより上じゃん!! って。


 アイリスさんは、いつも通り、何も答えなかった。

 あの人は、必要なことしか喋らない。採点だけを置いていく。


 でも、あとで気づいた。

 オレの点数、あの日から一度も上がってない。


 三年かけて六十。

 おっさんは、二回の戦いで七十七。


 オレは、悔しかった。

 それから、もっと悔しいことに気づいた。


 オレは、悔しいと思えたことが、久しぶりだった。



   ◇



 だから、次の日から、オレも朝の訓練場に行くことにした。


 もちろん、あのおっさんと仲良くなりたいとか、そういうんじゃない。

 あくまで監視だ。監視。ボロを出すのを待ってるだけ。


 行ったら、もういた。素振りしてた。何時に起きてるんだ、あの人。


 オレを見て、おっさんは言った。


「おう、シエル。早いな」


「……別に。たまたま目が覚めただけだから」


 おっさんは、それ以上何も聞かずに、また剣を振り始めた。


 オレも、隣で剣を抜いた。


 基礎の型。氷刃なんて呼ばれてるオレが、今さらやる技じゃない。

 でも、やった。


 三十分で腕が上がらなくなった。

 隣のおっさんは、まだ振っていた。


 ……オレは、あと何年、これを続ければいいんだろう。


 十八年、とは言わない。

 でも、たぶん、それくらいの覚悟がないと、あの背中には届かないんだと思う。



   ◇



 通りかかったアイリスさんが、オレたちを見た。


 立ち止まって、じっと見て、それから、ぽつりと言った。


「…………シエル、六十三」


 オレは、剣を落とした。


 三年ぶりに、上がった。


 顔を上げたら、アイリスさんはもう歩き去っていた。相変わらず、何も説明しない。


 おっさんが、隣で笑っていた。


「よかったな」


「……うるさい」


 オレは、剣を拾って、また振り始めた。


 悔しいのに、なんでか、ちょっとだけ、嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ