第10話:花開くとき
今日は街道に現れたジャイアントベアの討伐だ。
今の僕らのパーティーには低めの難易度だが、フルールの実戦を僕らはまだ見ていない。
それにフルールはまだこのパーティーに慣れていない様子がある。そういうわけで半分ピクニックを兼ねたクエストだ。
「さて、そろそろお昼ご飯にしようか」
「じゃあ火の準備をするねっ」
「あ、火の魔法なら使えるんで任せてください。えーっと……」
フルールが魔法の詠唱を始める。そしてしばらくして。
「えいっ」
ぼうっ!
思っていたより3倍ぐらいの火柱が燃え上がった。
「あっつうっ!?」
「ああっ、ごめんなさい! 威力調整に失敗しちゃいましたっ……!」
「えっ、あの詠唱時間でこの火力なの……?」
レイネが驚きの声をあげる。
「……短い詠唱が苦手なんです。威力調整も、詠唱破棄どころか詠唱短縮さえできなくて……」
「ねえ、ちょっと全力で打って見せてくれる? ……もちろん絶対安全な方向と場所で」
「これは……絶対に耐えられませんわ……」
「ヤバかったんだ、あたしたち……」
「ええぇぇ……これってずるじゃない……?」
「あの……これでよかったでしょうか?」
「すごい……本当にすごいよ」
フルールの完全詠唱の魔法の威力はすさまじかった。
アイリスが絶対に耐えられないというのもわかるし、僕のヒールでも癒せない。
ヒールは原理的には生き物の自然回復を引き上げる魔法だ。ヒールで癒すには、対象は生きていなければならない。
フルールの魔法の威力の前に、それは不可能な事だった。
「ジャイアントベアじゃ足りなかったかな……」
「ううっ、力不足で本当にすみませんっ」
「いや、違う違う! ジャイアントベアよりフルールの方がずっと強い!」
「えっ……そうなんですか? 詠唱破棄も、詠唱短縮もできないのに?」
「あら、私だって詠唱破棄も詠唱短縮もできませんわよ?」
アイリスがそう語りかける。
「えっ、アイリスさんも魔法使えるんですか?」
「いいえ、私には魔法は使えませんわ。出来るのは……この盾を使って、あなたを守ること」
「……その言い方だと、ヒーラーなのに詠唱破棄も詠唱短縮もできない僕の立場がないんだけど」
「あっ! ああっ! ごめんなさいっっ!!」
「あーあー。やっちゃったねー、アイリス。これは追放かな?」
「レーイーネー!?」
「あははっ! 冗談冗談!」
「でもさぁ、不思議だよね。うちら、チートも何にもないのに、なんか強いんだもん」
「そうね、詠唱破棄も詠唱短縮もできないのに」
「レイネっ! 怒りますよっ!」
「あははは……」
でも本当にステラの言うとおりだ。僕たちにはできないことが多すぎる。
「でも、出来ることも、ちゃんとある」
僕のつぶやきに、みんながうなずく。
「わたし、このパーティーに入れてほんとうによかったです!」
フルールが花の咲いたような顔で笑った。
少しだけど確実に絆を強めた僕らは、依頼を完遂して笑顔で拠点に戻ったのだった。




