第8話:眠れぬ夜と羊カウント地獄
ー酒場ー
「フェイちゃんお待たせー!パンとスープを二人前ね!」
スープはひよこ豆と野菜が入ったシンプルなもので、香草の香りがふわっと漂ってくる。
しかし——
「……このパン、石?」
手に取った瞬間、硬さに驚いた。
カチカチだ。下手したら武器に使えそうなくらいだ。
「パンをスープに入れれば柔らかくなりますよ。」
フェイがそう言いながら、スープにパンを浸してから口に運ぶ。
俺も真似してパンをスープにひたしてから食べてみた。
もぐもぐ……
「……意外とうまい」
パンの塩気とスープの優しい味が相性良くて、思ったよりも美味しかった。
ただ、腹持ちは良さそうだが噛み応えがありすぎる。これは顎が鍛えられそうだ……。
「でも、やっぱり肉が食いたい……!」
俺は心の底から呟いた。
「……お肉は高いですから……」
フェイがちょっと申し訳なさそうに言う。
確かに、この宿もかなり節約して泊まってるし、いきなり贅沢はできないか。
でもなあ、せっかく異世界に来たんだから、ステーキとか豪快に食いたいよなあ……!
迷宮で食べた魔物の肉はうまかったな…
フェイも喜んでだし迷宮で肉も取ってくるのを提案してみようかな…
ー客室ー
食事を終えると、俺たちは部屋へ向かった。
フェイに案内されて階段を上る。
建物はかなり古びていて、階段を踏むたびにギシギシと不安な音が鳴った。
「えっと……ここ、ですね…」
フェイが鍵を開け、扉を開ける。
「……せ、せまっ!」
部屋の広さは三畳ほど。
ぎりぎりベッドが二つ並んで置かれているが、それ以外に家具はほぼない。
窓が一つあるだけで、薄暗い。
「これ、部屋の中で武器振り回したら一瞬で壁に当たるぞ……」
「寝るだけですから、大丈夫ですよ……」
フェイは特に気にする様子もなく、ぽすっとベッドに座った。
まあ、確かに寝るだけならこれで十分……か?
◇ 眠れぬ夜と羊カウント地獄
「……ふぅ」
昼間にいろいろあったから、さすがに疲れた。
ベッドに横になると、身体がどっと重くなった気がする。
隣を見ると、フェイはもう目を閉じていた。
(は、早くないか!?)
布団をかぶってすぐに、すやすやと寝息を立てている。
本当に男として意識されてないな…
それともこの子、意外と大物なのでは……?
俺も寝ようと目を閉じる。
……。
……。
…………寝れない。
なぜか、全然寝れない。
なんか、こう、異世界で初めての宿泊で、しかも隣に女の子が寝てるという状況が落ち着かなさすぎる。
しかも狭い部屋だから、フェイの寝息が普通に聞こえる。
うーん、これは意識してしまう……!
(寝ろ……寝るんだ……俺……!!)
どうにか寝ようと努力するが、頭の中は「俺は今、異世界にいる」という興奮と、「隣に女の子がいる」という妙な緊張でいっぱいだ。
(えっと……眠れない時は……羊を数えるんだったっけ?)
羊が一匹……羊が二匹……羊が三匹……
(……いや、異世界に羊っているのか?)
ふと、くだらない疑問が頭をよぎる。
もしかして、こっちの世界だと羊じゃなくて別の生き物を数えるのか?
「スライムが一匹……スライムが二匹……」とか?
ダメだ!考えれば考えるほど目が冴えてくる!!
(あああああああああああああああああああああ、眠れない!!!)
心の中で絶叫しながら、もぞもぞと布団の中で身じろぎする。
すると、隣のベッドから微かに「むにゃ……」という声が聞こえた。
(やべっ、起こしたか!?)
息を殺して様子を窺うと、フェイは寝ぼけたまま寝返りを打っていた。
……よかった。起きてないみたいだ。
(……落ち着け、俺。とにかく寝ろ……)
もう一度、羊を数え始める。
羊が……四十匹……
羊が……五百匹……
……。
……。
気づけば外が少し明るくなっていた。
(俺、やっと寝れた……)
ギリギリ意識が飛ぶ瞬間、そう思いながら俺はようやく眠りに落ちた——。
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