第4話 資金運用作戦
馬車で州都アデリアを走る。
ドルゲマイン州が豊かで広いだけあって、州都アデリアはかなりの広さだ。
正直、馬車なしで歩きたいとは思えない広さである。
今走ってる場所は、屋敷に近いので建物は綺麗だし、歩いている人々もちゃんと綺麗な服を着ている。
馬車はやがて大きな建物の前に停まった。
降りるとすぐに店員達と思われる制服を来た女性達と、少し年季の入った燕尾服の白髪の男が深々と頭を下げて迎え入れてくれた。
「セシル・ドルゲマイン様。お越しくださりありがとうございます。シェイル商会の商会長をやっておりますヒスリルと申します」
あ……! このキャラ! というか人だが。
ゲームでは大変お世話になるキャラなのだが、それはまた後ほど。
「ご苦労。今日は急な訪問に応じてくれて感謝する」
「ははっ」
顔を上げた彼らの表情は――――まあ、そうなりますよねって感じ。
全然歓迎ムードはなく、困惑というか……なんか、めちゃ怒ってない? 心の底から俺の訪問に怒りを感じているような、そんな表情だ。
「こちらにどうぞ」
案内された部屋は、高くはなさそうだが、非常にセンスの良さを感じる調度品達が並んでいる。
こう……芸術家って単品の値段や美しさだけじゃなく、全体の調和の美しさを追求している感じがする。
座って待っていると、すぐに紅茶を淹れてくれる。
これは、紅茶でいうならばBランクくらいの紅茶だ。
子爵家の息子に出す紅茶としては……最低限度って感じだ。
「それで、セシル様はどのようなご用件で……?」
「ああ。実はこれから二年間、州の行政を全て担当することになった」
「!?」
やっぱり驚くよね。十歳の少年がそんなことを言い出したらな。
「そこで一つ提案があって来た。セバス」
「はっ」
テーブルになけなしの大銀貨20枚をあげた。
「これは……?」
「大銀貨20枚だ。貴社に投資する」
「っ!? それはどういう……意味でございますか?」
「文字通り、ただの投資だ。これをできるだけ増やしてほしい。それ以外はとくに求めない。やり方も任せるが、何か俺に協力できることがあるなら何でも言ってくれ」
「……一つ質問させてください。それは……行政を取り仕切るようになったセシル様の権限も頼ってよいとのことでしょうか?」
こういうのは……舐められないことが大事だと思う。
前世で会社ではわりと何でもさせられた。ルート営業ではあったが、新規営業も時々やったし、その際に社長の顔色を伺う術は先輩から教わったりもした。
せっかく異世界でも交渉をしていかなければならないなら――――前世に培ったものをできるだけ使い切って、最大限に活用したい。
「ヒスリル。俺は自分が投資したからといって何もしないような――――無能になるつもりはない」
ほんの一瞬、後ろのセバスがビクッと驚く気配がした。
「あ。間違ってもお父様のことを指してるわけじゃない。お父様にはお父様のやり方がある。だが俺は別のやり方を取るだけだ。力は最大限貸す。代わりに利益をできる限り上げ、俺の資産を増やしてくれ」
「……では失礼ながら……ドルゲマイン家が保有している兵を護衛として貸してください」
後ろからセバスが小さく耳打ちをしてくる。
「セシル様。兵達にもプライドがございます。護衛は冒険者がやるもので、彼らから反発があるかもしれません」
「良いアドバイスだ。セバス。だが――――これはもう決めたことだ。彼らは俺が説得しよう」
「……かしこまりました」
「ヒスリル。今月はあまり資金がないが、来月からはより多くの資金を投じるつもりだ。それを念頭に置いて広げてもらいたい」
「かしこまりました」
「最後にもう一つお願いがある。これを――――鑑定してほしい」
俺は母から譲り受けた宝石を全て彼の前に出した。
ゲームで彼に一番お世話になる理由は、ずばりこれである。
彼はゲーム内でも随一の鑑定士で、価値がわからないアイテムの価値を鑑定してくれるし、それを買取までしてくれる優秀なNPCだった。
「…………」
「嘘は必要ない。お前から見て、一番最低限度の額を教えてくれ」
「…………本当によろしいのですか?」
……ん? まさか……。
「構わない」
「……かしこまりました。すぐに鑑定させていただきます」
彼は鑑定用の拡大鏡を取り出して宝石を一つ一つ丁寧に覗き込んだ。
その度に彼の体から淡い緑色の光が灯るのは、彼が“スキル”を使っている証拠だ。
……ちくしょ! レベル0じゃなければ何か俺にもスキルがあったはずなのによ! 製作者を恨みたいぜ。まあ、ゲームじゃないから、神を恨むの方が合ってるか?
量が多いのもあって、結構時間がかかるが、ゆっくり紅茶を飲みながら時間を過ごす。
紅茶の中ではBランクとはいえ、異世界の紅茶は全部美味しいんだよな。
「鑑定が終わりました」
「うむ。どのくらいの額になる?」
「……大変申し上げにくいのですが……全て最低質の宝石でございます」
……は?
おいおいおいおい。待て待て待て待て。どれも金貨1枚以上した宝石だぞ!? 最高級宝石だって母が嬉しそうに話してたぞ!?
「……詳しく額を教えてくれ」
「こちらのルビーは銀貨3枚。こちらのエメラルドは銀貨5枚――――」
それからヒスリルは金貨1枚もした宝石達を、百分の一以下の値段を付け始めた。
ああ……あのクソ商人。父と母の貴族としての嗜みに漬け込んで、こんな詐欺をしてきたんだな。
……許せねぇな。
「以上になります。こちら、私の方で売却を手伝えますが、どうなさいますか?」
今は少しでも金が欲しい。
もう売り払っ……いや、待て。落ち着け。このまま売り払っても、目の前の資金にはなるが今まで重なった負債としてあまりにも損だ。
それにこれが市場に流れると、あのクソ商人が勘づいて何を言ってくるかわからない。
……どうしようか。
その時、ふと頭にあることが過ぎった。
「すまない。せっかく鑑定してもらったが、一旦売却はやめておこう。それより一つ聞きたい」
「はい」
それから俺はヒスリルに一つ聞いてみた。
彼は一瞬驚きつつ、俺の質問に丁寧に答えてくれた。
……そうかそうか。クククッ。あのクソ商人。よくも我が家を騙してくれたな。
絶対に後悔させてやる!




