第8話 輝くサンドイッチ
翌日。
お昼は――――家族三人で州都アデリアが一望できる丘の上にやってきた。
魔獣が現れるから周りには護衛がいるけど、こういう時間も作らないとね。
意外にも兵士団は嫌な顔は一切しなかった。
こういうのも義務なのかもしれないな。
「うふふ。こうして三人でお出かけなんて久しぶりですわね」
「そうだな」
ん? 俺の記憶に三人で出かけたことなんて……。
「まだセシルちゃんは小さかった頃だもんね。ふふっ」
そういうことか。記憶もセシルちゃん(10歳)の記憶頼りだしな。
「それにしても……セシルちゃんの高熱の時は、本当にびっくりしたわ。それからセシルちゃんも少し変わったみたいだし」
「あはは……」
高熱というのは……俺がこの世界に転生したきっかけとなった病気だ。
おそらく予想だけど……たぶんセシルは一度高熱で命を落としたんじゃないかな。その原因が俺にあるのかどこにあるのかは知らない。
ほんのり目元に涙を浮かべた母を見て、少しだけ心が痛い。
だって……俺は本物のセシルではないからな。
でも、それを言っても仕方がないと思う。だって今のセシルは俺自身だし。
食費のことはあったけど……せっかくなら両親にも健康体にいてもらって、誰かが死や病気にならないでほしい。
……やっぱり二人にはダイエットにも取り組んでもらいたいな。
よし。帰ったらダイエットのプランも考えておこう。
丘の下から涼しい風が吹く。
サラサラした髪を掻き分けて少しくすぐったい。
その時――――頭に温かいぬくもりが伝わってきた。
「ふふっ。昔はこうしてよくなでなでしてたわ」
「お母様……」
「うふふ~」
何だかくすぐったい。
……誰かに頭を撫でられたのなんてもう何年前なんだろうか。大人になってから一度もない気がするし、セシルの記憶でもあまりない。
これだけ溺愛されながらも、貴族という家柄のせいでセシルと父と母の間には大きな溝のようなものがあったのかもしれないな。
「お母様! お腹空きました!」
「うふふ。セシルちゃんがお腹空いたなんて珍しいわね。さあ、今日は母お手製のサンドイッチよ!」
「おぉ~!」
サンドイッチってお出かけ定番ではあるけど、なんかすごくわくわくする。
バスケットを開くと――――中から光が溢れ出る。文字通り光だ。
えっ……何がどうなったらサンドイッチが輝くのだろう……?
中を覗くと――――そこには俺が知っているサンドイッチの形の美味しそうなパンがずらり並んでいたけど、パンが黄金色に輝いていた。しかも挟まっているものは見た事もないものだが、何となく全部美味しそうなのがわかる。
思わず、唾を飲み込んでしまった。
「うふふ。貴方。どうぞ」
父がサンドイッチを取り、次は僕の番となった。
赤と青の不思議な色合いが気になったサンドイッチを取った。
「いただきます!」
がぶりとサンドイッチにかぶりつくと――――どういうことでしょう~口の中に広がる卵の深みとパンの香ばしさが織りなす~まるで口の中にオーケストラがいるようで、今度は自分の出番だと言わんばかりにトマトの旨味とスーッと広がるソーダの香りが口の中で喧嘩することなく、全てが一体型となり、凄まじい程の幸せを感じさせてくれる。
「う、うまあああああ! えっ! お母様! 美味しすぎます!」
「うふふ。セシルちゃんにそう言われると嬉しいわ~」
いやいや、本当にお世辞でも何でもなく……めちゃくちゃ美味いなこれ。今まで食べたどの料理よりも美味しい。
自分の中で食べてきた全ての食べ物の中でダントツ一位だわこれは!
「久しぶりのお前の手料理は本当に美味しいな」
「貴方……」
「お母様! また料理作ってほしいです! こんな美味しい料理が食べられるなら、僕ものすごく頑張れそうな気がします!」
「セシルちゃん……ええ。わかったわ」
「やった~!」
何となく……母の中にあった『料理は下々の者が作るモノ』から『愛する人のために作るモノ』に戻った気がする。
それから母の手作りサンドイッチをみんなで美味しく食べた。
家族水入らずの時間を過ごしてはいたが、一つ気になることがあった。
それは――――魔獣である。
離れた場所では兵士達が魔獣と戦ってたりして、やはり異世界は前世と違って危険が溢れる場所だと再度理解できた。
ゲームでは現れた魔獣を何気なく倒して素材にして収入にしたり経験値にしたりしてたのに……ここでは脅威そのものである。
資金の問題が片付いたら……対魔獣対策を最優先に進めなくちゃな。
そのためにも、デリオン商会と決着をつけてやる。




