第5話:大空洞と冒険者ギルド
走る。とにかく走る。
足元はゴツゴツとした岩場。時折、段差につまずきそうになるが、転んでいる暇はない。
後ろでは低く唸るような音が響き、くすんだ橙色の煙が徐々に広がっている。
「この先に出口があるのか?」
息を切らしながらフェイに尋ねる。
「う、うん! もう少し……走れば……」
フェイも必死だった。小柄な体で懸命に俺の手を引きながら、前を走っていく。
彼女の銀色の髪が、洞窟内の薄暗い光を受けて揺れた。
数分ほど走ると、視界が急に開けた。
「うわっ……!」
俺は思わず立ち止まり、息を呑んだ。
目の前には、街一つが丸ごと入りそうなほど巨大な空間が広がっていた。
天井ははるか彼方にあり、いくつかの大きな穴から外の光が降り注いでいる。
それに照らされた建物や人々が、まるで都市のように賑わっていた。
俺たちが走ってきた出口から一直線に大通りが続き、大通りの先からは眩しい光が差し込んでいる。
道沿いにはたくさんの店が立ち並び、行き交う人々の活気が感じられる。
武器屋、道具屋、酒場、宿屋……まるでゲームや映画に出てくる冒険者の街のようだった。
「ここは……」
「大空洞…」
フェイが小さく呟く。
「ここは迷宮、そしてこの町は迷宮の玄関口……」
「迷宮?さっきまでいたのは迷宮ってこと?」
フェイは頷く。
「迷宮には魔物がたくさんいる……でも、ここは安全な場所。ギルドもあるし、お店もたくさんあるから……」
確かに、大通りには様々な店が並んでいる。
人々も活気に満ちていて、危険な雰囲気は感じられない。
「そうか…… おっと!」
安全な場所についてことで体の力が抜けて倒れそうになった。
「大丈夫ですか!とりあえずギルドで休みましょう!」
フェイはそう言うと、俺の手を引いた。
俺は彼女に引っ張られるまま彼女についていった。
冒険者ギルド
大通りを少し歩いた先に、その建物はあった。
他の建物よりも大きく、頑丈そうな石造り。
「ここがギルド……」
扉を押し開けると、中にはカウンターや掲示板、そして多くの人々がいた。
鎧を着た戦士、ローブを羽織った魔法使い、商人のような人まで様々な人種が行き交っている。
奥には酒場のようなスペースがあり、賑やかな話し声が響いていた。
「ここで少し休もう」
フェイはそう言って、酒場の隅にある席へと俺を誘った。
俺たちは席に座ると、フェイがギルドの人に飲み物を頼んだ。
「この迷宮って、結局なんなんだ?」
フェイの説明だけではまだよく分からない。
そう思い、近くのテーブルにいた男に話しかけた。
「すみません、この迷宮って何なんですか?」
すると、男はニヤリと笑った。
全身を革の鎧で覆い、腰には短剣を下げた、いかにも冒険者といった風貌の男だ。
「新入りか? ここはマルタ島にある迷宮ってやつさ」
「マルタ島?」
「ああ。この島は大陸から少し離れた場所にある孤島だ。
この島の地下には巨大な迷宮が広がってるんだ」
「迷宮……」
フェイが言っていた、本当の迷宮のことだろうか。
「俺たち冒険者は、その迷宮に潜って魔物を狩る。
魔物の素材は、武器や防具、装飾品に加工できるし、高値で売れるからな」
なるほど、だからこんなに多くの人がここにいるのか。
迷宮探索が、この街の経済を支えているということらしい。
「この大空洞は、迷宮の入口にある拠点みたいなもんさ。
冒険者ギルド、武器屋、宿屋、酒場……全部揃ってる。
ここで準備を整えて、迷宮に挑むのさ」
「なるほど……」
俺は腕を組んで考え込んだ。
この街に住む以上、俺もどうにかして生活費を稼がなきゃならない。
だけど、ここには仕事がある。
魔物を倒し、その素材を売る——それがこの迷宮での生き方なのだ。
フェイが迷宮探索をしているのも、きっと生活のためなのだろう。
「フェイ」
「な、なに?」
俺は彼女を真剣に見つめた。
「俺も、この世界で生きるために、迷宮を探索したい」
「……」
「だから、一緒に迷宮を探索してくれないか?」
フェイは少し驚いたような顔をした。
彼女の青い瞳が、一瞬だけ赤く揺れたように見えた——。




