第5話 護衛契約作戦
馬車に乗り込んで次の場所へ向かう。
「セバス」
「はっ」
「ここでのやり取りは父にも母にも全て秘密に。絶対だ」
「かしこまりました」
セバスって父の執事ではあるけど、今回の一件で僕専属の執事にしてもらった。
馬車の中では少し慌てている俺専属のメイドのアリスがいる。
しばらく走った馬車はとある建物の前で停まった。
「ここが例の場所か」
「はい」
「では行こう」
「かしこまりました」
セバスと一緒に馬車を降りて建物の中に入る。
非常に――――小汚い。あと、中にいる人も強面ばかりで、俺達を睨みつける。
「こちらはセシル・ドルゲマイン様である」
少し驚いた強面達は慌て始めた。
すぐに奥に案内されると、顔に大きな傷がある男が待っていた。
まあ、歓迎されてる感じではないな。
「ゲスリン傭兵団のリーダーをしてますゲリスです」
当然、礼儀作法的なモノもあまりなってないな。
ではさっそく――――例の作戦を決行する!
「僕はセシルだよ~」
「……どうぞ。お坊ちゃまはどうしてこんなところに?」
「えっとね~僕が学園に入るまで州の行政を取り仕切ることになったの~」
「!?」
「今日はデリオン商会の御用達傭兵団に僕の仕事を依頼したくて来たよ!」
彼は俺の後ろに立ったセバスに視線を向けた。
見えてはいないけど、おそらく頷いて事実だと伝えているはず。
「わかりました。それでどういう依頼を……?」
「魔獣がたくさんいるみたいで、それの討伐をお願いしたいの~」
「……討伐依頼ですね。わかりました。ですが料金はそれなりにかかります」
「そっか……でも今手持ちはあまりないよね? セバス」
「はい」
「物とか利権とかで支払ってもいい?」
ゲリスが少し考え込むと、小さく口元が緩んだ。
「わかりました。現金より少し多めに払っていただく形にはなりますが、よろしいですか?」
「いいよ~」
「では依頼を受けさせていただきます」
……クククッ。あはははは! こいつめ! 俺が子供だからって甘く見てひっかかりよって!
「じゃあ、先払いしておくね~」
「先払い……?」
「セバス。あれを」
事前に用意しておいた――――質の低い宝石をいくつかテーブルの上においた。それと一緒に書状も並べる。
「そ、それは……?」
「これはデリオン商会から買った宝石だ。ちゃんと証明書もここにある。ざっと金貨15枚の価値がある。これで――――ゲスリン傭兵団は二年間契約してもらう。あ。くれぐれも……さっき言った自分の言葉をなしだなんて言うなよ?」
ゲリスの顔から冷や汗が流れる。
「俺はデリオン商会の御用達傭兵団だと聞いてきたからね。これから――――どうぞよろしく」
「っ……」
「さあ、セバス。契約を」
「かしこまりました」
もしこの段階で拒否したら、それはデリオン商会の顔に泥を塗ることになるし、さらにデリオン商会とうちの家との関係にも大きなヒビが入りかねない。
こういう裏稼業をしている彼だからこそ、その意味を誰よりも知っているはずだ。
さっきの一瞬で俺がただのバカ息子でショボイ依頼だと思ったこいつの負けだ。
彼は冷や汗を流しながら、悔しそうに契約書にサインをし、契約が完了した。
ゲスリン傭兵団全員の指揮権を手に入れたので、次に向かったのは――――兵士団だ。
「セシル様。よくいらしてくださいました!」
大勢の兵士がビシッと挨拶をしてくれる。が、やはり下の兵は顔に出ているな。『こいつ……あのバカ息子だよな』って。
「今日はセシル様から兵士長に用事があって参りました。事前に連絡はありませんが、今からお会い頂きたい」
困った表情を浮かべた兵士は「少々お待ちください」と言い残し、建物の中に全力で走っていった。
いくら貴族とはいえ、兵は王国所属でもあるため、ずかずか中には入れない。
……まあ、セシルちゃん(5歳)は勝手にずかずか中に入ったんだけどね。
俺じゃないけど、思い出すだけでちょっと恥ずかしい……。
帰ってきた兵士は「どうぞ」と緊張した表情で案内してくれた。
年季の入った建物は、歩くとぎしっぎしっと木材の音が鳴ったりする。
建物……少しボロいな。
奥にある部屋に入ると、ゲリスなんて可愛いと思えるくらい強面と、強者の雰囲気を醸している中年男性が立っていた。
「セシル様。お久しぶりでございます」
「うん。久しぶり」
「本日はどのようなご用件で?」
座ってとか言わないところを見ると、ぜっんぜん歓迎されていない。
セバスが何か言い出しそうにしてたから、手で制止した。
「今日はお願いがあってきたよ。実はこれから二年間、俺が全ての行政を仕切るようになった」
当然、強面だとしても驚く。そりゃそうだ。十歳の子供が行政を仕切ると言い出したからな。
「そこで資金を増やすためにシェイル商会に投資することになった。その護衛を兵士団にお願いしたい」
「……セシル様。大変申しにくいのですが、我々は貴族の護衛なら引き受けますが、一介の商会の護衛は引き受けかねます」
「ああ。そうだと思った。だから――――ゲスリン傭兵団と二年間の契約を結んできた。彼ら全員を戦力にしていい。その指揮を執る兵士を最小人数だけ派遣してくれるだけで構わない。名目は護衛ではなく魔獣討伐だ」
「!?」
さすがに驚きすぎたからか、ちょっと人間らしい顔になったな。
「兵士団を私利私欲で使うつもりはない。だがドルゲマイン州の治安は非常に重要な問題だ。それはそもそも兵士団の仕事でもあるはず。そこにゲスリン傭兵団を連れて州内を縦横無尽に駆け回ってほしい。ただ、その旅にシェイル商会を同行させ、彼らと共に動いてもらいたいだけだ」
「…………それは領主様からでございますか?」
「いや、俺が考えた。どうだ? やってくれるか? ――――ドルゲマイン州兵士団長サマール」
こういうのは勢いで押すのが一番だよ。
しかも兵士団長ともなると頑固者だろうし、こういう「まあ、仕方ありませんね」って感じを出した方が受け入れてくれると思う。
「……では私から一つ提案がございます」
……ん? それは……ちょっと予想外です!




