第49話 箱庭
晴天。
都ファリスにある城の裏には、美しい庭が広がっていた。
「綺麗……」
丁寧に手入れされた花と木々が空から降り注ぐ日の光を受けて、まるで輝いている海のようだ。
そんな綺麗な庭の奥に聳え立つ小さな塔。
入口の前に立つのは、ソフィアだ。
何だか……寂しい後ろ姿だ。
ほんの微かに――――肩が震えているのがわかる。
そっと彼女の肩に手を乗せた。
「っ!? セ、セシル様……?」
「ソフィア様。大丈夫ですよ」
「は、はい……」
彼女はどこか作った笑顔で俺を見つめた。
「あ~。何か緊張する時には手のひらに、こういう感じを3回書いてから飲むと緊張がなくなるって言われてるんですよ?」
「えっと……こんな感じですか?」
ソフィアは俺の真似をして左手に右手指で人の字を3回書く。
それを食べるふりをしてくれた。
「どうですか? 緊張が解けましたか?」
「……ふふっ。何だか不思議と?」
「よかったです」
ようやく、本当の笑みを浮かべたソフィアの笑顔は、周りの輝いている庭よりもずっと輝いていた。
「ソフィア様? 二人っきりで見せたいものがあるって言ってたんですけど、ここですか?」
彼女は少し困ったように笑みを浮かべては、小さく「はい」と頷いた。
この塔に……何かあるのか。
ゆっくりと扉を開けると、中からは華やかな花の匂いが広がっていた。
「外もですけど、中も綺麗ですね」
「お母様が……せめてものって」
「なるほど。さすがはミリア様だ」
俺にはあまり美術的なセンスはないけれど、少なくともそんな俺が見ても美しいと思える。
「中に入ってもいいですか?」
「ど、どうぞ!」
塔の中にも窓の外から降り注ぐ日の光が芸術的なまでに設計されている。
手を伸ばして光を掴みたくなるほどだ。
「よいっしょ」
「セシル様? 何をされているんですか?」
「いや~光が綺麗だなと思って、掴めないかなって」
「あはは~変なセシル様~」
「上がってみてもいいですか?」
「はい……!」
ソフィアと一緒に歩幅を合わせて螺旋階段を上がっていく。
その一番上の扉をゆっくりと開いた。
開いた扉にソフィアが飛び込んで、こちらを向いた。
「い、いらっしゃいませ! 私の――――部屋へ!」
そう。
この塔はソフィアを匿う……ためのものだ。
彼女が二人っきりで見てほしいと言った場所は、彼女が過ごしてきた塔だ。
中は女子の部屋らしく、可愛らしい物がたくさんあり、人形や花もたくさんあるが、一番目立っていたのは――――本だ。
「ソフィア様? 本が好きでしたよね? うちではあまり読んでないような……?」
「ちゃんと空いてる時間に読んでますよ? でも、今はあまり読む必要がないんです」
彼女は本棚からいくつか本の表紙を見せてくれた。
どれも――――絵本だ。
「以前にも話した通り、私はずっとこの塔で過ごしていたんです」
自由に外を歩けなくて、俺との婚約を喜んでいたと話していたのを覚えている。
彼女が見せたかったのは……その過去の事実なんだ。
「いつも絵本で見ていたんです……外の世界を」
「そう言ってましたね。ここが……その原点だったんですね」
「はい。だからこそ、セシル様に……ここを見てほしかったんです。私を守るために大切な家族が作ってくれたこの部屋を」
「ええ。とても素敵な場所です。僕にもできるかぎり、ソフィア様が大切にしている場所を守っていきます」
「あ、あのっ! セシル様っ!」
「? どうかしましたか?」
「わ、私が……セシル様を利用した……その事実は消えません。その上で……私はずっと貴方を見てきました。都アデリアでのセシル様。みんなの前でのセシル様。私の前でのセシル様。そんな貴方をずっと見てきました」
彼女が真っすぐ見つめてくる。
「私は……負けたくありません! こういう気持ちは……初めてです!」
「!?」
「わ、私……セシル様がっ……!」
開けた窓から風が吹いてきてソフィアの美しいピンク色の髪を掻き分ける。綺麗なくびれが露わになり、少し潤んだ瞳からは覚悟が感じられる。
そして、彼女の口からは、想像だにしなかった言葉が飛び出した。
「す、す、好きです!」
……へ?
す……好き?
スキ……?
スキヤキ……?
あ~俺も好きだよ。すき焼き。そういえば、異世界に来てからすき焼き食べてないな。
って! そうじゃなくて!
目の前に顔を真っ赤に染めて俺を見つめるソフィアの顔がある。
で、でも……どうすれば……。
「え、えっと……」
「わ、わあっ! ごめんなさい! 急でびっくりしましたよね! もう……婚約自体は結ばれているのに、こんなこと言われても……困りますよね……」
「困ることはありません!」
「セシル……様?」
「あ。え、えっと……まだ僕にとって何がどうなるかわからないですし……その……誰かを好きになるとかも……正直よくわかってなくて。でも」
「……でも?」
「婚約者とか、そういうものは関係なく」
俺は心で思ったことを彼女に伝えた。
「貴方を守りたい。貴方が大切にしているものも守りたい。だから安心してほしい。貴方は貴方がやりたいことをやってください」
彼女は少し涙を浮かべた目で、とびっきりの笑みを浮かべた。
この話を持ちまして一度完結とさせていただきます。
一か月以上連載を続けてきましたが、あまりなろうの読者さんには求められていないようなので、一度様子を見たいと思っております。
ここまで応援してくださりありがとうございました




