第9話:再来
「待たせたなぁっ! 今日こそお前をぶっ潰してやる!!」
待ってもないのにゼフィルが再び現れた。今日は例の2人は連れていないようだ。
「しつこいですわね。さっさと成り上がる努力をすればいいですのに」
「黙れぇ!! 俺様が負けたままでいられる訳ねえんだよぉ!!」
「はいはい、まずあんたが黙りなさいっ」
レイネの弓が正確無比の角度でゼフィルに襲いかかる。
だが、その弓はあり得ない軌道を描いて、ゼフィルの後ろの影に飲み込まれていった。
「チートもないそんな安物の弓矢、このノワールの重量操作の前ではオモチャにすぎん」
ゼフィルの後ろから、影から浮き出したような黒衣の男が現れる。その手にはレイネの矢がしっかりと握られていた。
「まあ子供のオモチャを取り上げるのもなんだ。返してやるとするか」
レイネの放った矢が、黒衣の男の手から螺旋起動を描いて飛んでくる。
「くうぅっ!!」
予想外の矢の挙動にレイネは反応しそこねる。
「ヒールっ!」
慌ててヒールを発動する。
「ゴメン、油断した……」
辛うじて致命傷は避けられたようだが、レイネの傷は浅くない。
「もう一人いるぜ! ヘリオスなんかとは比べ物にならない魔力の持ち主だ! てめえの薄っぺらな盾じゃ耐えきれるわけもねえ!」
「……あ、フルールです、よろしくお願いします……」
どこか抜けた感じの女の子だ。
……ただ、魔力の量が半端じゃない。僕も魔力を持ってはいるが、彼女の魔力はそれとは比べ物にならない。
「そしてこの俺が、そのけったいな武器を切り刻んでお前らは終わりだぁっ!」
ゼフィルが神速チートでステラに向けて走り出す。
確かにステラの回避センスは優れているが、それはあくまで「チートなしとしては」。ゼフィルの神速を防ぐには至らない。
ギインッ!
「『最短距離』だなんて、手加減のつもりですの?」
しかしアイリスはその動きを神速チートの発動より先に『予測』していた。
「おのれぇ!! 小娘!! 神速を超えた超神速で切り刻んでや……ぐあっ!?」
アイリスは『盾を思いきり突き出した』。ゼフィルのバランスが大きく崩れる。
「盾が防具だけじゃないことすら知らないんですのね……っ!」
バランスを崩したゼフィルの左腕を、アイリスのメイスの正確無慈悲な一撃が打ち砕く。
「そもそも右腕も十分に治っていない様子……超神速が聞いてあきれますわ」
更に右腕にも追撃が入る。
「ぐあああああっ!!!!」
そしてフリーになったステラがノワールに向けて走り込む。
「いっくよー!」
ステラお得意のフレイルがノワールに振り下ろされようとする。
「ふんっ!」
しかしノワールが闇を放つと、フレイルの軌道が強引に捻じ曲げられる。
「わああっ!?!?」
ノワールが大きくバランスを崩して転ぶ。
「ふんっ、そんな子供だまし……ぐあっ!?」
確かに、フレイルの軌道は捻じ曲げられた。しかし、鎖の軌道はまたそれとは違う動きを、ステラの意図通りに行っていた。
「バ……バカなぁっ……計算外だ!!」
鎖の打撃で集中を乱されたノワールがうめく。
「じゃあ計算通りの矢をあげるわっ!」
二度目は外さないとばかりに傷のふさがったレイネが矢を放つ。
「ぎぃやあっ!」
矢は今度こそノワールに突き刺さる。
「く、くぅっ」
それでもノワールは何とか立ち上がる。そこにいたのは。
「弓とフレイル、どっちがいい?」
「とくべつに選ばせてあげる!」
矢をつがえたレイネと、立ち上がりフレイルを構えたステラの姿だった。
「くっ……退くしかないか……」
「ちくしょおぉぉ! この俺が、この俺が二度までもっ……」
「ま、まって今詠唱を中断したら魔力が暴発してっ……」
「知らんっ! 俺は逃げさせてもらうっ!」
「悪く思うな……さらばだ」
そしてその場には詠唱中の魔力を必死に制御しようとしているフルールだけが残された。
フルールはゆっくりと魔力を制御し、時間をかけて安全に詠唱を止めたあと……その場に座り込んだ。
「すみませぇんっ……この通りですうっ。なんでもしますから、どうか命だけは……」
「どうする? この子……」
「詠唱に多大な時間がかかるタイプのようですね。この場においてはもう脅威ではなさそうです」
「うーん……。まあ痛い目にあわされたわけではないけど」
僕はかがみこみ、目線を合わせて話しかけた。
「じゃあ、お願いがあるんだ。聞いてくれるかな」
「はいっ! なんでも聞きますっ!」
「僕たちのパーティーに入ってくれる?」
「「「「ええっ!?」」」」
4つの驚く声が綺麗にハモった。
「い、いったいどうして……?」
レイネが驚きを隠せない声で問いかけてくる。
「だって、うちのパーティー魔法使いがいないから、フルールがいればきっと役に立つと思う。それに、あんな捨て方をされたらもうアイツらに義理はないはずだし」
「そ、それはそうだけど……」
「全く、あなたは本当にお人好しで楽観的すぎます」
そう言ってアイリスがフルールに視線を合わせるようにかがみこむ。
「……だから私は一緒に戦ってるんですけどね。あなたも、一緒に戦ってみませんか?」
「は、はいっ! わたしでよければ、ぜひパーティーに入れてくださいっ!」
ノクターンノベルズにて、同じ作者名で連載中。




