第48話 戦いのあとのひと時
セシルとミリアのバトルが終わり、庭には女子陣が集まっていた。
メイド達が素早く紅茶を淹れ、美味しそうなお菓子を並べては、足早にその場から去っていった。
「……ソフィ。やってくれたわね」
「お母様……申し訳ございません……」
「……それくらい彼に力を貸すということは、例の事も全部話しているのね?」
鋭い母の視線に、ソフィアは申し訳なさそうに頷いた。
「はあ……まだ一年もしないうちにそうなるとは思いもしなかったわ。ソフィが信じるなら……信じて見るに値するわね」
「お母様……ありがとうございます」
「ふふっ。ソフィが初めて言ったワガママがまさか……男のことだなんてね」
ソフィアの顔が真っ赤に染まる。
そんな二人のやり取りを見ながら、紅茶を飲んでいたエヴァが毅然とした態度でミリアに顔を向けた。
「ミリア様。お言葉ですが、セシル様はとても素晴らしい方です。疑いの余地もございません」
「エヴァと言ったわね。魔導兵団長だったわね?」
「はい」
「貴方だってまだセシルくんとはそう長い付き合いではないのではなくて?」
「残念ながら……私がセシル様と出会ったのはここ最近です。ですが、セシル様が成したことは、都アデリアやシェイル商会の方々と話しているとすぐにわかります。まもなく……ドルゲマイン州でセシル様を悪く言う人はいないでしょう」
「はあ……やる子だとは思ったけど、私の想像以上にすごい子だったわね」
「ソフィア様からセシル様との出会いの話は全部聞きました。ミリア様の見る目に感服しております」
「ふふっ。貴方もね。そういえば、貴方が作った魔法があるって言ってたけど、あれはどういったものかしら?」
「水の流れをそのまま向きを変える魔法ですね。流れの強さ次第ですけど、セシル様が予定している配管のサイズなら、真上に数十メートルくらいは送れます」
「そんなすごい魔法を作ってしまうなんて、貴方……相当才能に恵まれた魔法使いなのね。セシルくんも貴方ほどの魔法使いを雇い入れたんだから大したものね」
「ありがとうございます」
「水の流れを変える魔法ね……その魔法。名前は何て言うの?」
「名前……ですか?」
すると――――エヴァの顔が赤く染まった。
一瞬、言葉に躓いたエヴァがゆっくり口を開いた。
「え、えっと……セシル様一号……です」
「「セシル様一号」」
ミリアとソフィアの声が被る。
「は、はい……」
「……それは誰にも真似できないわね。完敗だわ」
呆れたように溜息を吐くミリアに、顔が赤くなって紅茶を飲むエヴァに、何やら焦った表情を浮かべるソフィアであった。
◆
「セシル様。お疲れ様でした」
ソファに寝そべっていると、アレンが濡れたタオルをくれたので、それで目元を冷ます。
「本当疲れたぁ……あのミリア様と交渉事なんて……もう二度とやりたくないや……」
「クククッ。お前でもあの女は怖いか」
「グン……ミリア様ってラスボスみたいなもんだぞ?」
「らすぼす……?」
「ん~一番強い人って意味」
「クククッ。あいつもミリアには顔が上がらないしな。あいつとミリアが出会った頃なんていつもびくびくしてたけど、ミリアの方が気に入ったみたいでアプローチがすごかったからな」
「グンってそんな昔から執事してたんだ」
「その頃は執事ではなかったがな」
そもそもグンと辺境伯やミリア様との関係って……どういう関係なのだろう?
「グンって珍しいよね。辺境伯やミリア様に対してため口だし。執事らしくないというか」
「よく言われる。そういうお前も俺にため口で言われて言い返してこないじゃねぇか」
「あ~。まあ、そういう執事もいるか~ってくらいかな。そもそも辺境伯との最初があれだったから」
「クククッ。あいつ、目の色変えて飛び掛かってたしな。でもああいう……素を出すのは久しぶりに見るな」
「素……?」
「辺境伯って難しいらしいからな。いつも威厳ある顔とかいうやつでいるな」
ああ……辺境伯のあの姿が素で、外では普通にしているってことか。
そういう……演じざるを得ない人だって世の中にはいるよな。
いうて俺だって……今はセシルちゃん(10歳)を演じている……。俺の素の姿って……何なんだろうな。
「へぇ。辺境伯にそういう一面があるんだ。いや、むしろ初対面のあれがそういう一面か」
「そういう見方もできるな。人というのは面白い生き物だよ」
ん……?
「何だそれ。まるでグンは人じゃないみたいな言い方じゃん」
「……ククッ。そうかもしれないし、そうでないかもしれないな」
何やら美味しそうな紅茶の香りがして起き上がると、アリスが紅茶を淹れてくれていた。
「お。アリス。おかえり~」
「ただいまです~」
俺が頼んでいた調べものが終わったみたいだ。
「それで、例の件はどうだった?」
「セシル様が心配するほどのことはありませんでした」
「そっか。もしかして……グンが先回りしてたりした?」
ちらっと見たグンが、ニヤリと笑みを浮かべていた。
まあ、それが目的でもあったし、いいか。
俺がアリスに頼んだのは、都ファリスに住む裏組織で脅威になる組織があるかどうかだ。
だって、これから地下水路に魔力補充のために毎月一度は入らなければならないし、裏組織に狙われでもしたらめんどくさいからね。
わざとグンの前でアリスに調べるように頼んだけど、さっそく片付けてくれたみたいだ。
さすがは……あのミリア様から派遣された執事なだけあるな。




