第8話:フラグ回収
「「「「カンパーイ!!!!」」」」
無事にゴブリン討伐依頼を達成した僕たちは、酒場で祝杯を挙げていた。
「あー! 勝利の美酒は一段と美味いね!!」
「駄目ですよレイネ、飲み過ぎれば次の冒険に差し支えます」
「お兄さんお兄さん、このご飯美味しい! こんな豪華な食事いつぶりだっけ……」
確かに。薬草採取で食いつないでいたあの日を思い出す。僕にとっても久しぶりの贅沢だ。
……そこに、ゼフィルがよろけるように姿を現した。
「なんでだよ……」
かつての戦友ゼフィルが、俺の前で膝をつき弱々しく叫ぶ。
「なんで追放されたお前が大成功してて! なんで俺たちが落ちぶれてるんだよぉ!」
「いったい何があったの?」
「フレイムリザードのブレスに不意打ちでやられたんだ……」
フレイムリザードはその名の通り火を吐くトカゲ。ブレスを直撃で喰らえば確かに手練れとて無事には済まない。
「でもあいつらその名の通り熱いから、気配の察知は簡単だと思うけど」
「あいつは完全に俺らの気づかない角度から火を吐いてきた! あれは間違いなくエース個体だ!」
(仮にエース個体だったとしても、フレイムリザードはブレスさえ何とか出来れば強敵ではないはずなんだけど)
「おかげで俺らの評判はがた落ちだ……」
「確かに、フレイムリザードにやられる程度なら、落ちぶれるのも無理はありませんわね」
「うるせええぇぇ! なんで……チートのひとつもないお前が成功して……。
チート持ちの俺らがこんな目にあって……なんだよぉ!! どうしてなんだよぉ!!」
「落ちぶれなど冒険者にとってはありふれた話ですわ。あなたに足りないのは、覚悟です」
「追放そのものが間違ってたんじゃない? もう遅いけど」
「お兄さんは私たちの大事なリーダーだもん! 絶対渡さないよ!」
僕を取り囲むように、3人のパーティーメンバーが脇を固める。
「チクショオオオ!! これもそれも全部! お前が悪いんだ!」
激高し突如襲いかかってくるゼフィル。
アイリスは分かっていたかのようにその前に立ち、その刃を受け止める。
「それがあなたの覚悟だとでも言いたいのですか?」
「黙れええぇぇ!!」
相手の編成は知っている。
加速チートの二刀流短剣使いゼフィル。『加速』のチートが元々手数の多い短剣二刀流と重なれば、あっという間に相手を細切れにできる。
古代オーパーツの鉄壁の大盾持ちバベル。今では製法が失われたその大盾は、あらゆる攻撃を受け止める、まさに文字通りの鉄壁。
詠唱破棄チートで無限の火球を投げてくる魔法使いヘリオス。詠唱だけでなくそれに必要な魔力すら破棄している、永遠に途切れぬ炎。
確かにこの編成なら僕は足手まといだ。
……でも、どうしてか僕は。負ける気がこれっぽっちもなかった。
ゼフィルがチートを発動する。神速で襲い掛かる無数の刃。それをアイリスは『微動だりせず』受け流しきる。
「確かに速いですわね、でも余りに単調でしてよ?」
短剣の軽さはアイリスにとって好都合だったようだ。短剣の恐ろしさは刃の切れ味。逆に言えば、刃が通らなければその衝撃は微々たるもの。
そして狙いがアイリス……自分自身だと分かっているのなら。構えた盾を動かすまでもない。
神速のチートが、文字通り盾で『阻まれている』。
「くそっ、ならばチート全開速度で回り込んで……」
「そこっ! 来るのがわかってるなら外さないわ!」
そこはレイネの射線だった。寸分たがわぬ一矢が短剣使いの肩に突き刺さる。
「ぐわあぁっ!」
ゼフィルが痛みに悶える。その瞬間。
「神速も足が止まっては無意味ですわね!」
アイリスのメイスが短剣使いの右腕を砕く。
「ぎやああぁぁっ!」
ゼフィルの悲鳴が響き渡った。
「フン、そんなオモチャでこの盾を貫けると思っているのか?」
「えー? 思ってるわけないじゃん?」
「ハハハ、敗北宣言か。いいだろう、命乞いすれば今なら許してやらんこともないぞ?」
「うーん、それはやだなぁ。というわけで、えいっ!!」
ステラのフレイルが思いっきりスイングされる。
「フン! 軌跡が見え見えだ!」
ガキインッ!
ステラの棒ががっちりと大盾に阻まれる。
「ぐああっ!?」
そして、フレイルの先端の重りが大盾を迂回するように回転し、バベルの腕を痛打する。
「貫こうなんて、はなから思ってないよ、のろまなお兄さん!」
フレイルがもう一振り。棒は盾に弾かれるも、重りの直撃は着実にバベルの体力を削っていく。
「くそおっ!」
バベルが剣をふるうも、あっさりとステラはそれをかわし、カウンターの一撃。
「大振りだねー。軌跡が見え見えっ!」
フレイルは元々剣を受けられる武器ではない。なのに彼女が冒険者をやれているのは、十分な回避スキルがあるからこそだ。
「隙ありっ!」
ヘリオスの手から無詠唱で生成された火球がステラに投げつけられる。
「きゃあっ!?」
直撃だけは避けたもののかすった炎がステラを焦がす。
「ヒールっ!」
とっさにヒールを詠唱して治療するが、ヘリオスの両手には既に無数の火球が生まれている。
「俺の無詠唱ファイアボール、1発目を避けたのは褒めてやる……だがこれからが本番だ! この全て、避けられるものなら避けてみな!」
「そううまく行くと思う?」
「うあああっ!?」
レイネの放った矢がヘリオスの肩を射抜く。そして次の瞬間にはレイネの弓に次の矢が装填されている。
「あんたの投げる魔法と、あたしの矢、どっちが早いか勝負してみる?」
矢を受けた衝撃で生まれていた火球は消散している。そしてレイネの弓はまっすぐに魔法使いを捉えている。
「くうっ!」
逃げるようにヘリオスはバベルの後ろに隠れた。
「おい! 俺を盾にするな! きっちり援護しろ!」
「お前こそ、そんな小娘ひとりにいつまで手こずってるんだ!」
「あれあれ? そんな無駄口叩いてる余裕があるの?」
ガキンッ!
「ぐおおおっ……」
気を抜いたバベルにフレイルの直撃が入る。
「マズイぜ……完全に押されてやがるっ……」
「こんな……この俺様が……」
「ちきしょうっ! 覚えてやがれっ!」
やたらと印象に残る捨て台詞とともに、ゼフィルたちは逃げ去っていった。
「……勝ったね……」
負ける気はしなかったけど、勝てる予想が見えていたわけではなかった。でも、これは僕たちみんなが手繰り寄せた勝利だ。
「ええ、完勝です」
「今夜のお酒がますます美味しくなりそうね!」
「なんか、チートって案外大したことないんだねー」
アイリス、レイネ、ステラ。誰が欠けてもこの勝利はなかった。
凱旋の晩餐は少しだけ冷めてしまったけど、なぜだか冷める前よりずっと美味しく感じられた。




